ジャパンエキスポ(パリ)開幕—ニッポンブームをビジネスとして成立させる契機にせよ

安倍 宏行【Profile】

[2015.06.25] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS |

2015年7月2日から4日間にわたり、ジャパンエキスポ(パリ)が開催される。欧州各国からコスプレや日本文化を愛する若者が集う祭典の盛況ぶりの一方で、日本文化の輸出やビジネスの仕組み構築という面で取り組むべき課題は多い。

毎年7月に、ヨーロッパ中から「ニッポン」を愛する若者たちが集い、熱狂する祭典が「Japan Expo(ジャパンエキスポ)」だ。1999年の初開催以来、今年で第16回目の開催となる2015年は、延べ来場者数が約25万人規模になると予測されている(主催者SEFA EVENT〈JTS GROUP〉)発表のデータによる)。筆者は、2012年・2014年とパリの会場へと実際に足を運び、現場でその模様を目の当たりにしてきた。この数年だけを見ても、ジャパンエキスポにはいくつか顕著な傾向の変化が起きている。

第16回 ジャパンエキスポ(パリ)の開催概要

会期: 2015年7月2日(木)~7月5日(日)
会場: パリ・ノールヴイルパント展示会会場
主催: SEFA EVENT(JTS GROUP)
規模: 来場者 約24万人、125,000m2、出展社688社(2014年実績) 2015年予測来場者数24万5千人

欧州、中でもフランスで根強いJapanアニメ・マンガへの人気

そもそも、欧州における「ニッポン」人気は、アニメ・マンガなどを発端として根強いものがあった。特にフランスでは、18歳以下の51パーセントにあたる層が、毎日最低1時間は日本のアニメを視聴しているというデータもある(AnimeFrance.fr調べ)。実際、ジャパンエキスポでも、『シティーハンター』で知られる北条司―30周年記念展、『YAWARA!』『MONSTER』の浦沢直樹展など、日本のアニメやマンガをテーマにした展示会も数多く開催されている。

近年では岸本斉史『NARUTO-ナルト- 疾風伝』や『ポケモン』などの人気が絶大で、こうした日本のアニメやマンガに心酔した欧州の若者たちは、自分のお気に入りのキャラクターのコスプレに扮してエキスポへとやって来る。ジャパンエキスポは、欧州のコスプレイヤーたちにとっては、自ら変身したキャラクターへの愛情表現の場であり、それを他者へアピールしたり、また互いに認め合ったりする場となっている。思い思いのコスチュームやメイクに身を包み、コスプレを公の場でお披露目する、いわば「聖地」ともいうべき晴れ舞台なのである。

中には、実際に大学で日本語を専攻するきっかけがこうしたアニメやマンガだったという学生も少なくないほど、アニメやマンガなどのカルチャーを介したニッポン熱は、欧州の若者の間で着実に広がりをみせてきている。

フランスのケーブルテレビでも人気を誇るニッポン・コンテンツ

フランスでは24時間日本のポップカルチャーを放送しているケーブルテレビ局NOLIFEの存在があることも、フランスにおけるジャパンエキスポ人気の理由の一端として挙げられるだろう。NOLIFEでは、ニッポンのミュージックビデオクリップやテレビゲーム、アニメ、マンガなどのコンテンツを流しているが、中でもニッポンに興味のあるフランスの若者であれば知らない人はいないほどの人気番組が『Japan in motion』だ(「テレビ新広島」制作、2009年から放送中)。

この番組は月曜日を除き、毎日放送されているほどの人気を誇る。扱う内容は、日本の観光やJ-POP、お祭り、アングラ文化に至るまで、一般的な観光ガイドにはまず載っていないニッチでリアルなニッポンの情報を紹介するものだ。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅが日本でブレイクする以前から彼女を番組でいち早く紹介するなど、その流行に対するアンテナは非常に鋭い。こうした番組を介して、日本の情報をいち早く入手している若者たちの層が、ジャパンエキスポへと足を運ぶ層と重なる。

そもそもジャパンエキスポの「創立者」は日本のポップカルチャーを愛するフランス人の若者たちだった。創立メンバーの1人、トマ・シルデ氏(JTS Group CEO)は2013年、日本の文化庁長官表彰(文化発信部門)を受賞している。

エキスポから姿を消した「海賊版」クールジャパン

フランスをはじめ、欧州各国から「ニッポン」を体感しに若者が集まるジャパンエキスポは

開催後まもない2000年当初こそ来場者数は2000人程度だったが、この2015年には約25万人規模と予想されるほどの勢いをと広がりを見せてきている。

2014年は24万人超の来場者となったエキスポだが、特に昨年顕著だった傾向としては、「クールジャパン」を標榜する他国製の海賊版が激減した点だ。

筆者が始めて参加した2012年は、“コリアンクールジャパン” “アジアンクールジャパン” と揶揄されるほど、ニッポン製を騙る海賊版が多かった。これを問題視した主催者側は2014年、エキスポの原点ともいうべき「本物のニッポン文化を世界に発信する」というスタンスに立ち返り、その運営を見直し極力海賊版を排除した。そのため、ジャパンエキスポは本家の「ニッポン」による文化やエンターテインメントの祭典としての場に戻ったという経緯がある。

2014年のエキスポでは、扱われるテーマが従来のアニメやマンガ、ゲーム以上に大きな広がりを見せていたことも大きな特徴だ。日本の伝統技術や文化、食にまで出展が拡大していたことも顕著な傾向と言える。

中でも特に人気が高かったのは、海外で積極的に日本の芸術や文化などを紹介するイベントを実施しているプロモーション企業「美研インターナショナル」が2011年から展開している“WABI-SABI”ブースだ。2014年は100人以上の招待アーティストがブースでパフォーマンスや伝統工芸技術を披露し、多くのビジターでにぎわった。こうした出展が盛況となったのも、ジャパンエキスポが本物を求める声に応えるべく、大きく方針転換をしたことが功を奏したのだろう。

また、ジャパンエキスポの日本エリアの企画、輸送、通訳、販売補助を含めた窓口を運営している「トーハン」は2014年、日本の若手芸人の漫才やコントのブースや、海外で人気のイラストレーターのブースなどを設置したが、どちらも長蛇の列が出来ており、クールジャパンのすそ野の広がりは急速に拡大していると感じた。

海外事業展開のハードルを下げる制度的支援が不可欠

ジャパンエキスポをはじめ、欧州における「ニッポン」ブ―ムは熱い盛り上がりを見せている。しかし、これを発展的に継続させ、なおかつそれを仕組み化し、ひいてはビジネスとして日本経済にプラスとなるシステムを作っていくには、未だハードルが高い状況だと言わざるを得ない。

例えば、日本人が海外で免税品を買う時お世話になるDFSだが、この企業はフランスのコングロマリットLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの傘下であり、免税店チェーンとして世界最大である。アジア太平洋地域15か国に150に上る免税店を展開、成田や沖縄の那覇などにもあり、日本人観光客はこの外国企業にせっせとお金を落としている。

それどころか、ここ毎年急増している外国人訪日観光客が我が国に落とすお金も外国企業にかっさらわれそうな勢いだ。韓国のロッテグループ傘下のロッテ免税店が2014年に関西空港に大型免税店をオープン、今年には東京・銀座に都内最大規模の免税路面店をオープン予定だという。「爆買い」する中国人観光客が買い物で使うお金をこれまた韓国企業にさらわれかねない状況だ。観光立国などと政府は声高に叫ぶが、その実態はお寒い。

こうした中、政府はクールジャパン機構を2013年に設立、日本企業の海外進出を資金面で支援する動きがあるとはいえ、世界規模で広がるクールジャパン・ブームが日本にお金を落とす仕組みに繋がっているかというと必ずしもそうではない実態がある。

日本の文化や食を海外で商売として成立させたいという人々を、法制度面から保護する体制にまではなっていない。日本文化が世界でブームになってはいても、だからといって現地で商売をする日本人が事業をやりやすくなったということにはつながっていないのが現状だ。

例えば、多くの日本製品があふれているフランス・パリだが、その供給の主体は仏資本か海外資本に委ねられており、利益が日本に効率よく還元される仕組みは未だ構築されているとはいいがたい。また、それらの日本製品は日本の大企業のものが大半で、仏国内の需要に応えることが出来ていない。日本の中小企業や地場産業がフランスに進出しようと思ってもそのハードルは高い。

中小企業の欧州進出を阻む要因

パリで日本の中小企業向けに商品の展示・販売スペースを貸している会社の経営者に話を聞くと、パリで商売をするためには様々な問題がある。例えば、営業権の問題だ。店舗を開設する時、不動産賃貸契約とは別に、高額な営業権を買い取る必要があるのだ。営業権とは、店舗またはレストランの社会的信用や、顧客、ブラ ンド、立地条件等の無形の財産価値に加え、商標、酒類ライセンスなど事業を行うことにより収益を稼得することができる無形の財産的価値を指す。

また流通の問題もある。小規模事業者の場合、簡易通関業者を利用しているケースが多く、割高になっているケースが多いという。こうした流通網の整備無くして、中小企業の欧州進出は容易ではないだろう。

こうしてみると、単に企業に海外進出の資金を提供するだけでは、クールジャパン・ブームが “日本にお金を落とす” 仕組みにならないということが見えてくる。海外における日本商品(サービス)に対するニーズを汲み取り、そのニーズに合った企業が海外進出しやすくする仕組み・支援の構築が必要不可欠だ。概してそうしたニーズに応えることが出来るのは中小企業が多い。日本の企業が海外で存在感を示し、海外で稼いだお金が日本に還流する仕組みは、欧州企業に一日の長があると言わざるを得ない。

ジャパンエキスポの熱狂を、ビジネス化につなげる仕組みづくりへ

ジャパンエキスポの熱狂に見られるような、人気コンテンツやアーティスト、ファッションなどといった個々の日本文化を、今後どのように実りあるビジネスとして成り立たせていくか。ゆるぎないニッポンブランドとして産業化し利益を生む構造を作りだすまでには至っていない。

だが、「ニッポン」ブームは実際に世界で起きており、日本のソフトパワーも世界では十分認知されている。それを一番体感できるのがまさにジャパンエキスポに他ならない。ジャパンエキスポの歴史自体もまだ16年ほどで、まだその端緒に着いたばかりである。

日本が誇る品質の良さ、ものづくりに込めた思いなどが世界に広まっていくきっかけの一つとして注目されるジャパンエキスポの開幕が目前に控えている。いかに日本を世界に売り出していくか、いかに海外で稼いだお金を日本に還流させるか。

ジャパンエキスポでの日本ブームに浮かれる時代は終わった。日本企業の海外におけるビジネスを今以上にどう拡大させていくか、官民の知恵が試される段階に突入したといえよう。

(2015年6月15日 記/タイトル写真提供=安倍 宏行)

  • [2015.06.25]

Next Media “Japan In-depth”編集長。1979年 慶応義塾大学経済学部卒業後、日産自動車入社。1985年国際大学大学院国際関係学科修士課程卒業後、1992年よりフジテレビ入社。ニューヨーク支局長などを歴任し、ニュースキャスターとしても活躍。2013年9月フジテレビを退社し、10月に “Japan In-depth”を設立。ニュースの深層や隠された背景に迫る情報発信を続ける。主な著書は『絶望のテレビ報道』(2014年、PHP新書)。

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