原子力発電の「ターミナルケア政策」を

吉岡 斉【Profile】

[2015.10.07] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

九州電力川内原発1号機は再稼働したが、本格的な「原発復権」の見通しは立たない。また、国の新規制基準は安全性の保障にはならない。今後必要なのは全面的な原発廃止を視野に入れた総合的政策だ。 

難航する原発再稼働

九州電力川内1号機が、8月11日に再起動、9月10日に営業運転に入った。これは原子力規制委員会が設置されてから最初の原発再稼働となる。福島原発事故(2011年3月11日)から4年半もの歳月を要したことになる。

日本の原子力関係者の願いは、これを機に日本全国で原発再稼働の流れが定着することである。だが2015年内の再稼働は、川内2号機(10月再起動、11月営業運転開始見込み)と合わせ、全国で2基止まりとなろう。原子力規制委員会が本年2月12日に全国で2番目に原子炉設置変更許可を出した関西電力高浜3・4号機は、福井地裁による運転差し止め仮処分決定(4月14日)により、年内の再稼働は絶望的だ。また3番手の四国電力伊方3号機(7月15日許可)も、工事計画認可等の手続きを半年でクリアし今年中に再稼働するのはきわめて困難だろう。

2016年以降も再稼働促進への視界は晴れない。立地自治体の中には原子炉の廃止を要請する自治体(福島県)や、再稼働に抵抗している自治体(新潟県、静岡県、東海村)があり、4者で合計15基の原子炉を抱える。活断層調査・評価により廃止可能性の濃厚な原子炉もある(日本原子力発電敦賀2号機、北陸電力志賀1・2号機、東北電力東通1号機)。前述の高浜3・4号機に加えて、裁判所から運転差し止めを命じられている原子炉もある(2014年5月、関西電力大飯3・4号機)。裁判による廃止は今後も増える可能性がある。

2020年までの再稼働は最大限20基前後か

一方、電力会社が経営的観点から廃止する原子炉も少なくないとみられる。原子炉の寿命は40年と定められ、その延長を認めてもらうには巨額の改修費用がかかるためだ。

すでに本年4月、関西電力美浜1・2号機、日本原子力発電敦賀1号機、中国電力島根1号機、九州電力玄海1号機の計5基が正式に廃止されている。再稼働に成功した原発といえども将来は安泰ではない。福島事故により日本国民の原発に対するリスク認識は変化した。事故・事件・災害等により安全上の問題が露呈すればその都度、多数の原子炉が長期停止や、場合によっては廃止に追い込まれる可能性が高い。もちろん原発の新増設は絶望的だろう。

こうみてくると日本の原子力発電の福島事故前への原状復帰は全く不可能である。廃止されていない原子炉43基(うち5基は新規制基準に適合)のなかで、現実的に2020年頃までに再稼働するのは多くても半数程度、つまり20基前後にとどまるのではないか。それら生き残った原子炉も、全国あるいは世界で起きる事故・事件・災害等により不安定な操業を余儀なくされるだろう。

原子力発電は電力経営の重荷となっていく。原子力発電のコストとリスクを政府が肩代わりする今日の手厚い「原子力発電介護政策」(立地支援、研究開発支援、損害賠償支援、事故処理支援、核燃料サイクルコストの電気料金への転嫁等)が今後何らかのきっかけで見直されれば、電力会社にとって悪夢であろう。

新規制基準が安全性を保証しない2つの理由

さて、福島原発事故前の日本の原子力安全規制が空洞化していたことは、政府・国会の事故調査委員会の報告書や、他の多くの調査レポートによって明らかになった。しかも日本は人口稠密で地形急峻な「自然災害大国」である。原子力発電事業を再建するには、原子力安全規制の抜本的強化が必要だった。それに応えるために2012年9月に原子力規制委員会が発足し、2013年7月に実用発電用原子炉の新規制基準が決定された。

だが新規制基準は原発の安全性を保証しない。その主な理由は2つある。第1は、審査の大黒柱をなす新規制基準が本質的に甘い規制基準だということである。それは大筋において国際水準に追いついたといえるが、国際水準そのものが、大半の既設炉で合格できる水準に設定されている。

新規制基準は事故対策組織を形式的に整備してハードウェアの追加工事といった部分的改善を、支払可能なコストの範囲で行えば、全ての既設原子炉が合格できるようなものであり、実態としては原発設備の本体部分は既設の設備のままで、重大事故対応の可搬式設備を付け加えることでパスできる。地震や津波の想定も若干大きめにした程度であり、簡単な補強工事で対応できる範囲に留めている。

第2は、新規制基準がカバーしているのは国際原子力機関(IAEA)が定める深層防護の第4層までであり、第5層の過酷事故で大量の放射能が原子力施設外に拡散していくケースにおける原子力防災対策の有効性の確保が規制要件に含まれていないことだ。

原子力災害対策特別措置法の定めでは、敷地外の防災・避難計画は立地自治体(道県、市町村)および周辺自治体(原発から30キロメートル圏内にある府県、市町村)に丸投げされている。それらは机上でチェックリストを埋めただけのものであり、誰のレビューも受けていない。原子力規制委員会は防災・避難計画を規制要件としていない。

万全の安全対策はない

原子力発電は、他の技術とは異次元の、時間的にも空間的にも並外れて巨大な災害をもたらすリスクを抱えている。福島原発事故は発生から4年半が過ぎたのに未だ収束していない。福島原発事故による損害額は、現時点ですでに11兆円、将来分も合わせれば数十兆円にのぼることが確実である。

避難者数は2015年9月現在で10万6700人に達する。原子炉の事故収束には「止める」「冷やす」「閉じ込める」の3条件が満たされる必要があるが、循環注水冷却システムによって溶融核燃料デブリを「冷やす」機能は不安定である。

また広範囲に飛散した放射能を回収し「閉じ込める」ことは全く不可能である。しかも事故発生から4年半が経過した現在でも、猛烈な放射線・放射能に阻まれて核燃料デブリの所在を含め事故進行の詳細な経過と原因は解明されていない。経過と原因の詳細が不明のままでは、万全の安全対策を立てることができるはずはない。

「原子力ターミナルケア政策」の必要性

2011年3月から4月にかけて東京電力管内で「計画停電」が強行されたが、それ以降今日まで電力危機が生じたことはない。それは(1)日本に過剰な火力発電設備が残っていたこと、(2)電力消費のベースラインがリーマン・ショック(2008年)を境に大きく落ち込んでいたこと、(3)国民が省電力に努めたこと、の3つの要因による。日本の発電電力量(自家発電を含む)は、2007年に史上最大の1兆1950億キロワットアワーを記録したが、2013年には1兆0905億キロワットアワーと8.8%の減少となった。

今後は人口減少、特に労働力人口の減少や、製造業の地盤沈下などにより、電力消費は短期的変動をはさみつつ「自然減」傾向をたどるだろう。これに省エネの強力な推進と、再生可能エネルギーの最大限の拡大を重ね合わせれば比較的容易に、原子力発電を20基前後からゼロへと着実に接近させつつ火力発電も毎年減少させていく状態を実現できるだろう。2030年頃までに全ての原発を廃止しても、エネルギー需給の観点からは特段の困難が生ずるとは思えない。

原子力発電所を所有する電力会社は抵抗するだろうが、政府が今までの「原子力発電介護政策」を廃止するとともに、原子炉の廃止の電力経営への影響を緩和する政策を講ずれば、原発ゼロ政策への同意を得ることができると考えられる。また立地自治体に対しては、原子力発電所廃止への協力を条件に、今までの電源三法交付金に代わるものとして地域産業転換交付金(仮称)を創設し、財政支援を行う必要がある。これらを総称して「原子力ターミナルケア政策」と呼ぶ。その企画立案のための調査研究を進める必要がある。

(2015年9月28日 記)

タイトル写真=九州電力川内原子力発電所2号機の主蒸気配管室で、重大事故を想定した総合訓練をする運転員ら(2015年10月1日・代表撮影)/時事

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  • [2015.10.07]

九州大学比較社会文化研究院教授。専門分野は科学技術史。1953年富山県生まれ。1976年、東京大学理学部物理学科卒業。同大学院をへて、和歌山大学経済学部講師・助教授、九州大学教養部助教授を経て1994年より現職。1990年代以降は、原子力政策史および原子力政策論を、最も重要な研究テーマとしてきた。2011~12年「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)のメンバーを務める。主な著書に『新版 原子力の社会史-その日本的展開』(朝日新聞出版、2011年)等。

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