日本の教員はなぜ世界一多忙なのか?—強制される「自主的な活動」

内田 良【Profile】

[2016.08.12] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

日本の教員の勤務時間は世界一長い。部活動など課外活動に費やす時間が長いためだ。日本の教員はなぜ世界で一番忙しくなってしまったのか。そのリアルな現実を浮き彫りにする。

世界最長の勤務時間

日本の教員が悲鳴を上げている。早朝から夜遅くまで、さらには土日まで出勤し、十分に休みをとることもなく、また新しい週が始まっていく。

経済協力開発機構(OECD)が世界34の国・地域の中学校教員を対象に行った「国際教員指導環境調査」(日本では2013年2月~3月に実施)によると、日本の教員の勤務時間は、調査した34の国・地域の中で最長であった。

最長となった理由は、授業時間数の長さではない。授業に費やした時間は、調査参加国・地域の平均を下回っている。日本の教員は会議や授業準備など複数の項目で、他の国・地域の教員と比べて時間を長く使っている。とりわけ顕著なのは、課外活動に費やす時間の長さである(図1参照)。

「部活動」が長時間勤務をもたらしている

OECD調査における「課外活動」とは、日本においてはいわゆる「部活動」を指すと考えてよい。

日本では中学校や高校といった中等教育機関において、授業前の早朝や放課後、さらには週末に、生徒は教員の指導の下、スポーツや文化活動に参加する。教員はこの部活動の指導に多くの時間を費やしている。

国が学校における教育の具体的な目標や内容を定めた「学習指導要領」によると、部活動の目的は、「スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養(かんよう)等に資する」(「中学校学習指導要領」「高校学習指導要領」の「第1章総則」)ことに求められる。そしてその場が、学校という公的な性格をもった機関によって、低額で生徒に提供されている。すなわち、部活動の意義とは、「授業以外においてスポーツや文化活動に親しむための機会が、生徒に低額で保障されていること」とまとめることができる。

日本特有の「部活動」

学校が授業前後の時間帯や週末に、生徒のスポーツや文化活動に積極的に携わるのは、世界的に見て珍しい。授業以外のスポーツ活動がどこで行われているかを示した国際比較調査(表1参照)によると、日本を含むアジアの各国では、学校でスポーツ活動が実施されているが、他の多くの国では、コミュニティにあるクラブが青少年のスポーツ活動を支えている。

表1 世界の中学校・高校におけるスポーツ活動の場

学校中心型 学校・地域両方型 地域中心型
日本
中国
韓国
台湾
フィリピン
カナダ
アメリカ
ブラジル
スコットランド
イングランド
オランダ
ベルギー
フランス
スペイン
ポルトガル
ポーランド
ソ連(現ロシア)
イスラエル
エジプト
ナイジェリア
ケニア
ボツワナ
マレーシア
オーストラリア
ニュージーランド
ノルウェー
スウェーデン
フィンランド
デンマーク
ドイツ
スイス
ザイール(現コンゴ)
イエメン
タイ

出所:中澤篤史「運動部活動は日本独特の文化である―諸外国との比較から」『SYNODOS』(2015年1月27日)

さらに言うと、アジア各国の中でも、日本はとりわけ部活動の規模が大きい。この国際比較調査を行った、部活動の歴史に詳しい早稲田大学の中澤篤史准教授によれば、「青少年のスポーツの中心が運動部活動にあり、かつ、それが大規模に成立している日本は、国際的に特殊である」(※1)という。

「自主的」という名の強制

国の学習指導要領には、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と記されている。正規のカリキュラムの外において、生徒が自らの希望で好きなスポーツや文化活動に参加するのである。これが部活動の根本原理である。

しかしながら、その内実はまるで異なっている。なぜなら、自主的な活動であるはずのものが、実際のところ、学校によっては生徒全員が強制されているからだ。

また、義務付けられていなくても、現実にはほとんど全ての中高生が部活動に所属している。ベネッセ教育総合研究所が実施した2009年の調査(『第2回子ども生活実態基本調査報告書』)によると、全国で9割の中高生が部活動に所属している(過去に所属した場合を含む)。生徒にとって部活動の参加とは、自主的というよりはむしろ、強制的と言ったほうがよさそうだ。

教員に強制される「全員顧問」

理念上の部活動は、「自主的な活動」である。これは生徒だけに当てはまることではない。部活動の顧問教員もまた、ボランタリーに指導を担当していることになっている。

そもそも部活動は、学校のカリキュラムに定められた教育内容ではない。つまり教員には、部活動を指導する義務はない。生徒の部活動の面倒を自らの意志で見ているというわけだ。

しかし実際には、特に中学校では多くの学校において、「全員顧問」が慣行となっている。やや古い調査だが、文部科学省の全国調査(2006年度実施)によると、ほぼ全員にあたる92.4%の中学校教員が部活動の顧問を担当している(図2参照)。自分の意志に関係なく、顧問が強制されていると言ってよい。

「教育者」である前に「労働者」

教員による部活動指導は、建前上は自主的なものである。従って平日の部活動指導において、勤務時間を超えて何時まで指導を続けようとも、教員が手当を必要とすることもなく、自分勝手にやっているだけにすぎないとみなされる。週末も、数千円程度の手当が支払われるだけで十分とみなされる。部活動が「生徒に低額で保障されている」ことの裏側には、教員の賃金不払い労働が横たわっている。

「自主的」という名の下に不払い労働が許され、しかもそれがほぼ全ての教員に強制されている。日本の教員における世界最長の勤務時間というのは、単純に勤務時間が長いこと以上の問題を含んでいる。

教員は「教育者」である前に「労働者」である。部活動の負担が改善されることで、教員は健全な「労働者」としての立場を取り戻すことができ、ようやく健全な「教育者」として生徒に向き合うことができる。そのための知恵を、私たちは生み出していかなければならない。

(※1)^ 『運動部活動の戦後と現在』(青弓社、2014、p. 47)

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  • [2016.08.12]

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。1976年生まれ。博士(教育学)。専門は,教育社会学。関心テーマは,学校リスク(スポーツ事故,組体操事故,転落事故,「体罰」,自殺,2分の1成人式,教員の部活動負担など)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。著書に『教育という病』(光文社新書),『柔道事故』(河出書房新社),『「児童虐待」へのまなざし』(世界思想社、日本教育社会学会奨励賞受賞)。

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