ソチ会談で動き出す日露関係 —領土と経済の「抱き合わせ販売」—

佐藤 優【Profile】

[2016.05.07] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | Русский |

ロシアの黒海に臨む保養地ソチで5月6日、安倍・プーチン会談が行われた。この日露首脳会談には、アメリカのオバマ大統領が「G7の結束を乱す」として強い難色を示していただけに、国際社会からも高い関心が注がれていた。ロシア情勢の分析で高い評価を得ている佐藤優氏に、ニッポンドットコムのために緊急の分析を寄せていただいた。日本語とともにロシア語でも記事を掲載する。

5月6日、ロシア南部のソチで行われた日露首脳会談の結果、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の人間的な信頼関係が飛躍的に高まった。日本側の包括的アプローチがプーチン大統領の琴線に触れた。包括的アプローチをより平たい言葉で述べるならば、「抱き合わせ販売」(ロシア語で言う”プラーズニェチュヌィー・ナボール”。祝日用の詰め合わせセットという意味)方式である。ロシア側が望む経済案件を大量に盛り込んだ上で、北方領土問題の解決策もその中に入れておく。そして、これらを全体としてロシアに受け入れさせようとした案である。具体的には安倍氏が提示した8項目のプロジェクトだ。

  1. 日本式最先端の病院、日露健康長寿センターの建設・運営など医療水準を高めロシア国民の健康寿命の伸長に役立つ協力。
  2. 快適・清潔で住みやすく活動しやすい都市作りへの協力。具体的には、都市問題に対応してきた我が国の知見と技術をいかした寒冷地仕様住宅、廃棄物処理システム、渋滞緩和、上下水道の強靱化、都市交通網郵便ネットワーク整備、ブラウンフィールドの開発など。
  3. 日露中小企業の交流と協力を抜本的に拡大する協力で、ビジネスマッチング、ベンチャー支援、職関連の交流などの推進新主体の設置。
  4. 石油ガス等エネルギー開発協力。生産能力の拡充、さらには生産する石油製品の多角化に関する協力。上流から下流まで従来の協力を超える連携強化。象徴的な大規模プロジェクトを形成。
  5. ロシアの産業の多様化促進と生産性の向上のための協力。
  6. 極東地域における抜本的な産業振興、アジア太平洋地域に向けた輸出基地化のための協力。港湾、農地開発、水産物加工、製材所、空港整備など。
  7. 原子力、IT、日露の知恵を結集した先端技術面での協力。
  8. 日露双方の相互理解を一層深めるため、大学、青年等の若者交流や観光客の増大、そしてスポーツ文化などのはば広い分野の人的分野の人的交流の抜本的拡大。

安倍首相は、プーチン大統領に対して、「8というのは日本では末広がり縁起の良い数字であること。私の父の安倍晋太郎が外務大臣当時にソ連に提案した項目も8項目だった。そういう思いで私も日露関係の発展を願って8項目を整備した。このように私としては従来の発想を超えて、ロシア国民が直接恩恵を実感でき、ロシア経済も発展するような協力プランを考えている。これが実現すれば、両国の関係をわれわれ二人で大きく深めることができる。それに向けて私は最大限努力する考えだ。ウラジミールにもこれに応えて真剣に検討してもらいたい。二人で協力して日露関係を飛躍的に発展させたい」と述べた。

プーチン大統領は、この包括的アプローチに対して、強い関心を示したので、会談が3時間10分もの長時間に及んだし、また、9月にウラジオストクで行われる東方経済フォーラムに安倍首相を招待した。ウラジオストクで日露首脳会談が成立する可能性は高い。この場で、安倍首相が腹案として持っているプーチン大統領を安倍氏の選挙区である山口県に招待するというカードを切るのであろう。プーチン大統領の山口訪問は、非公式な性格を帯びることになるが、そこで両首脳が北方領土問題の解決に向けた大きな政治決断を行う可能性が十分ある。

今回、北方領土交渉に関する内容について、双方は外部に漏洩しないように細心の配慮を払っている。安倍首相は、プーチン大統領と北方領土問題について、「双方に受け入れ可能な解決策の作成に向け、新たな発想に基づくアプローチで交渉を精力的に進めていくことで一致した」と述べた。このことから、安倍首相が、「北方四島に対する帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という「東京宣言」(1993年10月)の確認に固執していないことがうかがわれる。今回の首脳会談をきっかけに、日本政府は脱「東京宣言」に静かに舵を切り始めたと筆者は見ている。

バナー写真:ロシア南部のソチでプーチン大統領(左)と会談する安倍晋三首相(写真=Sergei Guneev/Sputnik/Kremlin via Reuters/Aflo)

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  • [2016.05.07]

1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。日本外務省切っての情報分析のプロフェッショナルとして各国のインテリジェンス専門家から高い評価を得た。イギリスの陸軍語学学校でロシア語を学んだあと、モスクワの日本大使館に勤務し、クレムリンの中枢に情報網を築きあげた。著書に『国家の罠』『自壊する帝国』(いずれも新潮文庫)など多数。

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