特集 人口減少社会が突きつける現実
「家族形成格差」の時代
“パラサイト・シングル”の末路

山田 昌弘【Profile】

[2012.07.03] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

日本の少子化の背景には、若い世代の間に根強く残る伝統的な家族意識がある。かつて成人後も親に依存して生活する若者たちを「パラサイト・シングル」と名付けた山田昌弘中央大学教授が、日本の家族の現状と今後を解説する。

日本とヨーロッパの少子化の違い

同じ少子化現象といっても、日本(及び東アジア)と北西ヨーロッパ(英・仏・独、北欧、オランダなど)の少子化を同列に扱うことはできない。端的に言えば、北西ヨーロッパでは、若い人のライフスタイルの選択肢が増えたために起こっている。一方、日本では逆に、ライフスタイルの選択肢がないために子どもの数が減っているのである。

1960年頃までは、欧米先進国においても「夫は仕事、妻は家で、子どもを育てる」という家族が一般的であった。 しかし、 北西ヨーロッパでは、1960年代以降、「ライフスタイル革命」というべきものが起きた。 フェミニズム運動などによって、伝統的な家族を離れ、結婚前に性関係をもつ、結婚届を出さずに同棲する、結婚後も女性が働き続けるといった選択肢が開かれ、さまざまなライフスタイルが試され、許容されるようになった。 その結果、「子どもをもたない」もしくは「子どもは一人」というライフスタイルを選ぶ若者が増えたために、少子化が生じたのである。 それは、女性の仕事での自己実現意識が高く、若者は親から独立して生活しており、また、男女交際が活発に行われていることと関連している。

日本においては、北西ヨーロッパの状況とは大きく異なっている。 社会が変化しているのにも関わらず、伝統的な家族意識(夫は仕事、妻は主に家事で子どもを育てる)が若い人の間でも強く残っているために少子化が起きているのである。 日本でも、結婚前の性関係が許容されるようになったという点では、性の解放は多少進んだ。 しかし、ライフスタイル革命やフェミニズムはあまり浸透しなかった。 例えば、現在でも未婚の若者の同棲率は、2%未満(2010年、1.6%)。 結婚によらない子どもの出生も2%程度(2008年、2.1%)と極めて少ない。

そして、キャリアで活躍する女性も出てきたが、既婚、未婚を問わず、パートや派遣など不安定な仕事に就く女性がいまだに多い。その結果、女性が仕事では自立できずに、夫に経済的に依存しなければやっていけないという状況には変化がなかった。 そして、私が「パラサイト・シングル」と呼ぶように、未婚者の大多数は、成人後も親と同居しており、また、男女交際も不活発である。

そして、重要なのは、未婚者の結婚希望率が高いことである。未婚率が上昇したのは1980年代以降だが、多少の上下があるものの、未婚者の結婚希望率は、約9割程度と高い割合を保っている。つまり、結婚して伝統的家族(夫は仕事、妻は家事と育児)を実現したくても、その条件が整わないため、結婚、出産をしない人が増えている。それが未婚化、そして、少子化につながっている。「家族形成」がうまくいかない若者が増えているために、日本で子どもが少なくなるのだ。

その結果、家族のあり方に根本的な変化はなく、「家族形成格差」というべきものが生じている。つまり、従来通りの伝統的な家族をつくり生活している層と、つくることができないで未婚に滞留する層である。若者がこの二つに分裂していることが、今の日本の家族を特徴付けている。

現代日本の家族形成の特徴を、他の欧米諸国と比較して異なっている点を中心に、考察しておこう。

カップル形成力の低下

まず、日本の少子化は、主に「未婚化」、つまり結婚しない人の増加によってもたらされていることである。近年、結婚している夫婦の子どもの数も低下傾向にあるが、それ以上に、未婚化、晩婚化傾向が著しい。2010年の国勢調査によると、30代前半の未婚率は男性47.3%、女性34.5%となった(下図)。そして、日本の未婚化は、非カップル化も意味している。日本では男女交際は不活発なのだ。若年の未婚者の中で恋人がいる人の割合は、1990年以降4割以下であり、2010年には、男性25%、女性35%まで低下している。そもそも、男女がカップルを形成しなければ子どもは生まれない。現代日本では、結婚はもとより、カップル形成力も弱いのである。

男女交際が低調な理由の一つに、恋愛、結婚の延長に家族生活があるという意識がいまだに強いことがある。男女交際を始める前に、結婚して生活できる相手とのみ交際しようという傾向が強いからである。

夫の収入で暮らすが多数派

結婚せずに働き続けたい女性が増えたから未婚化が生じたという説が一般的に流布しているが、これは、日本においては、一部の女性にしか当てはまらない。それは、意識調査において、仕事を理由に結婚したくないと答える女性が少数派だということからも分かるし、結婚後、夫への経済的依存志向が強いことでも分かる。また、2000年に入ってから、専業主婦志向が20代の若年女性層で強まっているといういくつかの調査結果も出ている。

結婚後の生活にはお金がかかる。そして、結婚後は夫の収入で暮らすことを当然と考える未婚女性がいまだに多数派を占めている。もちろん、結婚後女性が働いても、夫に十分な収入がないのは困るという意識が強い。結婚相手に求める条件として、「収入」や「職業」を考慮する女性が大多数を占め、近年その傾向が強まっているという調査結果も出ている(国立社会保障・人口問題研究所)。 

私と明治安田生活福祉研究所が行った未婚者調査で、結婚相手に求める年収を聞いたところ、男性は「こだわらない」が大多数を占めるが、女性は、高年収の男性を求める傾向が強いという調査結果がある(下図参照)。結婚相手に年収400万円以上の収入を期待する女性が68%と3分の2を超えるのに、現実に年収400万円以上を得ている未婚男性は4分の1にすぎない。この二つの図表を見比べれば、女性が結婚相手の男性に期待する年収と、現実の男性の年収のミスマッチが起きていることは明らかだろう。

若年男性の収入低下・二極化・不安定化

先の図表にあるように、未婚女性が配偶者に求める年収に見合った男性が少ない。それが未婚化の主因なのである。女性にとって、伝統的な家族形態、つまり、「夫が主に稼ぎ、妻が主に家事で、子どもを育てる」ことを可能にする未婚男性の絶対数が少なくなっている。従来型家族をつくりたくてもつくれない若年者が増大しているのだ。

これは、若年男性の収入が相対的に低下(1974~)している上に、二極化(1997~)しているという事情による。1973年のオイルショック以降、若年男性の相対的な低下が起きると共に、1990年代後半から、経済構造の転換によって、「非正社員化」が特に若年層で進行する。この結果、安定した企業の正社員になった若者と、不安定な非正規社員となった若者の格差をつくり出す。それは、家族格差に結びつく。つまり、正社員で安定した収入を稼ぐ男性は結婚しやすく、「夫は仕事、妻は家事で子どもを育てる」従来型の家族を形成する。しかし、非正規社員など収入が不安定な男性は、結婚相手として避けられ、未婚に留まる。後者の数が、ここ20年で増えていることが結婚減少の直接の原因になっている。

次の図表で分かるように、1992年以降、未婚者の正社員率が低下している。無職率も男性で増加し、30代未婚男性の9人に1人は無職となっている。

パラサイト・シングル現象

もし、欧米のように大多数の成人未婚男女が一人暮らしであれば、事情は異なっていただろう。一人暮らしでは生活が苦しいが、二人分合わせればなんとか生活できるという状況が、結婚や同棲を増やし、さらに、女性の職場進出を促進させたと考えられる。

しかし、日本においては、未婚者の大部分は、成人後も親と同居し続けている(成人未婚者の約8割と推定されている)。私は、この状態をまるで親に寄生(パラサイト)して生活しているように見えることから、パラサイト・シングルと名付けた (1997年日本経済新聞掲載の記事)。自分の収入が少なくても、親と同居していれば生活は可能である。非正規社員での収入は、一人暮らしや結婚して自立して生活するには不十分な金額だが、親と同居したまま小遣いとして使えば、余裕をもって生活できる。

特に女性は、理想的な相手と出会うまで、親元で待つことができる。収入が不安定な男性と交際するよりも、親元で生活しながら、結婚相手として十分な収入を稼ぐ男性との出会いを待つという戦略がとられるのだ。これが、日本で男女交際が不活発な理由であると推察する。もちろん、何割かの女性は、収入が安定した男性と出会って結婚して、親元を離れる。しかし、収入の安定した男性の数には限りがあるので、多くは親と同居し続けることになる。

一方収入が不安定な男性の方も親元に留まり続け、収入が高くなったら、そして、自分の収入でも構わないという女性が現れたら結婚に踏み切るだろう。しかし、そのような状況はなかなか来ないので、やはり、親と同居し続ける人が増える。

下図は、親と同居の若年、壮年未婚者の人数と同年代に占める割合の変化を示したものだが、1980年〜95年に人数、率共に上昇している。若年者の場合は、2003年に人数的にはピークを迎え、1200万人強となる。この世代の人口が減少するにつれ、数的には減少するが、同年代に占める割合は今でも上昇しつつある。

性別役割分業型モデルは限界に

以上の未婚化状況は、戦後から高度経済成長期に日本に普及した家族モデルが、今限界を迎えていることを示している。それは、「夫は主に仕事、妻は主に家事で、子どもを育て、豊かな生活を目指す」という性別役割分業に基づいた家族である。そして、今起こっているのは、若者の間でこのようなモデルをつくれる人と、つくれず未婚に留まる人との間で格差が生じているということである。

経済の高度成長期(1955〜1972)においては、ほとんどの若年男性が正社員になることができ、収入は安定し、上昇していったので、ほとんど全ての若者が、伝統的な家族モデルをつくることができた。しかし、1973年のオイルショックをきっかけにして、若年男性の収入の伸びが鈍化する。すると、若年女性は結婚後の生活を考え、男性の収入が高くなるまで結婚を先延ばしにしようとする(晩婚化)。 先延ばしが可能だったのは、比較的豊かになった若者の親が成人後の同居を許していたからである。 ここに、「パラサイト・シングル」が誕生するのである。 一方既婚女性は、夫の収入の伸び悩みに対して、パート労働をすることによって、豊かな生活を維持した。これが既婚女性の労働力化を促進した。 この時期は、「豊かな生活をめざす性別役割分業の家族」の基本は崩さず、微修正の時代と言ってよいだろう。

しかし、1990年代後半、特に、1997年のアジア金融危機をきっかけにして、いわゆるフリーターと呼ばれるような非正規雇用の若者が一気に増える。経済が構造転換期を迎え、多くの若者が正社員として雇用されることは難しくなっている。しかし、正社員であれば、終身雇用は維持されたので、結果的に、正社員と非正社員の格差が目立つ時代になった。 そして、正社員男性は従来型の性別役割分業型家族をつくることができても、非正社員男性は、一人の収入では妻子の豊かな生活を支える見通しが立たなくなる。 その結果、未婚化、そして少子化が生じることは既に検討した。

社会の分断化を食い止める対策を

では、今後はどうなるのだろうか。 安定した収入の夫に支えられている家族は、今までと同じような生活パターンが続いていくだろう。 問題が全くないわけではないが、今までと同じ形での対応が可能である。

しかし、親と同居のまま中高年に突入する未婚者が今後増大する。 それは、親が高齢で子が中高年の核家族、もしくは、ひとり親家族というべきものである。統計研修所の西文彦氏の集計によると、壮年(35〜44歳)の親同居未婚者は、2010年の時点で295万人、当該人口の16.1%を占め、増大中である(前述の図表参照)。そして彼らの失業率は同じ年齢層の既婚者よりもかなり高い。

現在、親の年金や資産によって支えられているが、親が亡くなった時にどのようなことが起きるのかはいまだに想像ができない。また、現在、高齢者虐待が増加しているが、それも、同居している中年の未婚の息子が加害者であるケースが増えている。 これも、新たな形の家族形態が増えている結果起きている現象なのである。

また、現在子どもを育てている家族にも問題は残っている。今までは、中高年の親に経済的に余裕があったために、低収入の息子や娘を支援することができた。しかし、今後、経済的に余裕のある親と、そうでない親に分断されていく可能性が十分にある。その際、親に頼れない不安定就労の若者が多数貧困に陥ることが予想される。つまり、結婚したくてもできない、そして、親にパラサイトしたくてもできない若者が出現するのだ。

このままでいくと、さまざまな形での分断が進行し、社会に亀裂をもたらすことは必定である。若者はもちろん、中高年のパラサイト・シングルを含めた、雇用や社会保障などを充実させるなどの、早めの対策が必要である。

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  • [2012.07.03]

1957年東京生まれ。86年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。2008年4月から中央大学文学部教授。専門は家族社会学、感情社会学、ジェンダー論。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999)、『少子社会日本 もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店、2007年)、『家族難民』(朝日新聞出版、16年)等。

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