人工知能による「ものづくり」の復権

松尾 豊【Profile】

[2015.08.10] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

最先端の人工知能技術をめぐり、欧米や中国による研究投資、人材獲得合戦が熱を帯びている。日本トップクラスの研究者である筆者は、人工知能は「日本に向いた技術分野。実は、底力も潜在力もある」と主張する。

人工知能研究、3回目のブーム

人工知能がブームを迎えている。1956年に人工知能(Artificial Intelligence)という言葉が作られたのが人工知能分野のはじまりと言われているから、約60年の歴史のある研究分野であり、今回は3回目のブームである。

将棋のプロ棋士に勝つプログラム、クイズのチャンピオンに勝ったIBMの「ワトソン」や、iPhoneに搭載された音声対話システムSiri(シリ)などが人工知能の分かりやすい例だが、技術的にはディープラーニングという技術が注目を集め、破竹の勢いで研究が進んでいる。

例えば、「画像認識」という技術は、画像に映っているものが「花」であるか「ヨット」か「コーヒーカップ」か、などをあてるようなタスクだが、コンピュータはこれが非常に苦手であり、この先何十年も人間に勝つことはないだろうと言われてきた。

人工知能の大家であるマービン・ミンスキーは「子供の得意なことほどコンピュータは苦手である」と表現し、積み木で遊ぶようなことはコンピュータがこなすのが難しかった。画像に映っているものが何かを当てる画像認識もこうした「人間にはやさしいがコンピュータには難しいもの」の典型例であった。(だから、インターネットを使っているときにたまに現れる「CAPTCHA(キャプチャ)」という技術では、ログインしようとしているのが人間かスパムか、つまり悪意をもったコンピュータプログラムかを見分けるために、ゆがんだ数字を入力させる。)

画像認識プログラム、人間の能力を超える

ところが、2012年のディープラーニングの躍進をきっかけに、わずか3年たらずの間に、人間の認識精度をすでに超えてしまったのである。今年の2月にはマイクロソフトが、3月にはグーグルが、それぞれ人間の精度を超える画像認識プログラムを開発したことを発表した。コンピュータはもはや、写真に何が映っているか、あるいは誰が映っているかを人間よりも正確に見分けることができる。飛躍的な進歩である。

ディープラーニングが解いているのは「特徴表現の学習」であり、現実世界のどこに目をつければいいかということ自体を学習するものである。

従来の人工知能の仕組み(あるいは、すべての工学的なモデルや手法と言ってしまってもいいかもしれない)は、現実世界から重要なところだけを取り出し、重要でないところは捨象し、そしてモデル化することによって、効率的な計算を可能にしてきた。そして、現実世界の何に注目するかは、人間が決めてきた。これが大きな問題であった。つまり、「自動的に計算ができる」さまざまな手法も、最初の部分は人間の手がどうしても必要だったのである。ここにディープラーニングの技術は切り込み始めている。その意味するところは大きい。

躍進する海外の企業と大学

こうした技術革新の主役は、米国とカナダを中心とする研究者たち、そしてシリコンバレーを中心とする企業群である。フランスも持ち前の理論数学の強さを活かして急速に追い上げ、中国資本も何とか食い込もうと目論む。

グーグルは、もともと人工知能研究に非常に力を入れている。2012年のディープラーニングの躍進以来、ジェフリー・ヒントン教授という第一人者を2013年には早々に手に入れ、また、2014年初頭にディープ・マインド・テクノロジーという英国の少人数のベンチャー企業を400億円で買収した。当時は多くの人が驚いたが、今となっては全くもって正しい投資であった。

Facebookもニューヨークとパリに人工知能研究所を作り、その予算規模は莫大(ばくだい)であると聞く。所長にニューヨーク大学のヤン・ルカン教授を迎えているが、彼はフランス生まれである。フランスはもともと理論数学が強いが、ディープラーニングには理論数学がかなり重要なこともあって、その存在感を強めている。東海岸からヨーロッパへ、がFacebookの戦略であろうか。

日本は大きく遅れた2番手集団

一方で、中国検索最大手のバイドゥ(百度)は、ディープラーニング研究所を作り、スタンフォード大学のスター研究者アンドリュー・エン准教授を所長に据えた。彼は中国系のアメリカ人であり、香港とシンガポール、米国で教育を受けている。全米各地に散らばった中国系の研究者と大資本の組み合わせが中国の戦い方である。

こうしたインターネットの巨人以外にも、先進的な人工知能技術(あるいはディープラーニング)を活用しようとするさまざまなベンチャー企業が、雨後のたけのこのごとく生まれている。インターネットで圧勝した米国が、次の時代を担う人工知能技術に対しても着実に先手を打ち、圧倒的有利を保ったまま戦いを進めている。それになんとか追いすがろうとするアジア勢は、バイドゥや清華大学などの中国勢、そして香港大学やシンガポール国立大学。日本ははるかに離された2番手集団の一角である。

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  • [2015.08.10]

東京大学大学院工学系研究科准教授。1975年生まれ。2002年同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員などを経て、2007年より現職。専門分野は人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。人工知能学会では現在、倫理委員長を務めている。

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