スーパー高齢者の陸上大会――「現役」アスリートたちの熱い戦い

力武 敏昌【Profile】

[2013.12.18] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

高齢者アスリートたちが注目されている。90歳、100歳を超えてもなお現役としてフィールドに立ち、世界記録まで出す注目選手もいる。彼らの持つパワーの源は何か。高齢化社会の中でもひときわ異彩を放つスーパー高齢者の活躍ぶりを、関係者取材をもとに読み解く。

国際ゴールドマスターズの注目選手~103歳の宮崎秀吉選手

高齢者アスリートが集う「2013国際ゴールドマスターズ京都大会」が、10月5日~6日の両日に京都で開催された。そこで、103歳の宮崎秀吉(ひできち)さん(京都)が100mに挑むレースの幕が開いた。10月6日の午前11時40分、男子最高齢80歳以上の部の1組が号砲に合わせてスタートを切った。100歳代は2レーンの宮崎さん、ただ1人。力走する80歳代の人たちも“つわもの”揃いだが、やはり一世紀の荒波を乗り越えてきた宮崎さんへの注目度は高い。数多くのカメラが宮崎さんの力いっぱいの走りぶりを追い、ゴールへと近づくにつれて声援と拍手が大きくなった。

注目の記録は34秒10。背中を押した風が2.7mと許容風速の2mを超えたため、非公認記録となったが、およそ1カ月前に佐賀で開催されたマスターズ陸上の第34回全日本選手権での36秒77を上回ったとあって、「満足ですよ」とご満悦の様子だった。1910(明治43)年9月22日生まれの宮崎さんは、佐賀で走った9月7日の時点で102歳。誕生日を迎えてから14日目に、地元の京都で2秒67もタイムを縮めたのだから、喜びも大きかったはずだ。

2013国際ゴールドマスターズ京都大会にて、最高齢の103歳で力強い走りを見せる宮崎秀吉選手(写真提供:日本マスターズ陸上競技連合)

宮崎さんは、90歳を過ぎてからマスターズ陸上と出会い、92歳から重さ3kgの砲丸投げを交えた練習を始め、上寿(100歳)の2010年に、M100(100~104歳のクラス)・100mで29秒83を出した。これは、現在でも同クラスの世界記録となっている。今回、3m48をたたき出した砲丸投げは、100歳で3m83、101歳では4m02 と4m超えを果たし、102歳のときの佐賀大会では3m43 を記録した。

宮崎さんは晩年からマスターズ陸上を始めたが、これまでの道のりは決して順風満帆だったわけではない。けがや故障に何回となく泣かされ、大病を患ったこともある。2007年には左足骨折で3カ月近く入院し、車椅子生活も味わった。だが、根気よくリハビリに努め、再びフィールドに立つまでになった。ここに、宮崎さんの信条である「継続こそが大切」という言葉を付け加えておきたい。

マスターズピックを目指して

本大会には、男子最高齢の宮崎さんをはじめ、日本を含む11カ国の地域から男女870余人が参加した。西京極総合運動公園のプールと、陸上競技場を舞台に、水・陸ともに参加年齢は45歳以上というアスリートたちが、熱い戦いを繰り広げた。

水泳・陸上の合同イベントは2009年にも京都で開かれ、今回が4年ぶり2回目の開催となる。このイベントの趣旨は、長寿国を誇る日本が、健康維持とスポーツを楽しみながら人と人の輪(和)を広げ、わが国発信で近い将来、高齢者スポーツの祭典「マスターズピック(五輪)」の開催につなげよう、というものだ。

“生卵”がパワーの源――女子最高齢の守田満選手

女子最高齢の90歳で参加、女子90~94歳クラス100mで世界記録を更新した守田満選手(写真提供:日本マスターズ陸上競技連合)

そのステップとなる今大会で、男子の宮崎さんと並んでメディアの関心が高かったのは、女子の最高齢90歳の守田満(みつ)さん(熊本)だった。取材はテレビ、メディアなど19社にのぼり、中には密着取材をしているテレビ局もあった。守田さんはこれまで、W85(85~89歳)・100mで19秒83、W80(80~84歳)・200mで40秒78、またW85・200mでは45秒65のクラス別世界記録を持っている。

今年の6月29日で卒寿(90歳)を迎えた守田さんは、6月30日の長崎マスターズ選手権で、W90(90~94歳)・200mでは55秒62を出し、56秒46の世界記録を塗り替えている。今回、「京都ではさらに上を目指す」と意欲を見せ、大会初日の10月5日にはW90・200mで55秒90の力走を見せた。長崎での記録には及ばなかったが、それでも今季二度目の世界新記録を打ち立てた。その3時間20分後、日本マスターズでは公認種目になっているW90・60mでは13秒63を出し、来季には日本記録として公認される好タイムの結果となった。

圧巻は最終日のW90・100mだ。守田さんの疾走フォームの特徴は、その大きな腕の振りにある。前半からスピードに乗り、23秒15でフィニッシュ。これまでの世界記録23秒18を10年ぶりに更新した。今から21年前、69歳になってからマスターズ陸上に凝りだしたという守田さんは、毎朝食卓に添える生卵が「活力の基」だという。

MVP受賞の中野陽子選手に、96歳と66歳の親子で挑む渡邉源太郎・和生選手ら

女子のMVPであるゴールドマスターズ賞に選ばれた中野陽子さん(77歳・東京)の活躍も素晴らしかった。W75(75~79歳)・800mの3分20秒88、また1,500mの6分55秒49は大会新にとどまったが、5,000mでは24分32秒98の世界記録を大幅に破る24分03秒90で歓喜のゴールを切った。これは、7年ぶりの世界新となる驚くべき記録だ。

以前はスキーで海外ツアーをするほどスポーツにのめり込んでいた中野さんは、古希(70歳)を機にマスターズ陸上の道に入った。71歳でホノルル・マラソンに初参加し、初マラソンを4時間44分44秒と「4」並びの数字で完走した。彼女を一言で表すなら、まさに“練習の虫”である。

親子の共演で話題になったのは、M95(95~99歳)・60mで16秒96(追い風参考)、砲丸投げ(3kg)3m69、円盤投げ(1kg)7m21 と3種目制覇を達成した渡邉源太郎さん(96歳・大阪)と、その息子である渡邉和生さん(66歳・愛知)だ。父親の源太郎さんは1980(昭和55)年4月に創立された日本マスターズ陸上競技連合の副会長を務め、現在は名誉副会長の肩書を持つ。

源太郎さんは、今でこそ60mと砲丸投げ、円盤投げなどに出場しているが、かつては「自身の年齢以内の数字で400mを走り切ること」を信条としていた。傘寿(80歳)を迎えた1998年には、レース途中で無酸素状態になりかねないほど過酷な400mを77秒85でゴールしている。

一方の和生さんは今回、「父親は66歳の時に、M65(65~69歳)・100mで13秒5、200mは28秒20で走っているので、それを上回るタイムを目指す」と宣言してレースに臨んだ。しかし、100mは13秒74で6位、200mは29秒15で5位と、両種目とも父親を超えるという目標には届かなかった。「ただただ、残念です。早く父の域に達したい」と悔しがった。

2人でがんを乗り越えて――石川董・陽子選手

一方で、和気あいあいとレースを楽しむカップルも見られた。代表的な例では岩手マスターズの石川董(ただし)・陽子さん(ともに80歳)夫妻である。東日本大震災を乗り越え、夫婦そろって全日本マスターズ選手権に今年で26年連続出場を果たしている。この間、大震災だけでなく、2人ともガンの手術に踏み切るなど、多くの困難も乗り越えてきた。京都での今大会は夫の董さんがM80(80~84歳)・60mは9秒37で2位、100mは15秒32で3位。妻の陽子さんはW80・砲丸投げ(2kg)3m95、円盤投げ(0.75kg)7m82 で、ともに2位の成績だった。前年までに“おしどり夫婦”で獲得したメダル数は58個。さらなるメダル増産と「1年でも長く“走友”と触れ合うことが願い」と互いに口を揃える。

「日本マスターズ陸上競技連合」と、100歳ランナーを目指す現会長の思い

この「2013国際ゴールドマスターズ京都大会」の運営を支えるのは、日本マスターズ陸上競技連合だ。同連合の発足は1980年の春にさかのぼる。1928年開催のアムステルダムオリンピック・三段跳びで日本人初の五輪金メダリストとなった故・織田幹雄さんを初代会長として、今年で創立33年となる。現在は、第6代目会長を務める鴻池清司さん(76歳・和歌山)が“縁の下の力持ち”となって組織をまとめている。

同連合が船出する2年前の1978(昭和53)年1月、マスターズ陸上は和歌山で産声を上げた。いわば、紀州・和歌山はマスターズ陸上発祥の地。その種をまいたのは鴻池・現会長だ。会長自ら、各大会当日は運営面に気を配りながら、選手としても活躍する。今大会でもM75(75~79歳)走り幅跳びで3m81を跳んで1位に輝いた。だが、80mハードルでは17秒19の大会新を出したものの、こちらは惜しくも2位となった。2年に一度開かれる世界選手権には、日本人最多となる19回連続の出場を果たしている。

鴻池会長のモットーは「マスターズで培う気力と体力」。夢は先に触れた「マスターズ五輪の実現」と「目指すは100歳ランナー」である。鴻池会長をはじめ、全国に約1万人以上もいるマスターズ・アスリートは“夢と生きがい”を胸に、今もトラックやフィールドに立つ。まさに「現役」のアスリートたちなのである。

(2013年12月17日 記、タイトル写真=2013年10月5日、国際ゴールドマスターズ京都大会/日本マスターズ陸上競技連合提供)

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  • [2013.12.18]

スポーツライター。1933年大阪市出身。神戸新聞社運動部記者、のちに運動部長として、主に陸上競技を専門に取材・執筆を行う。1964年東京オリンピック、1972年ミュンヘンオリンピックの取材も手がけた。退社後、フリーランスとして活躍。著書『あと1秒の壁破った!―須磨学園陸上競技部・長谷川重夫監督 全国高校女子駅伝悲願達成の軌跡』(神戸新聞総合出版センター/2004)。現在、社団法人日本マスターズ陸上競技連合参与。

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