衆院選・国民の選択と安倍新政権への期待

白石 隆【Profile】

[2012.12.18] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

オセロゲームのような小選挙区制の破壊力

12月16日、衆議院議員総選挙が行われた。予想されたことではあるが、自由民主党は294議席を得て大勝し、公明党の31議席と合わせれば、総定数480議席の3分の2を超える325議席を占めることとなった。一方、民主党は230議席から57議席と大きく議席を減らし、藤村修官房長官ほかの現役閣僚8人や仙谷由人副代表なども落選した。オセロゲームのような小選挙区制の破壊力の大きさをいまさらながら痛感する。また、日本維新の会は54議席を得て、第3党となった。

自民党の安倍晋三総裁が「完全に自民党に信頼が戻ったということではない」と述べた通り、自民党の大勝は3年余りにわたる民主党の政権運営に対する極めて深刻な失望によるところが大きいと思う。しかし、同時に、自民党の保守主義のプラグマティズムに対する期待も大きい。

原発・消費税に下された現実的な国民の判断

今回の選挙では、原子力発電の是非、消費増税、環太平洋パートナーシップ(TPP)、公共事業が大きな争点となり、国民はこうした争点について事実上の選択を行った。選択がどのようなものだったかは、今回の選挙で惨敗した政党を見れば分かる。

「卒原発」「脱原発」、消費増税反対、TPP反対、公共事業反対と見事に政策が一致し、国民的に選択肢を提示するためには合同した方が良かったのではないかと思わざるを得ない3つの政党、日本未来の党、共産党、社会民主党が、それぞれ9議席(衆院選公示前は61議席)、8議席(公示前は9)、2議席(公示前は5)と議席を減らした。日本の直面する経済的課題について、1960~70年代の日本に戻ればいいのだ、といった調子のノスタルジックな主張を展開したこの3党がそろって敗北したことは、国民がこれは現実的な選択肢ではないと明確に判断したことを示している。

その意味で、こうした争点について、大きな方向性は選択されたと言ってよい。あとは新政権がこれを踏まえ、具体的にどのような政策をとるか、である。自民党は、エネルギー政策について、「10年以内に電源構成のベストミックスを確立する」と公約するとともに、原子力規制委員会が安全と判断した原子力発電所については再稼働していくとしている。これは大いに結構である。現在、急速に進行するシェール革命(シェールガス革命)を考えれば、エネルギー・ミックスの策定に10年くらいの時間をかけるのは賢明であるし、安全性が確認された原子力発電所を再稼働させるのは当然のことである。

消費増税は、そもそも、民主党、自民党、公明党の3党合意に基づく。安倍総裁はすでに、2014年4月に予定される消費税率8%への引き上げについて、消費増税法に景気条項があることから、「2013年4~6月の経済状況を見て最終判断する」としている。つまり、来年春までに景気を押し上げるためには、大型の補正予算を組み、公共事業など即効性の高い施策を積み上げるということだろう。これも結構である。

TPP:貿易自由化と構造改革は必須

問題はTPPである。自民党は公約で「聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉参加に反対」と明記しており、歯切れは良くない。しかし、完全にノーでもない。TPP交渉は来年早々にも本格化する。さらに、米国は来年には欧州連合(EU)とも包括的連携協定交渉を開始し、世界の国内総生産(GDP)総額の5割近くを占める自由貿易圏の創設に一歩踏み出す可能性が大きい。自民党が公約に書いた通り、「失われた50兆円の国民所得を奪還する」のであれば、貿易自由化と日本経済の構造改革は必須である。また、21世紀の通商ルール策定に参加しないという選択肢は日本の大戦略としてあり得ない。ここはまさに安倍総裁のリーダーシップが期待される。

安倍総裁はまた、「日本経済再生本部」を内閣に新設し、その下に「産業競争力会議」と「国際経済戦略会議」を設置し、また経済財政諮問会議を復活させる意向であるという。民主党政権は、経済政策などを統括する国家戦略局を構想しながら実現できないままに経済財政諮問会議を休眠状態に置いた。また、総合科学技術会議の改組をうたいながら、実際には何もしないで、科学技術イノベーション政策を放置した。(政府は11月9日の閣議でようやく総合科学技術会議の改組を決定し、総合科学技術会議の根拠となる内閣府設置法を一部改正する法案を臨時国会へ提出したが、衆議院解散でこの法案は廃案となった。)新政権の下では、これまでのように毎年策定される成長戦略ではなく、エネルギー政策、TPPなどの対外経済政策、科学技術イノベーション政策、規制緩和政策などと整合性のある、まさにどっしりと腰を据えた成長戦略を期待したい。

安倍政権に保守主義のプラグマティズムを期待する

なお、海外のメディアでは、韓国、中国はもちろん、欧米のメディアを含めて、日本の「右傾化」について懸念が表明されている。わたしは必ずしもそういう懸念を共有していないが、新政権には保守主義のプラグマティズムをぜひとも期待したい。わたしは原則論としては憲法改正に賛成であるが、いまがそのときとは思わない。また、尖閣諸島の領有権の問題(さらには、竹島、北方領土の問題)はこれから長期にわたって解決される見込みはない。もちろん相手のあることであるが、いま必要とされるのは、尖閣諸島の実効支配を確実なものとすべく、海上保安庁、自衛隊の強化を粛々と進め、またこの問題についての日本の立場が妥当なものだと国際社会で受け止められるよう努力する一方、この問題が、経済その他の問題に響かないよう、封じ込め、棚上げする方策を探ることである。

(2012年12月17日 記)

  • [2012.12.18]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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