立法会選挙と香港の未来
香港政治が専門の立教大学准教授倉田徹さんに聞く

倉田 徹【Profile】/野嶋 剛【Profile】

[2016.09.02] 他の言語で読む : 繁體字 |

香港立法会選挙を9月4日に控え、争点が選挙そのものの妥当性に変わった。今後、街頭政治が再燃しかねない状況で、倉田徹氏は、根本解決には香港統治の原点回帰しかないと考える。

争点は独立問題と候補者排除の是非

野嶋 香港の議会にあたる立法会議員の選挙が9月4日に予定されています。4年に1度の改選で70議席を争うもので、2014年9月の雨傘運動以来、初めての選挙となります。香港では、従来の香港政府に近い立場にある「親中派」と、香港の民主化を求めていく「民主派」の二大勢力に分かれていましたが、雨傘運動で注目された「本土派」と呼ばれる若者中心の勢力が現れており、どのような変化が起きるのか注目されています。

倉田 もともと今回の選挙では、雨傘運動で注目された若者たちが政党や団体をつくり、議席を獲得して勢力を増やせるのか、そして、既成政党の親中派や民主派が、この本土派の動きにどう対抗できるかが見どころでした。

ただ、7月半ばになって、突然、香港基本法を守るとする確認文書の署名問題が起きました。本土派が立候補にあたって独立を主張しないことを確認する文書に署名することが求められ、最終的に7人の本土派の候補者が出馬できない状況になりました。

現状では香港が独立できる可能性はゼロに近いわけですが、香港独立を言論レベルで論じていいのか、主張していいのか自体が議論されています。その結果、香港内部の政策的な論点はほとんど影が薄くなり、独立問題にどう対応するか、そして、政治的な思想を理由に候補者を排除する今回の選挙のやり方が果たして正しいのかどうかが最大の争点になっています。

親中派は沈黙、民主派は独立派と共闘せず、本土派は当局に狙い撃ちされる

野嶋 確認文書の問題に、香港の諸政党はどう対応しているのでしょうか。

倉田 親中派は沈黙しています。彼らは、基本的に独立を主張すべきではないという立場ですが、この問題を突き詰めていくと、結局、個人の思想の自由や言論の自由の問題になり、香港市民が大切にしている価値観と対立してしまうため、何を言っても選挙では不利になります。一方、民主派は一斉に抗議しています。ただ、民主派の伝統的な考え方は香港独立には賛成していませんが、政治的思想を理由に候補者を排除してはいけないとの立場です。一方、独立派と共闘はしていません。そこに微妙な溝があります。民主派は、あくまで「中国の一部の香港」という枠組みで民主化を求めていて、本土派の若者たちが主張するような急進的な立場とは違います。

野嶋 当然、本土派は受け入れられないでしょうね。

倉田 本土派は、当選が有望視されていた本土派政党「本土民主前線」のエドワード・リョン氏(梁天琦)がこの事前審査で出馬できないことになり、その点では打撃を受けています。ただ、彼らも戦略を変えて、本土民主前線と友好関係にある本土派政党「青年新政」を支援する形に変えました。青年新政は同情票を集めて善戦しそうな雰囲気で、本当にうまくいくと3人ぐらい当選するかもしれません。

リョン氏はもし選挙に出られていたら当選したでしょうね。他の排除された6人は泡沫候補でしたが、彼はキャラクターが鮮明で、確固たる支持者もいました。リョン氏が狙い撃ちされたのは明らかでした。彼は「香港基本法を守る」という書類に署名もして、独立関係の過去の言論もネット上から削除しました。それでも、香港政府は彼をどうしても排除したかったので、昔の発言を洗いざらい調べて報告書のようなものを作り、最後は官僚が「私が思うに彼は信用できない」と結論付けました。

この記事につけられたタグ:
  • [2016.09.02]

立教大学法学部政治学科准教授。1975年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。大学院在学中に在香港日本国総領事館専門調査員。金沢大学人間社会研究域法学系准教授を経て2013年から現職。中国現代政治が専門。著書に『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会)=2010年度サントリー学芸賞

ジャーナリスト。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。1992年、朝日新聞入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長等を歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)等。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

関連記事
最新コンテンツ

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告