中国新体制が直面する多くの難題
国際社会は改革への協力を

宮本 雄二【Profile】

[2013.05.20] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS |

中国の影響力が拡大する中、国の全てを指導する中国共産党は、多くの深刻な問題と自らの危機を克服する必要に迫られている。宮本雄二・元中国大使が解説。

習近平は、昨年11月の第18回党大会において中国共産党総書記、ならびに中央軍事委員会の主席に就任し、今年3月の全国人民代表大会で国家主席となった。

党、軍、政のトップへの就任であり、習近平体制の確立である。

中国は、中国共産党が全てを指導する一党支配の国である。ネット社会の登場とともに、党や政府が「社会の空気」に影響される度合いは格段に高まった。とはいえ党がどう動くかにより中国の将来が決まる、という事実には依然として何の変化もない。

習近平を指導者とする新体制がどのような考えに基づき何をしようとしているのか。それを実現する力はどの程度あるのか。中国が真の大国として再登場した今日、これらを知ることはアジアひいては世界のこれからを予測するうえで不可欠となった。

腐敗した軍の掌握とその影響

昨年10月に発表された人民解放軍の人事異動は大方の予想に反し、前例にとらわれない大幅なものであった。翌11月には、中央軍事委員会の主席に――これも前例を覆し胡錦濤は続投せず――習近平が就任した。今から振り返れば、この時点で習近平は人民解放軍を掌握しつつあったのだ。やはり習近平は人民解放軍に近い人物であった。

父親の習仲勲(※1)は、自分の地元である陝西(せんせい)省出身者を中心に人民解放軍の中に強い人脈を作り上げ、習近平がそれを引き継いだ。習近平が、軍の長老の一人であった耿彪(※2)の秘書を務めたことも人脈の強化につながったはずだ。

中国共産党の歴史をひも解けば、党分裂の危機が訪れるたびに人民解放軍が登場し、事態を安定させたことが分かる。

昨秋の政権交代は、建国以来、最高実力者による後継者指名がない初の政権交代だった。薄希来事件に代表されるように、党の上層部における権力闘争は相当激しく、実はかなり難しい政権交代だったのだ。だから習近平もまず人民解放軍を掌握し、それを背景に「安定団結」の局面を演出する必要があった。

習近平は人民解放軍の掌握にかなりの程度成功した。人民解放軍の腐敗の深刻さは並大抵のものではない。国民もそう思っている。むしろ習近平は、今後とも人事や反腐敗の動きを使って軍を掌握する努力を続け、優位に立ち続けるであろう。だが人民解放軍に近い分そのロジック、つまりは安全保障のロジックの影響を受けやすくなる可能性は十分ある。

急速な変化に対応できない指導層

人民解放軍を掌握した習近平は、同時に党内の指導力も確立しつつあるようだ。しかし習近平の指導する中国は、多くの大きな課題を抱え、なおかつその深刻さは増大している。中国共産党に対する挑戦は実に巨大だ。

最大の挑戦は、「変化の速さ」がもたらしている。変化の速さに、ものの考え方、国の仕組み、それらを運営する人材の養成など統治システムが追い付くどころか、むしろ引き離されている。その結果、中国共産党は経済、社会、政治、外交、安全保障などすべての分野で難題に直面し、その深刻さは増大している。中国は、鄧小平が語った言葉を頼りにするだけではカバーしきれない世界に突入したのだ。

中国共産党の最も優れた点は、自分たちの抱える問題点を正確に把握し、その解決策を考え、実施する能力にあった。だが今日は、その能力に疑問符が付き始めている。現在直面する難題の解決に、党はすべての面で徹底した自己改革を推進するほかない。果たしてそれが可能か、が問われている。

改革を阻む最大の抵抗勢力は、年々増大し、力を強める既得権益層である。中国共産党を中核とする政府、軍、国有企業といったあらゆる組織が既得権益化している。これを打破しないと、中国共産党の将来はない。

その次の試練は――古くて新しい問題だが――中央の政策が現場でどこまで着実に実行されるのか、という点にある。中央と地方との関係の問題、そして党および政府の統治を行き渡らせるための末端組織の整備の問題でもあり、解決には膨大なエネルギーを要する。

失われた理念・価値観

最後の試練は、中国の国家と社会が、理念や価値観を見失ったことからきている。どういう理念、考え方で国家を運営し対外関係を処理していくのか、その根本が見つかっていないのだ。

これは深刻な事態である。中国共産党は、問題の所在は分かっているのにどう対処したらいいのか分からない、少なくともさまざまな意見を集約できないという困難に遭遇している。

文化大革命は、伝統的な価値観とともに、実は社会主義、共産主義という建国の精神をも滅ぼしてしまった。

鄧小平(※3)は、将来の目標としての社会主義、共産主義は残しながら、物質的な豊かさの追求に党と国民を指導する精神を見いだした。ところが今を生きる世代にとっては、物質的な豊かさの追求が全てとなった。この精神は、「豊かになれば人々は幸せになれる」と想定していたが、実際は社会の矛盾、そして不満を強める結果となった。

それ故に習近平は、「中華民族の復興」と「中国の夢」を新たな時代精神に据え、追求しようとしているように見える。その中身は、まだはっきりしない。しかし、この時代精神には強国への願望やナショナリズムが容易に入りこむし、対外強硬姿勢を誘発する。とりわけ国内統治がうまくいかなければその分だけ、不満の矛先は外に向かう。

忘れてならない「中国国内改革」への協力

かくして習近平体制は、胡錦濤時代(2003~2013)とは比較にならないほどの極めて難しい内外の課題を、最初からかかえていることが分かる。内政と外交は連動しながら、中国の今後を揺さぶる。その結果は、アジアだけではなく世界全体を動かす。中国はそこまで大きな影響力のある国となっている。

習近平が権力を掌握し、難題に正面から取り組み、改革を断固として行い抜く以外に、中国の将来はない。「中国共産党が統治する国」という仕組みそのものが、それ以外の有効な解決方法を排除しているからだ。だが習近平が成功するという保証はない。

国際社会、とりわけ日米は、中国が歴史のトラウマとパワーポリティクスからくる強迫観念、つまり「米国が中国を包囲し崩壊させようとしている」という意識を根強く抱いている、という事実をしっかりと認識し、中国の困難に満ちた移行期ができるだけ平穏になるよう協力すべきだ。

今や個別国家の軍事力だけで国際問題を解決できる時代ではない。中国国内の対外強硬派には、力の政策は力の政策のお返しがあるだけであり、力だけで物事を解決することはできないことを理解させる必要がある。

同時に「中国の国内改革への協力」という視点も忘れてはならない。それほどまでに、中国の改革のプロセスは困難に満ちている。その成否は、たちどころに全世界に大きな影響を及ぼす。そういう世界にわれわれは住んでいる。

(2013年4月30日 記)

(※1)^ 習仲勲(しゅう・ちゅうくん/1913~2002)。副首相、全人代副委員長、中国共産党政治局員などを歴任。

(※2)^ 耿彪(ひょう・こう/1909~2000)。副首相、国防相、全人代副委員長などを歴任。

(※3)^ 鄧小平(とう・しょうへい/1904~1997)。1981年から1989年まで中国共産党中央軍事委員会主席。最高指導者として改革開放政策を指揮。

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  • [2013.05.20]

宮本アジア研究所代表、日中友好会館副会長、日本日中関係学会会長。1946年生まれ。1969年外務省入省。英国際戦略研究所(IISS)研究員、在アトランタ総領事、在ミャンマー大使などを歴任の後、2006年から2010年まで在中国大使。著書に「これから、中国とどう付き合うか」(日本経済新聞出版社/2011年)、「激変ミャンマーを読み解く」(東京書籍/2012年)。

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