劇場政治と政治不信

小倉 和夫【Profile】

[2011.12.12] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

大阪府知事と大阪市長を同時に選ぶ、ダブル選挙で、大阪府と大阪市の統合をとなえる政治勢力が、知事と市長の双方で勝利を収めた。

選挙の争点は、表面的には、日本の地方行政における県ないし府と、大きな権限を持つ、いわゆる政令都市との間の行政の重複をなくして、一つの地方自治体に統合しようというアイデアをめぐるものであった。日本における地方自治のありかたを問う選挙だった。

「維新」を望む国民心理

しかし選挙の深層にメスをいれてみると、この選挙は、現在の日本の政治状況の特徴が浮かび上がる。

ひとつは、既存政党、既存の政治制度に対する有権者の不信感である。既存の政党を激しく攻撃し、19世紀の明治維新にならって、現代の「維新」を掲げた候補に、政権政党も野党もともに支持した候補が大差で敗れたことは、国民一般が、既存政党、そして現存の政治制度そのものに不信をいだいていることを意味している。

こうした有権者の、政党、政治制度への不信は、日本だけに限らない。アメリカで、「チェンジ」をかかげた候補が当選し、茶会党の政治運動が盛んになっているのも類似した現象である。日本ではそもそも、数年前、自由民主党に変わって民主党が政権をとったものの、政策そのものよりも「チェンジ」を望む国民の心理が強く影響したことは疑えない。

今回のダブル選挙の深層にひそむもう一つの特徴は、「重複をなくせ」というスローガンとか、政治の争点を極端に絞って分かりやすく単純化してしまうといった政治手法が、大きな成功をおさめた点だ。

こうした二つの潮流、すなわち、既存制度への不信と政治的争点の単純化は、いわば劇場政治の特徴といえる。たしかに、変革と革命にはドラマが必要だ。しかし、政治不信と争点の単純化こそ、独裁的政治体制を生んだものであることも忘れてはなるまい。

(2011年11月29日 記)

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  • [2011.12.12]

青山学院大学特別招聘教授。東京2020オリンピック・パラオリンピック招致委員会評議会事務総長。1938年生まれ。東京大学法学部、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。1962年外務省入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官、駐ベトナム大使、駐韓国大使、駐フランス大使などを歴任。2003年10月から 2011年9月まで独立行政法人国際交流基金理事長を務める。著書に『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社/2004年)など。

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