沖縄は誰のものか―日中のはざまで考える

長元 朝浩【Profile】

[2013.06.18] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

中国では、尖閣諸島をめぐる日本との対立を背景に「沖縄帰属論」が高まっている。そんな中、日本復帰41年を迎えた沖縄県民の意識はどう変わっているのだろうか。沖縄タイムス論説委員長が解説する。

尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立は、収まる気配がない。冷静な思考を誘う建設的な言葉ではなく、対立をあおるような感情的な言葉が、両国の間に飛び交っている。メディアがそれを増幅して伝え、ネット世論が高ぶる。その繰り返し。この状態は日中双方にとって不幸だ。

日中間に横たわるパーセプション・ギャップの最たるものの一つが、中国で高まっている沖縄帰属論である。

“琉球復活”に向けた勢力育成を説く中国紙も

中国共産党の機関紙『人民日報』は、5月8日付紙面で、「歴史的に未解決な琉球問題を再び議論できるときが来た」との論文を掲載した(論文の日本語訳は5月10日付で『人民網』ウェブサイト日本語版に掲載)。これを受けて人民日報系の『環球時報』は11日、「日本が中国の台頭を破壊する急先鋒となるならば、中国は沖縄地区で『琉球復活』に向けた勢力を育てるべきだ」とする社説を載せた。

中国系香港紙の『文匯報』は10日の社説で、「琉球は古くから中国の領土であり、日本が武力と米国の庇護(ひご)を頼りに琉球と釣魚島を盗み取った」と主張。中国外務省系の雑誌『世界知識』も3月16日号に「日本は沖縄に対し、合法的な主権を有していない」と主張する論文を掲げた。

2012年9月の尖閣国有化以降、沖縄の帰属を問うこの種の論文が増えているという。沖縄住民のあずかり知らないところで一方的に沖縄の主権や帰属問題が語られ、あまつさえ、「沖縄を取り戻せ」というような挑発的な意見がネット上で飛び交っているというのだ。

沖縄県民の切実な思い

沖縄が日本に復帰して41年となる5月15日、県内の研究者らが「琉球民族独立総合研究学会」を設立した。基地問題をめぐって沖縄の民意が中央政府から無視されてきたことに対する反発が背景にある。だが、中国が沖縄内部のこのような動きを念頭に「琉球国復活に向けた勢力を育てるべき」だと本気で考えているとすれば、危険な時代錯誤の発想というしかない。

歴史家の豊見山和行・琉球大学教授は「近世の琉球国は相対的に規制力の弱い中国(明清)との朝貢関係を保持する一方、従属度の強い薩摩藩(日本)との関係を有する存在だった」と指摘し、近世琉球を「従属的二重朝貢国」だと位置づけている(『琉球・沖縄史の世界』)。

琉球・沖縄は近世以降、いくつかの「世替わり」を体験した。そのたびに沖縄の内部で帰属をめぐる議論が起こったのは事実である。1879年の廃琉置県(琉球処分)の際には、一部士族が清国に救援を求め、1945年、沖縄戦が終わったあとしばらくは、日本復帰だけでなく独立や米国の信託統治を求める声もあった。1972年の復帰の際には、反復帰論が台頭した。

大国のはざまにあって、どうすれば自分たちの主体性を確保することができるのか。どうすれば自治と経済的自立を実現し、島の固有の文化を大切にしながら平和に暮らすことができるのか―それが近現代史を貫く沖縄の人々の切実な希求である。その思いは今も変わらない。

中国に対する県民感情が急速に悪化

沖縄県知事公室地域安全政策課は2012年11月から12月にかけて、県内に住む満15歳以上75歳未満の男女3000人を対象に「沖縄県民の中国に対する意識調査」を実施した(文末参考資料参照)。日本政府が尖閣の国有化を決定したことに反発し、中国各地で大規模な反日デモが発生したその後の調査であることに留意してほしい。

中国に対する印象について「どちらかといえば良くない」と答えた人は57・9%、「良くない」と答えた人は31・1%で、両方の回答を合わせると89%に達した。

日中関係の発展を阻害する主な要因を複数挙げてもらったところ、多かったのは「領土問題」「中国の反日教育」「中国国民のナショナリズムや反日感情」などだった。

中国と歴史的に関係が深い沖縄は、中国に対して好意的な感情を抱いている県民が多いといわれているが、中国に対する県民感情が急速に悪化しているのはこの数字だけを見ても明らかである。今年に入って目立つようになった中国メディアによる一連の「帰属問題キャンペーン」が、中国に対する県民の懸念や不信感をさらに増幅させたのは間違いない。

境界線で生きる人々の「平和のリアリズム」

経済の相互依存関係がこれだけ深まっているにもかかわらず、日本と中国の間には、さまざまな分野でパーセプション・ギャップが目立つ。沖縄の側から見た最近の中国像は、上記の通りだが、中国の側からみた日本像は、もっと厳しいに違いない。どうすれば相手の立場に立って理解を深めることができるだろうか。対立をあおるだけの排外的なナショナリズムは問題解決を困難にするだけで、なにものも生まない。

沖縄の多くの人々は、沖縄を要塞化し中国包囲網の軍事的要と位置づけることに反対している(一部にはそうでない人もいるが)。それが境界線で生きる人々の「平和のリアリズム」である。

沖縄は第2次世界大戦の末期、日米による激しい地上戦の舞台となり、戦後は米軍統治の下で旧ソ連や中国をにらんだ「太平洋の要石」と位置付けられた。こうした過酷な歴史体験を踏まえて、今後、沖縄が果たすべき役割は、日中対話の場を提供し、この地から緊張緩和のうねりをつくり出していくことである。

(2013年6月7日 記)

参考資料:第1回「沖縄県民の中国に対する意識調査」【抜粋】

調査=沖縄県知事公室地域安全政策課、実施=2012年11月21日~12月12日、調査対象=県内に居住する満15歳以上75歳未満の男女、標本数=3000人、有効回収数(率)=1187人(39.6%)

全国を対象とした次の調査結果を比較提示=言論NPO「第8回日中共同世論調査」(実施=2012年4月26日~5月14日、調査対象=日本全国の18歳以上の男女<高校生を除く>、有効回収標本数=1000)

問1. あなたは、中国に対してどのような印象を持っていますか(○は1つ)

   沖縄 (%)  全国(%)
良い印象を持っている  1.4  2.3
どちらかといえば良い印象を持っている  7.7  13.3
どちらかといえば良くない印象を持っている  57.9  66.7
良くない印象を持っている  31.1  17.6
無回答  1.9  0.1

 

【問1で「良い印象を持っている」「どちらかといえば良い印象を持っている」と答えた人に】
Q1.良い印象を持っている理由は何ですか(○はいくつでも)

  沖縄 (%) 全国(%)
中国経済の発展は日本経済に不可欠な存在だから 47.4 52.6
留学生の交流など民間の交流で前進がみられるから 43.7 35.3
首脳会議などが頻繁に行われ、政府関係が安定したから 2.4 5.8
中国社会の発展に将来、期待できるから 22.9 33.3
東日本大震災に対して支援を行ってくれたから 21.4 20.5
中国の歴史問題での発言が少なくなったから 1.2 5.1
中国の政治が日中関係を大事にする方向に変わっているから 6.4 10.9
中国料理や中国の歴史など中国文化に関心があるから 46.8 31.4
中国人はまじめで努力家で積極的に働くから 18.0 15.4
中国人の言動にスケールの大きさを感じるから 2.4 5.8
中国の製品は安くて魅力的だから 23.2 23.7
中国は国際政治のルールを大事にし始めたから 6.1 5.1
その他 19.6 7.7
特に理由はない 3.1 9.0
無回答 1.5 0.0

 

【問 1 で「どちらかといえば良くない印象を持っている」「良くない印象を持っている」と答えた人に】
Q2.良くない印象を持っている理由は何ですか。(○はいくつでも)

  沖縄 (%) 全国(%)
政治体制が異なるから 20.0 26.5
過去に戦争をしたことがあるから 3.0 4.9
歴史問題などで日本を批判するから 43.6 44.0
中国人の愛国的な行動や考え方が理解できないから 50.5 28.4
資源やエネルギーの確保で自己中心的に見えるから 60.1 54.4
軍事力の増強や、不透明さが目につくから 38.0 34.8
中国の大国的な行動が気に入らないから 21.5 17.2
中国の行動が覇権的に見えるから 36.4 23.0
尖閣諸島を巡り対立が続いているから 56.0 48.4
国際的なルールと異なる行動をするから 58.4 48.3
その他 14.3 9.6
特に理由はない 0.1 4.9
無回答 2.9 0.4

 

問 2. 日中関係の発展を阻害する主な問題とは何だと思いますか。(○は 3つまで)

  沖縄 (%) 全国(%)
日中両国民に信頼関係がない 24.0 27.6
海洋資源などをめぐる紛争 34.9 34.1
領土問題 58.0 69.6
経済摩擦 4.2 16.5
日本への安全保障政策への懸念 4.7 3.2
中国の軍事力増強 12.3 12.6
日本国民のナショリズムや反中感情 4.2 2.7
中国国民のナショリズムや反日感情 40.2 19.6
日本の歴史認識問題 11.4 7.7
日本の戦争時の未解決問題 11.0 12.0
中国の反日教育 54.3 28.6
日米同盟の存在 2.5 1.4
台湾問題 1.1 1.6
在日中国人の犯罪 5.4 5.5
日中両国の政治体制の違い 10.0 8.1
中国の人種問題 6.9 3.9
中国産品の安全性の問題 20.0 15.7
教科書問題や右翼などの宣伝活動 5.5 3.7
その他 2.0 1.6
無回答 0.3 1.1
  • [2013.06.18]

沖縄タイムス社論説委員長。1950年沖縄県生まれ。東京外国語大学中退。東京都庁を経て、74年沖縄タイムス入社。編集委員、学芸部長、九州大学助教授(1999年4月~2000年3月、出向)、編集局長、東京支社長、取締役論説委員長などを経て2012年から現職。

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