「日本型」いじめの構造を考える

杉森 伸吉【Profile】

[2012.10.24] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

大津市の中学2年男子生徒の自殺問題を受けた文部科学省のいじめ緊急調査で、ことし4月から9月までに全国の小中高校などが把握したいじめの件数が約7万5千件、昨年度1年間(7万231件)を半年で上回った。日本のいじめの特徴を考察しながら、深刻化するいじめ問題への取り組みを探る。

いじめは、どのような国や地域でも起こりうるが、その表れ方には、共通点がある一方で、いじめの種類やいじめを見たときの反応、またいじめられたときの受け止め方などに、相違点が見られる。相違点を知ることで、日本のいじめの特徴も見えてくる。

いじめの国際的な「共通点」

いじめの種類のうち、国際的に共通して一番多いのは、悪口やからかいである。おそらく、いじめとしては比較的軽微で実行しやすく、いじめの初期から生じやすいからだろう(図1)。

一方で、暴力が横行する社会や、実力主義なほど、肉体的な暴力によるいじめが幅を利かせる傾向がある。生きるための社会経済的な資源(収入、社会的地位、教育機会など)が一部の人たちに極端に傾斜配分されるために、資源の奪い合いが生じ、弱肉強食の論理が優勢になる社会では、ルール破りやモラルの低下も目立つようになる。こうした大人社会の構造が、子どもたちの人間関係にも反映されると考えられる。

日本も戦後の貧しい時代には、社会での暴力や犯罪も多く、弱肉強食タイプのいじめが多かった。そういう社会では、いじめがあるのは当たり前で、いじめられるほうが悪くて、いじめられるよりは、いじめるほうが良いし、いじめはこどもたちの健全な社会化のために、むしろ必要だという論理が支配的になる。

格差社会での弱肉強食型いじめ

戦後だけでなく現在でも、バブル経済の崩壊後は、格差社会という名の弱肉強食型の社会に傾いている。2011年10月の滋賀県大津での中学2年男子生徒の自殺事件や、2007年に神戸市の私立滝川高校でおきた自殺事件などは、いじめというよりは犯罪というべき、弱肉強食型の攻撃に起因している。育った環境が弱肉強食の場合は、力の強弱の論理で行動する子どもが増える。こういう弱肉強食型のいじめは、ペッキングオーダー型のいじめとも言えるだろう。ペッキングオーダーとは、トリの群れなどの中にある力の序列(order)のことである。より強いものが、より弱いものを突っつき(peck)、弱いものはさらに弱いものを突っつく。エサを食べるときなどに、強いものが弱いものを追い払ってしまい、強い順に食べるようになる。エサの量(人間社会での資源に相当する)が限定されて全体に行きわたらない場合には、特にペッキングオーダーがものをいうようになる。

だれもが加害者になれるネット社会

いじめる側の共通点の一つは、いじめる側がなんらかの欲求不満(フラストレーション)を持っていることである。このことは、社会心理学の欲求不満攻撃理論(欲求不満がたまると、その人の攻撃性も高まる)から理解できる。実際、家庭や学校で子どもが受けるストレスによる欲求不満が高まるほど、いじめる可能性が高まる。いじめる側へのカウンセリングなども有効である。

対面的ないじめでは、力の弱い側が強い側をいじめることはない。しかし携帯電話やパソコンを使ったネットいじめ(cyber bullying)では、力の強弱にかかわらず匿名で、さらにときには複数の別の人間になりすまして、いじめることも可能だ。誰もがいじめる側にまわりうるネット社会では、欲求不満をいだく人数に比例してネットいじめが生じうる可能性も考えられるので、欲求不満が生じても、いじめをしようと思わない子をどう育てるかが、教育上の大事なポイントになる。

もう一つ、いじめる側に比較的共通しているのは、集団内で人気があり、頭が良く、ソーシャルスキルも高い子がいじめをするケースが少なからずある、ということだ。教師や大人からも気に入られ、信用されていて、いじめを隠すスキルが高く、仲間からも支持があるような子は、いじめの合意を作りやすいからだといえるだろう。

相互協調的な社会では「関係性攻撃」が多い

いじめには、体や持ち物に直接危害を加えるもの(比較的男子に多く、学年が上がると減少傾向)から、陰口・仲間はずれ・無視というかたちで、仲間関係から疎外する、人間関係という関係性を使った攻撃(比較的女子に多く、学年が上がるほど増加傾向)もある。女性は、仲間とつながっているという安心感が喜びの源の一つになりやすく、仲間関係での活発なコミュニケーションを好む傾向が強い。男子の場合も、仲間とのつながりが安心感の源になるが、おしゃべりよりも一緒にスポーツをするなど体を使った活動がつながる手段であることが多い。図1を見ると、「無視・仲間はずれ」が多いのは男性より女性で、特に日本の女性で多いことがわかる。

このように、いつも仲間とつながっていないと不安になるような関係性を育む社会では、関係性攻撃が被害者に大きなダメージを与えるので、有力ないじめの手段となる。一方で、「人は、一人一人異なるし、それぞれが独立に生きるのが心地よい」と考えるような人(欧米に代表されるような、個人主義的、相互独立的な社会に多い)に対しては、関係性攻撃は、あまりダメージを与えない。

国立教育政策研究所が2004年から2009年にかけて行った追跡調査では、「無視・仲間はずれ・陰口」を経験した人は、2004年の中学1年6月時点の41.6%から、2006年の中学3年11月時点では80.3%に増加している。さらに、2004年に小学校4年生だった児童が、2009年の中学3年生になるまでには、90.3%が「無視・仲間はずれ・陰口」を経験していた。

傍観反応と集団主義的自己防衛

「いじめを見たときに、止めに入りますか?」という質問について「はい」と答える人の比率が、他国では年齢が上がるにつれて単純に増える傾向にあるのに対して、日本ではいじめの多発期(小学校5年生頃から中学校2年生くらいまで)には低下する傾向がある。つまり、思春期のころにはいじめがあっても、傍観したり、無視したりする子が、一時的に多くなる。このことはおそらく、「ホンネとタテマエ」と関連するだろう。集団内で自分たちのホンネ(たとえば、「いじめたい」)にもとづくルールが形成されると、それが公式のタテマエ上のルール(たとえば、「いじめはいけない」)と矛盾したときに、ホンネのルールを優先することを学習する時期であると考えられるからである。多くの子が共有するホンネは、一種の「空気」となり、その場に影響するといえるだろう。

いじめられたときの反応としては、いじめられた本人が「自分が悪いからいじめられた」と思えば自罰的反応、「いじめる方が悪い」と思えば他罰的反応といえる。一般には、自罰的反応が強くなると、いじめ自殺に至る場合もあり、他罰反応は復讐(ふくしゅう)に至りやすいといえるだろう。個人主義的な傾向が強い社会では、自分の身は自分で守らなければならないという行動規範が強いため、自分がいじめられたときに、「自分は悪くなく、相手が悪い」と考えて自分の身を守るのに対して、集団主義的に自己防衛する文化では、仲間が互いに守り合う関係性ができる。私的生活における日本人は他者から悪く思われないように、自分を改善する心性が強く、批判されないように自分の欠点を見つけて直そうとする傾向がある。批判された場合も、「自分が悪いから批判された」と自罰的になりやすいといえるだろう。自罰性が比較的強いうえに、日本でのいじめはほとんどが仲間内で起こるので、守り合うべき関係の中で攻撃されると、さらに自己の内部が強いダメージを受けると考えられる。

いじめ自殺を防ぐための道

児童生徒の自殺は、日本では、男子が女子の2倍から3倍ほど多い。文部科学省の調査によると、2011年度は、中学生が男子27名・女子12名、高校生は男子111名・女子46名だった(図2)。一方、警察庁の統計では、1998年から2010年まで、自殺者全体の約7割が男性である。警察や文部科学省は、いじめを原因に特定した自殺の男女比に関するデータを近年出していないが、一般的傾向から、いじめによる自殺は男子が女子の2倍から3倍前後多いと推定される。

女子の場合、ストレスがかかったときに多くの人に話す傾向があるため、問題に気づかれて救われやすいのに対して、男子の場合、自力で問題解決しようとして黙り込んでしまい、結果的に追い詰められて自罰的になり、死を選ぶ傾向があると考えられる。問題は自分一人で抱え込まずに、多くの人に相談するように男子にもしっかり指導していく必要がある。また、異年齢集団の子どもたちの交流(長幼の序を重んじる日本では、伝統的に異年齢の子ども集団の中で社会性を育んできた)や、さまざまな大人たちと暖かい関係を築ける環境を整えつつ、いじめがいかに残虐な反社会的行為であるかをしっかりと教えていくことが必要だ。

(2012年10月4日記)

 

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Child Research Net:「いじめの定義と変化」「いじめの文化差」「いじめと教師のリーダーシップの関係」

参考文献

1)森田洋司、『いじめの国際比較研究―日本・イギリス・オランダ・ノルウェーの調査分析』(金子書房、2001)

2)Watts, M. (1998), Cross-Cultural Perspectives on Youth and Violence, JAI Press.

3)文部科学省国立教育政策研究所生徒指導研究センター 「いじめ追跡調査 2007-2009」 

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  • [2012.10.24]

東京学芸大学教育学部准教授。1965年生まれ。1994年東京大学大学院博士課程(社会学研究科)終了。 NPO法人学芸大こども未来研究所理事。社会心理学、とくに個人と集団の関係をめぐる文化社会心理学の観点から、集団心理学(チームワーク力の測定、裁判員制度の心理学、体験活動の効果)、リスク心理学などの研究を行っている。

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