第6回アフリカ開発会議(TICAD 6)で示された日本の新外交戦略

遠藤 貢【Profile】

[2016.09.07] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

6回目で初の現地開催となったアフリカ開発会議(TICAD)。安倍首相による官民総額3兆円の投資表明が注目を集めた一方、中国への対抗姿勢も際立った。

初めてアフリカで開催

第6回アフリカ開発会議(TICAD 6)が8月27・28日の両日、ケニアの首都ナイロビで開催され、「ナイロビ宣言」と「ナイロビ実施計画」を採択して閉幕した。1993年に第1回会合が開かれて以来、初のアフリカ開催である。また、従来の5年ごとの日本での開催に代わり、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催される形での最初の会合でもあった。

TICADの特徴の一つは、日本政府主導ながら、アフリカ側の機関、国連・世界銀行などの国際機関とともに共催するマルチラテラル(多国間)の首脳レベル会合だという点にある。この共催方式が日本とアフリカでの交互開催実現につながった。

第1回から第3回(2003年)のTICADでは、アフリカ諸国の首脳らが参加していた組織「アフリカのためのグローバル連合」(GCA)が共催者として名を連ねていたが、07年9月にGCAは解散。その後、アフリカを代表する別の機関として、アフリカ連合(AU)の事務局であるアフリカ連合委員会(AUC)が共催者の候補となった。

AUCはすでに、中国との間で「中国・アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)、欧州連合(EU)との間で「EU・アフリカサミット」を共催しており、日本からもより多くの支援の獲得を目指していた。また、10年1月にAUが「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)事務局を統合したことは、安全保障領域を中心に活動してきたAUが開発問題への関与を深める方向性を示すものであり、日本側でもAUCの重要性への認識が強まった。そして同年8月、ジャン・ピンAUC委員長(当時)訪日時にAUCがTICADの共催者になることが決定した。

日本とアフリカでの交互開催については、12年7月にAUC委員長に選出されたヌコサザナ・ドラミニ・ズマ元南アフリカ外相が13年6月の第5回会合(TICAD 5)で訪日した際に強い希望を示した。しかし、その段階では交互開催の原則に関する折り合いが付かず、交渉が継続された。その後、14年1月の安倍晋三首相のアフリカ諸国歴訪時にズマ委員長との会談があり、同年5月にカメルーンで開催されたTICAD 5閣僚会議でも交渉が行われた。6月にはAUにおいて、アフリカ開催と3年ごとの開催を希望する決議がなされた。そして9月の国連総会に合わせて開かれたアフリカ地域経済共同体(RECs)諸国との首脳会議で、安倍首相が「持ち回り開催」について具体的に発言し、交互開催が決定した。そして、今年2月に菅義偉官房長官が記者会見で、TICAD 6のケニアでの開催とそれ以降3年ごとの交互開催を正式に表明した。

新課題への対応を迫られたTICAD 6

外務省はアフリカ現地での開催の意義について、アフリカ側のオーナーシップ(自主性)の高まりに応えるものであることを強調しており、これはAUCが掲げる「オーナーシップの強化」と平仄(ひょうそく)が合っている。外務省は同時に、「アフリカの開発に対する日本の貢献、さらには日本の魅力をアフリカの人々、そして世界中に広く発信し認識してもらう」機会になることもその意義として挙げた。

前回のTICAD 5以降、アフリカを取り巻く国際環境は大きく変化した。中国経済の減速などに起因する国際資源価格の下落による経済成長の後退、エボラ出血熱の流行で明らかになった保健システムの脆弱(ぜいじゃく)性、西アフリカ・北東アフリカでの暴力的過激主義の拡大といった新たな課題が生起してきたのである。こうした変化に対応する形で、より柔軟で効果的な支援を打ち出す必要に迫られているタイミングで開催されたのがTICAD 6であった。

今回会合の成果は、宣言と実施計画にまとめられたように、新しい課題に対応する3つの柱で構成されている。第1が、経済の資源依存を低減するための多角化・産業化を通じた構造改革の促進であり、質を重視したインフラ投資や人材育成に焦点が当てられた。第2には、質の高い生活のための強靱(きょうじん)な保健システムの促進であり、全ての人が適切な保健・医療を受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)達成に向けた協力体制強化などがうたわれた。そして第3に、繁栄を共有するための社会安定化促進であり、治安上の不安に包括的に対処することなどが掲げられた。実際にはそれぞれの柱に含まれる内容は多岐にわたっており、安倍首相が表明した3年間で官民総額300億ドル(約3兆円)規模の投資と整合する形で、政策実行が求められることになる。

また、今回の会合の特徴として、日本企業が現地でアフリカの人々や企業に接する機会がつくられた点を挙げることができる。84の日本企業・団体が展示会に出展し、22社・団体がアフリカ側と73件の覚書を締結するなど、日本企業のアフリカでの事業拡大に向けた一つの足掛かりとなった。また、官民連携の枠組みの中で、TICAD の成果具体化に日本企業が参画する契機にもなったことは、アフリカ開催の大きな成果であった。

中国に対抗する新外交戦略

今回のTICADのもう一つの大きな特徴と考えられる点は、日本の中国への明らかな対抗姿勢である。

安倍首相は27日の基調講演で、「日本は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で、自由と、法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任を担っています」と述べた。首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」を目指す新外交戦略は、名指しこそしていないものの、海洋進出の動きを強める中国を念頭に置いたものだ。2008年のTICAD 4以降、アフリカ外交で先行する中国の存在を常に日本は意識してきた。さらに今回、アジアにおける中国の海洋進出を巡る課題をTICADの場に投影したことは、日本の外交戦略全体の中でアフリカを位置付け直す取り組みだとみることができる。安倍首相の発言に対して中国外務省の張明次官が「不適切な発言」との反論を寄せたことは、そうした日本の戦略性を傍証しているともいえよう。

また、安倍首相は自身の演説や各国首脳との会談において、日本の安保理常任理事国入りを含む国連改革の問題を積極的に提起した。宣言と実施計画にも国連改革を巡る対話の継続が明記された。実はこれには伏線がある。昨年12月、中国主導のFOCACで採択された宣言文書には以下の記述が盛り込まれた。「われわれは、第2次世界大戦の結果をゆがめようとするいかなる企てをも徹底的に拒否することを表明する」。ここには日本の常任理事国入りへの中国の強い反対姿勢が示されているとみられている。今回の日本の積極的な国連改革への支持取り付けの動きは、こうした中国の姿勢への対抗という側面を持っている。

今回の会合を通して、TICADは単に政府開発援助(ODA)を中心とするアフリカへの開発協力のためだけでなく、日本企業のアフリカ進出促進、さらにはアフリカを介して日本の外交戦略を推進するためのプラットホームとしての複合的な役割を持つことになった。日本はアフリカを巡る中国との競合関係の中で、このプラットホームを通じて得た今回の諸成果を着実に推し進めることができるか。短期的には達成困難な課題も含まれてはいるが、日本のアフリカ外交を評価する上で、その実行力が重要な判断基準となっていくであろう。

バナー写真:第6回アフリカ開発会議(TICAD 6)閉幕後の記者会見に臨む安倍晋三首相(中央)とアフリカ諸国首脳ら=2016年8月28日、ケニア・ナイロビ(AP/アフロ)

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  • [2016.09.07]

東京大学大学院総合文化研究科(国際社会科学専攻)教授。アフリカ現代政治、現代国際関係を研究。1987年東京大学教養学部国際関係論分科卒業。1989年東大大学院総合文化研究科国際関係論コース修士課程修了。1993年英ヨーク大学大学院南部アフリカ研究センター博士課程修了。東大教養学部助手、大学院総合文化研究科助手・助教授を経て2007年から現職。著書に『崩壊国家と国際安全保障-ソマリアにみる新たな国家像の誕生-』(有斐閣、2015年)など。

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