桐生祥秀:日本初の100メートル9秒台を目指して

為末 大【Profile】

[2015.06.26] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

陸上短距離のホープ、桐生祥秀選手(東洋大学)が2015年3月、追い風参考ながら100メートル9秒87をマーク。日本初となる公認9秒台の記録達成に期待が高まっている。400メートルハードルの世界選手権銅メダリスト、為末大氏が見る桐生選手の走りとは。

日本人離れした加速性能

桐生祥秀選手は現在、日本の男子陸上短距離界で、一つ頭が抜けたポテンシャルを持った存在だ。2013年4月の織田記念陸上100メートルで、高校生(17歳)ながら10秒01の日本歴代2位の記録をマーク。東洋大学に進学後の15年3月、米テキサス州の大会で追い風参考ながら9秒87のタイムをたたき出し、ロンドン五輪5位のライアン・ベイリー(米国)らを破って優勝した。

彼の100メートルの走りを見ると、30メートル地点からの加速の仕方が、これまでの日本人選手と全然違う。ギアで表現すると2段から3段目の切り替えから最高速に入れるまでの部分。ツボにはまった時は、誰も追いつけない。ジャマイカなどの選手と互角に戦えそうなレベルだ。まだ19歳。2020年の東京五輪、さらにその先まで、世界トップとわたりあってくれそうな期待が持てる。

桐生祥秀:100メートルの主な記録

自己ベスト 10秒01 2013年 織田記念陸上、17歳
  10秒05 2014年 関東インカレ優勝
  10秒22 2014年 日本選手権優勝
参考記録 9秒87 2015年 米テキサス・リレー優勝、19歳
(参考)
日本記録 10秒00 1998年 伊東浩司
アジア記録 9秒91 2015年 フェミセウン・オグノデ(カタール)
世界記録 9秒58 2009年 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)

上半身の使い方が高速ピッチ生む

日本人選手の短距離の走り方は、アフリカ系のランナーと違い、足をあまり高く上げないフォームが主流。骨盤の角度や筋肉の付き方の違いからそうなるのだが、そのフォームで走ると上半身が振り回されてしまう。桐生選手は腕の振りが上手で、上半身をうまく使って脚を高速ピッチで動かしている。

胴体がとても太く、体幹が強そうに見える。これに加えて、脚を前に持っていく腸腰筋が非常に発達していると思う。これらが桐生選手の速さの秘密だ。

技術面で言うと、まだお世辞にも洗練された走りではない。手が横に振れるとか、終盤になると体ががくがくするとか、いろんなことが起きていて、自分の身体能力を思いきり発揮させているとは言えないレベル。よく言われていることだが、普通ならもう少し技術的に洗練されてから記録が10秒0に近づくものだ。

桐生選手の場合、見たところ10秒2ぐらいの技術かなという走りで、それでもタイムは10秒0近くをたたき出す。まだ持って生まれた能力だけで走っている感じで、こういう面でもまだまだ伸びる余地がある。

「10秒の壁」突破は時間の問題

大学に入り、練習環境が変わるといったん記録が落ちる選手も多いのだが、その点では桐生選手はうまくいっている。10秒01を出した高校生の時より、現在の方が実力は上がっている。追い風参考といえども、9秒台で走るのは大変なこと。風に背中を押されたとしても、あまりにスピードが速くなりすぎると脚を前に踏み込んでいくことができなくなる。

それを踏みきれた結果が9秒87という数字の持つ意味だ。記録を出すことだけを考えるなら、技術面を高めていくだけのことで、公認記録の9秒台は時間の問題といえるだろう。

故障で北京・世界陸上への出場難しく

今年(2015年)は北京で行われる世界陸上を照準にしていたが、5月30日の練習中に右太もも裏を故障。トレーニング再開まで約6週間を要するとのことで、6月26日に開幕する日本選手権(新潟)の欠場が決定的となり、世界陸上の出場は難しくなった。

14年にはアジア大会を股関節痛、左太もも肉離れで辞退。15年の関東インカレも、左太ももの張りで100メートル決勝を辞退している。桐生選手は今のところ、比較的故障が多いタイプに見える。

考えられることは2つ。まず、速く動ける神経を持っていながら、それに筋肉がついていっていない可能性がある。そうでなければ、走りの中で何かしら動きに偏りがあるために、ある1カ所に負担がかかって故障につながっているのかもしれない。

前者はトレーニングでカバーできるが、後者の場合は細かい分析と修正が必要だ。例えば、故障につながる走りのクセがあるなら、それを発見して正していく。ただ高いレベルの競技者になると、思いもよらぬところのわずかな体の動きが、そこと異なる場所の筋肉に負荷を与えて痛みの原因になっていたりして、この作業は非常に難しい。選手がコーチとともに対処していくしかない。

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  • [2015.06.26]

1978年、広島県生まれ。法政大学卒。中学、高校時代に短距離選手として活躍した後、大学から400メートルハードルに専念。2001年、05年の世界陸上で銅メダルに輝き、トラック種目で日本人初のメダリストとなった。同種目で47秒89の日本記録保持者。2012年に現役引退。現在はスポーツコメンテーターのほか、幅広く社会教育活動に取り組む。アスリートのセカンドキャリア支援を行う一般社団法人「アスリートソサエティ」代表理事、ブータン五輪委員会スポーツ親善大使などを務めている。

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