解散の背景を読み解く

竹中 治堅【Profile】

[2014.11.26] 他の言語で読む : ESPAÑOL |

アベノミクスと消費税引き上げ延期に国民の信を問うため、として、安倍首相は解散・総選挙に踏み切った。しかし、本当にそれだけと思っている国民も政界関係者もそう多くはいない。安倍首相の決断材料は、狙いは、見通しは、それぞれ何か。分析する。

解散の理由

安倍晋三首相が11月21日に衆議院を解散した。

首相のこれまでの説明によれば、解散の理由はアベノミクスと消費税引き上げの延期に対する国民の判断を仰ぐためである。

解散後の記者会見で、首相はこの解散を「アベノミクス解散」と名付け、アベノミクス(安倍内閣の経済政策)を今後も推進するのかどうか国民に尋ねるために総選挙を行うと表明した。同時に消費税率の引き上げを先送りしたことについての是非を問うことも理由であると語った。消費税率引き上げの延期についての国民の判断を仰ぐことを名目とすることは解散の意向を表明した18日の記者会見でも首相が強調していたことである。

1994年に選挙制度が変更されてから2005年の総選挙を除けば、いずれの総選挙もその前の選挙が行われてから3年以上経過してから実施されてきた。これに対し、今回の総選挙は前回選挙から2年以内に行われることになり、異例である。

また、マスメディアには、そして自民党の一部にも今回の解散に十分な大義名分があるのか疑問視する声がある。特に消費税率の引き上げについては法律で経済情勢をもとに停止することが可能であることが盛り込まれており、選挙を行う必要性はかならずしもないことが指摘されている(※1)。こうした思いは有権者の間でも共有されているようである。ある世論調査では回答者の58%が解散は「適切でなかった」と答えている(※2)

それでは、首相はなぜ解散に踏み切ったのか。本稿ではその要因について分析したい。

受け皿となる野党なし

首相が解散を決断した背景にはいくつかの要因が考えられる。恐らく最大の要因は、現在、自民党にとって選挙をする上では有利な状況にあることである。首相が解散を決断する前の時期に行われたある世論調査では、2人の閣僚が政治資金をめぐる不祥事で辞任したにもかかわらず、内閣支持率は48%と高く、不支持率は36%であった(※3)。同じ世論調査で自民党の政党支持率も高く、37%を記録している。

野党は分裂しており、一部の小政党は内部抗争を続けている。支持率は低く、民主党は6%、維新の党は2%である。何よりも野党側の選挙準備は整っていない。今度の総選挙で小選挙区の議席は5つ削減され、総数は295となる。このうち11月上旬の時点で、野党第一党の民主党の小選挙区の候補者は133人に留まっている(※4)。一方、自民党の準備は順調で同じ時点で278人の候補者を内定している(※5)

これから不評政策が続くが……

第二の要因は、第一の要因とも関係するが今後、これ以上、自民党に有利な状況が生まれる可能性はあまりないと考えられることである。景気情勢は悪化しており、この状況が続く恐れがある。また、来年の通常国会に安倍内閣は自衛隊法など安全保障に関係する一連の法律を改正する法案を提出する予定である。これは集団的自衛権の憲法解釈変更に伴うものである。一連の法案の審議では与野党が激突することが予想され、集団的自衛権の解釈変更に対する国民の問題意識を高める可能性が高い。集団的自衛権の解釈の見直しについては国民の間で意見が分かれており、この問題が国政の重要な論点として顕在化すれば、内閣支持率や自民党の支持率を低下させる恐れがある。

……「国民の信任」が錦の御旗に

第三は、総選挙で勝利を収めれば、安倍首相は内閣が国民の信任を得たと主張することができるようになることである。これは来年の国会で内閣が提出する予定の安保関連法案の審議にとって重要な意味を持つはずである。安倍首相は経済政策を選挙の争点にする考えを示した。しかしながら、自民党は安全保障法制の早期整備も総選挙の公約に盛り込む方針である(※6)。つまり、総選挙における勝利を法案審議促進の材料とできる。

安倍首相の祖父である岸信介元首相は1960年1月に新日米安全保障条約を調印した後に、総選挙を行うことを考えたものの解散に踏み切れなかったという。広く知られるように国会における新安保条約の批准は難航し、岸元首相は批准後の退陣を余儀なくされた。総選挙に踏み切っていれば、批准過程は混乱せず、退陣を避けることができたであろう。

背中を押した「黒田バズーカ第2弾」

最後の要因は、日本銀行が10月31日に決定した追加の金融緩和である。黒田東彦総裁が金融緩和の決定を主導した理由の一つが消費税を予定通り引き上げる環境を整えることであったはずである。しかしながら、これがもたらした株価上昇は景況感の改善につながることを期待でき、逆に首相の解散の判断を後押しした可能性が高い。

以上の要因を総合的に考え、首相が現在、解散すべきだと考えたとしても不思議はない。

何と言っても内閣と自民党の支持率は高く、野党の準備態勢は整っていないのである。

この情勢を首相が重視したことは間違いない。選挙で勝利すれば、さらに4年間の任期が保障される。

アベノミクスの効果についてより詳しい説明を

それでは、首相の解散の判断に死角はないのか。懸念材料はやはり解散の名目と景気状況にある。

すでに述べたように世論調査では解散を行う必要性を疑問視する声が大勢である。アベノミクスの是非と消費税引き上げの先送りに対する判断を解散の理由としたことについても疑問が投げかけられる恐れがある。

首相は解散直後の記者会見でこれまでの経済政策の成果を数多くの実例を挙げながら強調した。ただ、11月17日に発表された7〜9月期のGDP成長率はマイナス0.4%であり、2四半期連続のマイナス成長となった。首相は経済情勢の停滞を消費税引き上げ延期の大きな理由とした。

素朴な疑問として、この説明に矛盾はないのだろうか。そもそもアベノミクスが成功していれば、景気の低迷を避けることができたのではないか。経済情勢が安定していれば、消費税引き上げを延期する必要はなかったのではないかと考えることもできる。

首相が説明した解散の理由が適切であることを示すために、首相がこれから総選挙までこうした疑問について答えてくれることを期待している。

(※1)^ 例えば、『朝日新聞』2014年11月19日。

(※2)^ 『日本経済新聞』2014年11月24日。

(※3)^ 『日本経済新聞』2014年10月27日。

(※4)^ 『日本経済新聞』2014年11月11日。

(※5)^ 『日本経済新聞』2014年11月12日。

(※6)^ 『日本経済新聞』2014年11月21日。

  • [2014.11.26]

nippon.com 編集企画委員。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

関連記事
最新コンテンツ

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告