台湾の馬英九総統再選
中国・米国・日本との関係はどうなるか

松田 康博【Profile】

[2012.02.23] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

台湾の総統選挙で中国国民党の馬英九総統が再選された。今後の中台関係、日本・米国との関係におよぼす影響を台湾問題の専門家が分析する。

2012年1月14日、中国国民党(国民党)の馬英九総統が、最大野党である民主進歩党(民進党)の蔡英文主席を689万1,139票(51.60%)対609万3,578票(45.63%)で下して再選された。立法院(一院制国会に相当)の全面改選も同時に行われ、113議席の内、国民党が64議席と単独で安定多数を確保した。馬英九政権は総統選挙と立法委員選挙の双方で対中融和路線を信任されたということができる。台湾の主流の民意は、中国大陸との安定した関係による経済発展を求めている。

馬英九は、リーダーシップの弱さ、景気や個人所得の落ち込み、中国との「和平協定」構想などに対する批判を受け、途中苦戦を強いられたが、最後には蔡英文との差を引き離して逃げ切った形となった。蔡英文は、安定を求める中道の有権者から幅広い支持を受ける馬英九を攻めあぐね、多数の有権者に期待を与えることができなかった。

中台関係の深化はどこまで進むか

対中融和路線を進める馬英九が再選されたことで、今後どれだけ中台関係が深化するかが注目される。中台の経済交流や制度設計のための中台対話は、容易なものがほぼ終わり、サービス業の開放、投資保護協定や租税協定の締結など、困難な課題ばかりが残っている。これらの領域の交渉でつまずくと、馬政権の2期目の経済状況や対中国関係は安定というよりもむしろ停滞してしまい、3~4年目にはレイムダック化してしまう可能性さえある。

加えて、これまで後回しにされてきた政治関係がどこまで進むのかが焦点となる。馬は2011年10月に中国との「和平協定」の可能性を、さらに条件として公民投票を課すと発言し、支持率を落した。台湾では「和平協定」と「統一協定」は混同されており、現状維持を望む住民が9割を越える台湾で、「和平協定」の文案が公民投票を通過する可能性はゼロに近い。また協定には相手がいるが、指導者交代期を迎える中国の反応も読みにくい。

そもそも今後の平和的枠組みを構築する中台間の「和平協定」締結を、誰が交渉・会談するのか、胡錦濤と馬英九が会談するなら、どこでどのような肩書と形式で会談するのか、どのような文言にするのか、そしてその内容は誰によって、どのように担保されるのかなど、想像を絶する困難な交渉を経る必要がある。

ただし、将来を拘束する平和的な枠組みを作り上げるのではなく、その第一歩として、国共内戦以来の「敵対状況の終結」を宣言するのは比較的容易である。しかし、残された時間は短く、即準備を始めなければ間に合わない。馬英九政権が中国との政治関係発展にどれだけ積極的かは、2012年5月以降に発表される新政権の人事配置を見れば想像がつくだろう。

米国・日本との関係はどうなるか

中台関係が安定化することを前提とするなら、台湾は米国や日本とどのような関係を目指すだろうか。馬英九政権は対中融和のみならず、対中バランス政策もとってきた。その最大のパートナーは米国であり、米国が台湾を支援する最大の象徴が武器売却である。中国は米国が台湾向け武器売却を発表するたびに、軍事交流などを一方的に打ち切るなどして対抗措置を執ってきた。

しかし、馬総統が繰り返し呼びかけたにもかかわらず、老朽化したF-5Eの代替機として要求されたF-16C/D型について、米国は前向きの反応を示さなかった。中国との関係をおもんぱかって、今後米国は戦闘機の対台湾売却を控えるのであろうか。

米国が台湾に戦闘機を売らなくなったら、台湾空軍の主力戦闘機の戦力は十数年で現在の半分近くまで減ってしまう。つまり、そのことは米国が将来台湾防衛に直接責任を負うか、あるいは台湾防衛をあきらめるのとほぼ同じ意味を持つ。アジア・太平洋重視に回帰した米国が、そのような政策転換をするとは考えにくい。いずれタイミングをみて米国は台湾に主力戦闘機売却の決断をしなければならないはずである。

次は、対日関係であるが、馬英九政権は現状の基礎の上でさらに関係発展を目指すことになるであろう。馬英九総統は当初「反日」のレッテルを貼られていたが、馬英九政権は「台日特別パートナーシップ」を唱えるなど、日台関係強化に前向きであった。

これまで、台湾の国際的空間拡大を阻止するため、中国が日本に強い圧力をかけ、日本が台湾との関係に苦慮してきた。ところが中台関係が安定している現在、日台関係を強化しても、台湾の反発を恐れて中国はそれに反対しにくくなった。こうした変化が、2010年に交流協会と亜東関係協会で実務的な協定が結ばれた背景となっている。

今後とも馬政権は、各種協定の締結など、日本との関係強化を進めようとするであろう。中台関係が安定化・強化されれば、米国や日本にとって台湾との関係強化は必要性が増す。この地域における影響力強化策は、中国の独占物ではない。しかも(米国の対台湾武器売却を除き)台湾との関係強化に対して従来加えられてきた中国からの圧力は確実に低下している。日米のみならず、多くの国にとって台湾との関係強化のチャンスは拡大していくであろう。

(2012年2月13日記)

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  • [2012.02.23]

東京大学東洋文化研究所教授。1965年生まれ。慶應義塾大学博士課程単位取得退学。法学博士。米国アジア太平洋安全保障研究センター、ヘンリー・L・スティムソン・センター、台湾綜合研究院客員研究員、防衛省防衛研究所主任研究官を経て現職。

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