復興連立政権で財源措置を【成相 修】

エコノミストの成相修氏が、震災の日本経済に与える深刻な影響を踏まえて、復興に必要な財政政策を提言する。

エコノミストの成相修氏が、震災の日本経済に与える深刻な影響を踏まえて、復興に必要な財政政策を提言する。

震災直後、シンガポールにて

大震災の4日後、羽田で大きな余震を感じながら、シンガポール、マレーシア、ミャンマーへと向かった。大学や研究機関、商工会議所で今回の震災、津波、原発事故が日本とアジアの経済にどのような影響を持つかを講義するためである。

その間株安と円高が進んだが、政権からの声明は不安を増すだけだった。とりわけ原発の状況とそれに対する東電と政府の対応、記者会見は、日本の原発の競争力を貶め、政府の指導不足を露呈した。耐えることを国民に要請した菅首相の会見は日本人の資質を見下しているかに思えた。被災者のほうが、規律正しく、節度を持ち、忍耐において指導者よりも優れている。

危機の下で国民に語るべき指導者の言葉は、復興と再建に向けた国家の展望と、それを内外が強く支えること、具体的な国家再生の道筋を示すことである。1973年の石油危機後、福田赳夫首相が「全治3年」と明言し、企業、国民に明確な危機克服の路線を示した。それに対し今回の政権は、海外における「WEAKな政権」という評価通りである。

一方、かつて自衛隊を「暴力装置」と表現した政権幹部も隊員の命を掛けた仕事には感動せざるを得ないだろう。今回の原発事故処理で活躍した自衛隊や消防の感動的な会見は国民に支持された。

損失は5年で50兆円

日本の研究機関や世銀などによる震災・津波の影響は過小評価であり、次の3点を考慮する必要がある。

  • 東北6県のGDPは日本全体の12%に当たる50兆円程度。これらが全て失われたわけではないが、フローのみを見ていては判断を誤る。生産要素である人的資本と資本設備およびインフラ設備が失われており、少なくとも今後5年は生産に大きな障害となる。世銀などが20兆円と推計するGDPの損失は過小であり、災害地の直接的な損失は今後5年で50兆円程度と見るべきであろう。
  • 日本は電力発電の3分の1程度を原発に依存し、その2割を福島第1と第2が担ってきた。日本の電力の6%が供給できないと見られる。経済活動に与える影響は「計画停電」に象徴されている。ただ、停電に備えて準備しているのに実施されない状況は国民の間に、「なんだ、狼少年か」といった雰囲気を醸成し、「苦を分かち合おう」という日本人の心を弄んでいる気すら覚える。
  • 東北は日本の中でもアジアのサプライチェーンに組みこまれていた重要地域であり、アップルがipadの新モデルの発売時期を延期したのも、そうした事情によるものだ。製造品出荷額では東北は電子部品で全国の13%程度、情報通信関連で15%程度を占めている。さらに、この地域は東北大学のほか、半導体研究では世界的に知名度が高い企業が多い。同地域の部品生産が大きな打撃を受けたことは、日本の生産活動の地盤沈下をもたらすのみならず、世界の電子関連産業に大きな影響を与える。

消費税は10%に

復興に必要な財政資金は今後3~5年で40兆円が見込まれる。2011年のマイナス成長による税収の落ち込みを考慮すると、復興資金を新規国債発行で賄えば債務残高は次年度にもGDPの250%を上回ることになる。これが長期金利の上昇懸念を招き株安下での円高を惹起した。当然である。

政権からのメッセージは日本国民にも外国人にも全く理解できない。国民にひたすら「我慢」を強いる姿勢は、危機に直面する国家を率いるリーダーのものではない。今こそ復興のための時限的連立政権を、理念を持って組織すべきである。その政権で復興財源として消費税を現行の5%から10%へと引き上げる。被災地はもちろん除外する。これにより今後5年で50兆円以上の財源は確保できる。5年目以降は、これを社会保障目的税へと「衣替え」する。これしかない。真摯な検討を願う。

(3月23日 記す)

成相 修
Nariai Osamu

麗澤大学国際経済学部教授。1972年東大経済学部卒業、99年東北大学大学院国際文化研究科博士課程修了。経済企画庁調査官、OECD(経済協力開発機構)エコノミスト、JICA(国際協力機構)専門家(ブルネイ国に派遣)等を経て現職。