史上初のストライキから10年余り:プロ野球「改革」は進んだのか?

玉木 正之【Profile】

[2015.11.20] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

大阪近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの合併構想に端を発し、史上初のストライキが決行されるなど、大揺れに揺れたプロ野球再編問題から10年余り。日本プロ野球「改革」の道のりを検証する。

再編問題に不祥事、経営不振:激震走った2004年の球界

11年前の2004年はプロ野球に関する問題が様々に噴出した年だった。

近鉄球団とオリックス球団の合併をきっかけに、10球団による「1リーグ制への移行」を画策する球団が現れ、それに反対して「2リーグ12球団制の維持」を主張する選手会が、プロ野球史上初のストライキを決行。

この問題は、東北楽天イーグルスの新規参加が認められ、選手会(や多くのファン)の望む形で決着を見た。が、他にも当時存在したドラフトの「自由獲得枠」を利用して獲得しようとした大学生選手に対して、巨人、阪神、横浜(現DeNA)の3球団が「栄養費」の名目でドラフト前に金品を渡していたことが発覚。3球団のオーナーや球団社長が辞任した。

さらに西武鉄道グループの不正経理が発覚して、西武球団オーナーが辞任。ダイエー本社の経営不振から、福岡ダイエーホークスがソフトバンクに売却されるなど、大揺れに揺れたプロ野球は、NPB(プロ野球機構)と選手会が「プロ野球構造改革協議会」を設け、プロ野球界の「改革」に手を付けることになった。

交流戦実施でパ・リーグに注目集まる

それから丸10年。では、「改革」は、どのように進んだのか?

ファンの目線で考えるなら、まずセ・パ交流戦が行われるようになったことが最も具体的な出来事と言えるだろう。それによって巨人の絶大な人気に支えられているセ・リーグだけでなく、パ・リーグ各球団にも多くのファンの注目が集まるようになり、さらに、札幌、仙台、千葉、福岡と全国に広がったパ球団は、地域に密着したビジネスを展開。ダルビッシュ、大谷翔平(日ハム)を初めとする人気選手の獲得と活躍もあり、セ・パの人気の格差は、目に見えて接近した。

他にも、2004年当時の選手会は、次のような6項目をNPB側に要求していた。

  1. MLB(アメリカ・メジャーリーグ)が導入しているLuxury Tax(贅沢税=選手の年俸総額が定められた額を超えている場合、その球団から「税金」を徴収し、経営の脆弱な球団に回す制度)の採用。
  2. 高額年俸選手に対する年俸減額制限の緩和。
  3. プロ野球ドラフトの完全ウェーバー方式化。
  4. フリーエージェント選手移籍補償金の廃止。
  5. 新規参入球団の加盟料(60億円)譲渡による参加料(30億円)の見直し。
  6. コミッショナーによるテレビ放映権の一括管理。

ドラフト制見直しなど、一定の「改革」進む

この中でファンにとって関心の高い問題は、3のドラフト制度の「改革」だろう。現在プロ野球のドラフト制度は、1巡目が各球団の獲得希望選手を指名し、2巡目以降がウェーバー制(交流戦の合計勝ち数で負けたリーグの最下位球団から順に選手を指名)という方式をとるようになった。

この方式は、かなりリーズナブルな「改革」と言える。完全ウェーバー制にした場合、かつての江川卓投手のように「怪物」と呼ばれるほどの実力を持った選手がアマ球界に出現した時に(近い将来の清宮選手がそのケースに当たるか?)、ペナントレース終盤になって、わざと試合に負けて最下位になり、ドラフトの「1番指名権」の獲得を狙う球団が出る――という事態が起こる可能性も否定できない。そのようなナンセンスを回避して、1巡目だけ複数球団指名選手を抽選にするのは理に適った「改革」と言えよう。

また他の選手会の要求も、①の贅沢税の導入と、⑥の放映権一括管理の問題を除き、NPBも選手会も、ほぼ満足できる譲歩のうえに一定の「改革」が進んだと言える。

プロ野球再編問題とその後の動き

2004年6月 大阪近鉄バファローズの、オリックス球団への売却構想が表面化
ライブドアが近鉄球団の買収申し入れ。近鉄、オリックス両球団は拒否
7月 一部球団オーナーの発言から「1リーグ10球団化」構想がとりざたに
8月 両球団が合併基本合意書に調印
株主やプロ野球選手会が合併差し止めを求める法廷闘争
9月 オーナー会議が両球団の合併承認。チーム名は「オリックス・バファローズ」に。
合併の凍結求める選手会と球団側、NPBが団体交渉
18日、19日の公式戦ストライキ
楽天が新球団の加盟申請を表明
11月 楽天参入が正式承認。「東北楽天ゴールデンイーグルス」が発足。
2005年 初のセ・パ交流戦を実施
アジアシリーズが初開催。日本代表の千葉ロッテが優勝
独立リーグの「四国アイランドリーグ」が発足
2006年 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、プロ選手で構成された日本代表チームが優勝
2007年 ポストシーズンの「クライマックスシリーズ」を導入
2009年 日本代表がWBCの2連覇達成
2011年 日本代表(略称・侍ジャパン)の常設化を決定

(nippon.com編集部作成)

WBCの日本連覇で、野球人気の低落に歯止めも

贅沢税の問題は、かつては高い人気を背景に潤沢な資金を駆使できる球団が読売ジャイアンツ一球団に限られていたので主要なテーマとなり得たが、最近は楽天(東北)、ソフトバンク(九州)のように、各地域でのファンの熱い後押しに支えられ、巨人並みかそれ以上に潤沢な資金を動かすことのできる親会社も出現し、「反ジャイアンツ連合」的に贅沢税導入を主張する勢力が小さくなってきた。

MLBの場合は、ニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴのような人口の密集する大都市を本拠地とする球団に対して、カンザスシティ、タンパベイなど、人口の少ない地域はどうしてもマーケットに大きな差が出ることが、贅沢税導入の根拠にもなっている。が、日本の国土の大きさ(狭さと交通網の発達)を考えれば、贅沢税導入の根拠は小さいと言わざるを得ない。

こうして昨今の日本のプロ野球を俯瞰してみると、11年には「清武の乱」と呼ばれる巨人内部の騒動が起こり、13年には「飛ぶボール問題」が発覚するなど、ファンの信頼を失いかける事件が起きたりしたものの、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での2度の優勝(06、09年)もあり、04年の「大騒動」以降、順調な「運営」を見せているようにも思える。

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  • [2015.11.20]

スポーツ評論家、音楽評論家。1952年京都市生まれ。東京大学教養学部中退。スポーツライターとして野球、スポーツ全般をテーマに執筆活動を展開するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして活躍。音楽評論、映画評論も手がける。現在、静岡文化芸術大学、石巻専修大学の客員教授。『スポーツとは何か』(講談社現代新書) 、『スポーツ・体罰・東京オリンピック』(NHK出版) 、『不思議の国の野球(ベースボール)』(文春文庫)など著書多数。

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