香港の「脱政治化」は可能か?:新行政長官の難しい挑戦

倉田 徹【Profile】

[2017.09.02] 他の言語で読む : 繁體字 |

2017年7月1日、香港は中国返還から20年を迎えた。日本でも多くのメディアで、この機に香港のこれまでを振り返る大型の特集報道が行われたが、香港にとっては、この日は過去を振り返る以上に、新しい政治の幕開けを意味する日であった。林鄭月娥(りんてい・げつが)氏が4代目の行政長官にこの日就任し、高官人事が一新されたからである。新長官に任された今後5年の香港政治は、どのような展開になるであろうか。

習近平国家主席の宿題:難題への再挑戦

6月29日、物々しい警備の中、習近平国家主席が就任後初めて香港に降り立った。7月1日の返還20周年式典と、林鄭月娥新行政長官らの就任式への参加が目的であった。

注目されたのは、就任式での習主席の講話であった。事実上、新長官に対し北京からの「宿題」を言い渡す場となるからである。

宿題は、重いものとなった。

習主席は「現在、『一国二制度』の香港での実践は新たな状況・新たな問題に直面している」として、香港の現在の問題点を列挙した。いわく、国家の安全を守る制度が不完全、歴史・民族文化の教育・宣伝が弱い、社会に重大な政治・法律問題への共通認識がない、経済発展が試練に直面している、住宅などの市民生活の問題が大きい…。続いて習主席は、「一国二制度」では「一国」が根本であり、国家の主権や安全に害を与えたり、中央政府の権力や香港基本法(北京が定めた香港の「ミニ憲法」)の権威に挑戦したり、香港を利用して大陸に対して破壊活動したりすることはいずれも絶対に許さないと警告、若者への愛国教育の強化も求めた。

この発言には、返還後の香港情勢に対する北京の不満が集約されている。政府の転覆や国家の分裂、国家機密窃取(せっしゅ)などを禁ずる「国家安全条例」案は、2003年に巨大なデモにより廃案となってしまった。07年に胡錦濤前国家主席が求めた愛国教育の導入も、12年に反対運動の結果撤回された。北京が提案した選挙方法を民主派が受け入れないため、民主化は停滞している。返還前、香港は中国経済のけん引役を期待されたが、返還後はむしろ中国経済の成長から支援を受ける存在となった——講話からは、返還以来20年間の誤算に対する習主席のいら立ちがうかがえる。習主席は「国家安全条例」や愛国教育に再挑戦するよう、林鄭長官に改めて命じたのである。

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  • [2017.09.02]

立教大学法学部政治学科教授。1975年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。大学院在学中に在香港日本国総領事館専門調査員。金沢大学人間社会研究域法学系准教授を経て2013年から現職。中国現代政治が専門。著書に『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会)=2010年度サントリー学芸賞

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