中国経済の変調 難しさを増す経済運営

津上 俊哉【Profile】

[2013.08.09] 他の言語で読む : ENGLISH |

空前の景気対策が支えてきた近年の中国経済。だが景気の減速と共に健全性に疑問符のつく資金のやりとりが表面化し、中国経済の直面する課題が明らかになりつつある。現代中国を研究する津上俊哉氏が解説。

6月下旬、中国のインターバンク市場(銀行間で資金の過不足を決済する市場)で異変が起きた。

市場に十分な資金が出回らず金利が急上昇し、一部銀行は資金調達に失敗したといううわさも駆け巡った。中国以外での出来事であれば、金融恐慌一歩手前でしか起こらないような変事である。以来、内外で中国経済の先行きを懸念する声が高まっている。

「シャドーバンキング」という高金利資金の急増

資金が逼迫(ひっぱく)したのは、納税期などの季節要因、金融引き締め政策の強化に伴う銀行の資金需要増大、貿易を偽装したホットマネー(国の間を動く投機的な短期資金)取引の摘発による違法資金流入の急速な減少――などの複合原因による。

ここからふたつの大きなトレンドが浮かび上がってきた。

第一は、「シャドーバンキング」と呼ばれる銀行貸し付け以外の資金調達の急増である。この資金調達の組成に対する銀行の深い関与も、銀行の資金需要が急増する原因となっている。

第二は、これまで短期資金市場で資金不足が起これば資金を放出し流動性を確保してきた金融当局が、今回に限っては資金を放出しなかった。当局側に、高リスクなシャドーバンキング業務に熱を上げる一部銀行を懲罰する意図があったと言われている。

シャドーバンキングは銀行の預金・貸し付けルートによらない与信方法であり、この1年で急拡大した。手法はさまざまだが共通する特徴は、高金利で短期の資金調達手段であることだ。銀行の基準金利より最低5割はコストが高い。

コストが高いのに利用が急増しているのはなぜか。ここにこそ「中国経済の変調」を示す原因が隠れておりシャドーバンキングの急拡大はその結果でしかない。いま中国経済は、2009年以来続けてきた投資拡大で経済成長をけん引する政策が行き詰まり、至る所に問題を引き起こしている。

空前の金融緩和が生んだ深刻な後遺症

リーマン・ショック後に始まった、中国全体で4兆元(約65兆円)にもなる経済対策(「4兆元投資」)と、その資金調達に向け発動された空前規模の金融緩和は、中国に劇的な景気回復をもたらした。だが、ここに来てその深刻な後遺症も日増しに明らかになっている。

第一に、金融緩和の刺激効果で至る所でカネを生まない不効率な投資が野放図に実施され、製造業の深刻な過剰投資を引き起こした。大型の投資を担った国有企業や、好機とばかりにインフラ建設にまい進した地方政府などは負債の増加、利益率低下、資金繰り難などに直面している。

第二に、金融緩和が不動産価格高騰だけでなく物価上昇も招いている。公式統計によれば消費者物価の上昇は5パーセント以下だが、実態では年10パーセント以上の物価上昇が起きている。

シャドーバンキングの急増は、これらの後遺症の結果である。巨額な投資のために、数年前に大量に借り入れた銀行融資の期限が到来し始めたが、非効率な投資はカネを生んでいないので、借り換えないと元本が返済できない。

空前の金融緩和の結果、中国のマネーサプライは名目GDPの1.9倍と、数字だけ見れば世界で最も資金ジャブジャブ状態のはずなのに、高利の資金を借りる企業が多いのは一見、矛盾する。これも「借り換え」の続発で、金融セクターに戻り、新規の貸出先に投じられるべき元本が戻ってこないせいである。新規に利用できる資金量の減少で局所的な資金逼迫が起きているのだ。

また、物価上昇のせいで金利の低い銀行預金は嫌われ、高利回りをうたい文句にした金融商品である「理財産品」を販売するシャドーバンキングに資金が吸い寄せられている。中国での資金循環は変調を来している。

経済の運営だけでなく外交も総見直しへ

正式発足して3カ月になる新政権は、問題の深刻さに危機感を強めており、成長が低下しても、これまでの投資頼みの経済運営の転換に向け決意を固めたようである。持続的・安定的な経済成長を図る観点からは、正しい決断である。

しかし、方向転換には大きな痛みや強い抵抗が伴う。過去数年の8~10パーセントの経済成長の約半分は投資拡大によるものだ。投資や金融緩和に急ブレーキをかければ、ゼロ成長近くにまで経済が落ち込んでしまう。数年かけて徐々に方向を変えるしかないが、今後の経済のかじ取りは困難を極めるだろう。

投資拡大の後遺症のトンネルを抜けても、2020年代には避けようのない少子高齢化が待っている。中央財政が他の主要国に比べはるかに健全なので、不良債権処理も含め、財政負担による問題の緩和は可能だが、国家債務比率は成長率の低下により急増するだろう。

2009年以来の経済的台頭で中国は有頂天になり、対外関係でも強硬な「核心的利益」論が横行した。いま経済成長の急減速でようやく夢から覚めようとしているが、眼前には4年前とは打って変わった峻厳(しゅんげん)なる現実が広がっている。中国は国家目標、対外関係も含め総見直しを必要としている。

(2013年7月17日 記)

写真=上海の夕焼け

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  • [2013.08.09]

現代中国研究家・コンサルティング会社津上工作室代表。1957年生まれ。1980年通商産業省入省。在中国日本大使館経済部参事官、通商政策局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員などを歴任。「中国台頭 日本は何をなすべきか」(日本経済新聞社/2003年)でサントリー学芸賞。近著に「中国台頭の終焉」(日経プレミアシリーズ/2013年)。

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