「ネット依存」の日本的特徴は「きずな依存」

橋元 良明【Profile】

[2013.11.08] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

厚生労働省によると、ネット依存の中高校生は全国で推計51万8千人にのぼる。日本人のソーシャルメディア利用に関する複数調査を基に、橋元良明・東京大学大学院情報学環教授が、ネット依存の背景と対策を探る。

依存傾向にある若者はどのくらいいるのか?

米国や韓国同様、日本でもネット依存が大きな社会的問題になっている。特に最近のスマートフォンの普及によって、ネット依存傾向の高い若年層の比率が増加している。

2013年2月に、橋元研究室と総務省情報通信政策研究所の共同研究として、小学生から社会人まで2605名に対しネットを通した調査を実施した。K.Youngの20項目基準に基づき分析した結果、依存傾向の高い人の割合(以降、「依存者率」と呼ぶ)は小学生2.3%、中学生7.6%、高校生9.2%、大学生6.1%、社会人6.2%であった。

また、スマートフォンの利用者の依存者率は6.9%、非利用者のネット依存者率は5.8%で、統計上有意に、スマートフォン利用者の方において依存者率が高かった。ちなみに、依存者率は適用する基準や標本母集団の選定法によって変動が大きく、数字自体に絶対的意味があるものではないが、高校生で依存者率が高く、またスマートフォン利用者の方が非利用者より依存者率が高いという結果は注目すべきである。

若者のネット依存のタイプで多い「きずな依存」

ネット依存にもいくつかのタイプがある。オンラインゲームにのめり込む「ネットゲーム依存」、mixi、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアの利用時間が長い「きずな依存」、動画などへの接触時間が長い「コンテンツ接触依存」、オークションや一部のソーシャルゲームに没入する「ギャンブル系参加型アプリ依存」などである。

日本では、少なくとも我々が数度実施した調査では、若者において、このうち「きずな依存」に分類される依存者が多い。先述した調査結果では、依存者は1日平均36.6分ソーシャルメディアを見るのに費やし、書き込みにも28.4分費やしている。また、さまざまな利用サービスと、依存度との関連を分析した結果も、ソーシャルメディアの利用が最も依存度と関連が深いという結果が出ている。

筆者が2012年10月に別途総務省情報通信政策研究所と共同で実施した全国調査(N=1500)では、日本人のソーシャルメディア利用率は全体平均で41.4%、20代では81.8%であった。

ソーシャルメディアに没入する動機は人それぞれであるが、正の報酬として、孤独感が癒やされ、自分の心情や考えを多くの人に知ってもらえるという充足感がある。と同時に、ソーシャルメディアにアクセスしないと、親しいグループから仲間はずれにされたり、陰で悪口を言われたりするのではないか、という不安から頻繁にアクセスする人も多い。

橋元研究室が大手SNS運営会社と共同で実施した2010年の調査(N=56272)によれば、依存的傾向のある人のうち52.1%が「SNS上の人間関係に負担を感じている」と答えている。つまり、ソーシャルメディアに没入しているのは、必ずしも楽しいからではなく、多くの人は、そこから抜け出せないからアクセスし続けているわけである。

スマートフォンで加速する「つながり」への強迫観念

他の国との比較調査のデータがあるわけではないが、日本人は他の国民より、とりわけきずな依存になりやすい文化的風土があるように思われる。まず、日本人の国民性として、同調志向が強く、いわゆる「ムラ社会」を形成しやすい。例えば、女子高校生のグループや同じ保育園・幼稚園に子どもを通わせている母親のつながり(「ママ友」)などである。その中のつながりでは、他のメンバーと同じ行動を取ることが求められ、つきあいを断ると他のメンバーから無視されたり、メンバーから外されたりするという制裁が科されることもある。

中高校生では、極端な場合、ソーシャルメディアでのつきあいをおろそかにするといじめにあうことすらある。グループの中心的なメンバーが、ささいな行動や心情をソーシャルメディアでつぶやくと、実際に賛同あるいは感心したか否かにかかわらず「いいね」ボタンを打たざるを得ず、質問形のメッセージには、すかさず回答を返さなければならない。ソーシャルメディアは本来、非同期的コミュニケーションメディアであるが、実際には同期的メディアになっている。

スマートフォンは、従来型携帯電話よりネットへのアクセスがスムーズで簡便になった。手先の器用な日本の若者の大半は、スマートフォンのようなモバイルデバイスでソーシャルメディアを利用している。その結果、以前よりさらに、居場所にかかわらず即答が要求される。きずな依存の人は、トイレの中でも浴室でも、起床している間中、ずっとスマホを握りしめて、ソーシャルメディアの仲間とアクセスし続けなければならない強迫観念にとらわれる。

震災と心理的ストレス発散も背景に

また、日本人は生活上において、「人とのきずな(つながり)」を重視する傾向があり、NHKが5年ごとに実施している『日本人の意識調査』でも、余暇の過ごし方について、「好きなことをして楽しむ」に次いで「友人や家族との結びつきを深める」が高い比率を占めている。

2011年には東日本大震災が発生し、ますます「きずな」が日本人のキーワードになっている。震災時にソーシャルメディアが情報伝達で有効であった、という報道とも相まって、日本ではソーシャルメディアはこの1、2年で急速に利用者を増やし、その世界に没入する若年層が増えた。

さらに、日本でソーシャルメディア依存者が多い理由として、宗教も関係していると筆者は考えている。欧米社会では、キリスト教信者が多く、教会で懺悔(ざんげ)をし、心理的ストレスを解放するという慣習があった。教会に行く習慣が廃れていく代わりとして、精神分析医やサイコセラピストが、人々のストレスの聞き手になった。

一方、日本では、キリスト教の信者も少なく、サイコセラピストに相談する人も非常に少ない。その代わりに、ソーシャルメディア上で、心理的なストレスを発散しているという側面もある。

日本女性が「きずな依存」に陥りやすい理由

「きずな依存」については、我々の調査では男性より女性において依存率が高い。それにも日本の文化的特性が関係している。11世紀の初頭、宮廷女官・紫式部が、世界最古の長編心理小説『源氏物語』を執筆している。その平安時代以降、『更級日記』『蜻蛉日記』など、日本では、女性による日記文学の伝統が根付いた。

筆者がかつて、米国、中国、日本の3国のブログの内容分析をした結果、日本のブログには、政治的意見などの発現率が少なく、ほとんどが日常的な心情のつぶやきであった。日本人、特に女性は、ちょっとした身の回りの出来事やその時々の心情を、文字化してつぶやく習慣が昔からあり、それがソーシャルメディアの高頻度利用と関連があるのかもしれない。

また、かつては女子高校などで、クラスの仲間同士で日記や手紙、メモを交換する風習も盛んで、それがソーシャルメディアによるコミュニケーションに取って代わった部分もある。

とくに日本人女性は、濃密な人間関係のグループを形成する傾向がある。かつて、学校生活で休憩時間にトイレにもぞろぞろ一緒に行く仲間は「トイレットフレンド」と呼ばれた。先にも述べたように、同じ保育園・幼稚園に子どもを預ける母親の仲間は「ママ友」と呼ばれる。

そうしたグループのメンバーは、単なる友人、知人以上の濃いきずなで結びつけられ、過剰なまでの相手への気配り・気遣いが求められる。コミュニケーションの手段の中心がソーシャルメディアになってきており、結果的に心理的負担を感じながらも長時間アクセスを続け、たわいのないメッセージ交換を繰り返し、中毒的にソーシャルメディアの世界に没入する女性も出現することになる。

啓もう活動と専門的診療機関の拡充を

スマートフォンの普及により、日本人のネット利用時間は増加を続けている。この先、腕時計のような形態をしたものなど、さらにウェアラブル(wearable)なデバイスが普及し、起きている間中、ほとんどネットにアクセスしっぱなし、という状態の人も増えていくと予想される。

その結果、今以上に、ネット依存状態になり社会生活に支障を来す人も増加するだろう。そのことは個人レベルでも異常な状態であるが、社会の総体としてみた場合、総合的な生産効率が低下することになる。

現状では、ネット依存から復帰させたり、そもそもネット依存に陥らないようにしたりする有効策は見いだされていない。とりあえずは、ネット依存がいかに危険か、病的事例を説明するなど、学校でも依存防止の教育に努め、合わせて予兆のシグナルを家族が見逃さず、適切な治療機関に早めに相談することが必要であろう。その治療機関も、今のところ二つ(国立病院機構久里浜医療センターおよび成城墨岡クリニック)しかない。専門的診療機関の拡充も、国が施策として実施すべき課題である。

(2013年10月25日記)

*ピッツバーグ大学の心理学者キンバリー・ヤング博士が、1998年の著書『インターネット中毒』(Caught in the Net)で作成した20項目からなるネット依存症の診断基準

  1. 気がつくと、思っていたより長い時間ネットをしていることがありますか
  2. ネットを長く利用していたために、家庭での役割や家事(炊事、掃除、洗濯など)をおろそかにすることがありますか
  3. 配偶者や友だちと過ごすよりも、ネットを利用したいと思うことがありますか
  4. ネットで新しく知り合いを作ることがありますか
  5. 周りの人から、ネットを利用する時間や頻度について文句を言われたことがありますか
  6. ネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか
  7. ネットが原因で、仕事の能率や成果に悪影響が出ることがありますか
  8. 他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールやSNSなどをチェックすることがありますか
  9. 人にネットで何をしているのか聞かれたとき、言い訳をしたり、隠そうとしたりすることがありますか
  10. 日々の生活の問題から気をそらすために、ネットで時間を過ごすことがありますか
  11. 気がつけば、また次のネット利用を楽しみにしていることがありますか
  12. ネットのない生活は、退屈で、むなしく、わびしいだろうと不安に思うことがありますか
  13. ネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、言い返したりすることがありますか
  14. 夜遅くまでネットをすることが原因で、睡眠時間が短くなっていますか
  15. ネットをしていないときでも、ネットのことを考えてぼんやりしたり、ネットをしているところを空想したりすることがありますか
  16. ネットをしているとき「あと数分だけ」と自分で言い訳していることがありますか
  17. ネットをする時間や頻度を減らそうとしても、できないことがありますか
  18. ネットをしている時間や頻度を、人に隠そうとすることがありますか
  19. 誰かと外出するより、ネットを利用することを選ぶことがありますか
  20. ネットをしていないと憂うつになったり、いらいらしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えてしまうことがありますか

2013年共同調査では、インターネットの利用が日常生活に与えている影響の度合いを見るために「ネット依存的傾向」として得点化。尺度となる20項目について、「いつもある」「よくある」「ときどきある」「まれにある」「全くない」を選択してもらい、それぞれ5点~1点で合計して算出。ヤング博士の分類に従い、「70点以上(ネット依存的傾向 高)」「40-69点(ネット依存的傾向 中)」「20-39点(ネット依存的傾向 低)」という形で3区分に分類。

出典:Young,KS.(1998) Caught in the Net: How to Recognize the Sign of Internet Addiction and a Winning Strategy for Recovery (診断基準邦訳:東京大学大学院情報学環・橋元研究室)

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  • [2013.11.08]

東京大学大学院情報学環・教授。1955年京都市生まれ。東京大学文学部心理学科卒。東京大学大学院社会学研究科修士課程修了。東京大学新聞研究所助手、東京大学社会情報研究所助教授、同教授を経て、2000年から現職。コミュニケーション論、情報行動論を専攻。情報行動の変遷と社会への影響、メディア利用が青少年に及ぼす影響等について研究を進めている。主な著書に『ネオデジタルネイティブの誕生』(ダイヤモンド社/2010)、『メディアと日本人―変わりゆく日常』(岩波新書/2011)など。

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