日本の家族よ、どこへ行く——「多様化」 それとも「バーチャル化」?

山田 昌弘【Profile】

[2016.02.18] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

家族には、二つの側面がある。一つは、①経済的に豊かな生活を築くという側面、もう一つは、②好きな人と一緒に暮らして愛情欲求を満足させるという側面である。

近年まで、先進諸国では、「夫は主に仕事、妻は主に家事」という形をとることによって、家族の二つの側面を満足させてきた。しかし、ここ30年ほどに起こった世界経済の構造転換によって、この「性別役割分業型家族」は、その限界を迎えつつある。

成長経済の終えん、経済格差の拡大が背景に

近代社会成立以降、1975年ごろまでは、欧米、日本などの先進工業国においては、「性別役割分業型家族」がその標準的モデルとしてあった。人々は、そのような家族形態を理想とし、現実に多くの若者がこのタイプの家族を築いていった。

その背景には、先進国の工業による成長経済があった。先進国では、企業に勤める男性労働者の雇用と収入が安定していたからである。ほとんどの男性は家族を経済的に扶養する収入を得ることができたし、ほとんどの女性は、結婚して家事育児に専念する専業主婦となることができ、豊かな生活を築くことができた。恋愛結婚も普及し、多くの人が、好きな人と結婚し、経済的に豊かで愛情溢れる家族生活を築くことができたのである。

1973年のオイルショック(Gulf Oil Crisis)以降、先進国の経済成長率は鈍化する。工業による成長は限界を迎え、「脱工業化(post-industrialization)」と言われるようにサービス業中心の経済が出現する。グローバル化が進行し、工場の発展途上国移転が進み、オートメーション化、IT化が進む。その結果、高収入が得られる専門的な職も増える一方で、安定した職は減少し、失業や低収入のパートタイムの職が増える。いわゆる、「ニュー・エコノミー」の時代が到来し、ロバート・ライシュ(Robert Reich)やトマ・ピケティ(Thomas Piketty)の言うように経済格差が拡大する。その結果、妻子を養うに足る収入を得られる男性の割合が減少に向かう。これが、先進諸国で「性別役割分業型家族」が限界を迎えた理由である。

欧米で進むライフスタイル革命

しかし、同時期の1970年代以降、米国や北西ヨーロッパ諸国、オセアニアでは、ライフスタイル革命というべきものが進展する。それは、フェミニズム運動の浸透、そして、性の解放によって、多様なライフスタイルが試みられるようになる。女性の職場進出が加速し、経済的に自立することが可能になる。若者が結婚以前に性関係を持ち、同棲することが一般化し、未婚での出産が増える。離婚が認められるようになり、嫌いになった配偶者と別れる自由を手にする。

「性別役割分業型家族」は減少したが、その代わり、家族の多様化が進んだのである。これは、若者の家族形成において、「親密なパートナー」と愛情溢れた生活を築くことが優先課題となり、経済的な生活は、共働き、そして、社会福祉によって乗り切るという方向が示されたのだ。

そして、21世紀に入ると、オランダやフランス、英国など同性間での結婚を認める国も増えている。そして、従来「性別役割分業型家族」へのこだわりが強かったイタリアやスペインなど南欧諸国(ギリシアを除く)でも同棲や未婚での出産が急増するなどライフスタイルの更なる多様化が進んでいる。

表1 欧米各国と日本の婚外出生率 (%)

1970年 1990年 2012年
スウェーデン 18.6 47.0 54.5
フランス 6.8 30.1 56.7
英国 8.0 27.9 47.6
米国 10.0 28.0 40.7
ドイツ 7.2 15.3 34.5
スペイン 1.4 9.6 39.0
イタリア 2.2 6.5 25.7
日本 0.9 1.1 2.2

資料:Eurostat、厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」、米国商務省 「Statistical Abstract of the United States」

「性別役割分業型家族」から抜け出せない日本

日本では、戦後から経済の高度成長期にかけての工業化の時期に、「性別役割分業型家族」が普及する。そして、オイルショックを乗り切り、1992年のバブル経済崩壊までは、男性の雇用は大変安定しており、多くの若者は、「夫が主に仕事、妻は主に家事」型の家族を作ることができた。

しかし、日本でも、1990年代後半から、グローバル化の進展と共に、男性の雇用が不安定になる。男女とも若者の非正規雇用者が増大し、正社員の給料の伸びも小さくなった。妻子を養って豊かな生活を築くことができる男性の割合は、欧米と同じように低下しているのである。

しかし、日本では、ライフスタイル革命の影響は限定的であり、家族の多様化は他の先進国のようには進展していない。

まず、女性の職場進出を見てみよう。確かに、女性雇用者は増えているが、子育て期の女性の専業主婦率は、先進国の中では高水準である。更に、働く既婚女性の3分の2はパート雇用である。その結果、結婚した夫婦の大部分は、夫の収入に頼って生活しており、「性別役割分業型家族」の基本は崩れていない。

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  • [2016.02.18]

1957年東京生まれ。86年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。2008年4月から中央大学文学部教授。専門は家族社会学、感情社会学、ジェンダー論。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999)、『少子社会日本 もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店、2007年)、『家族難民』(朝日新聞出版、16年)等。

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