SMAPが日本の「国民的グループ」であった理由

宇野 維正【Profile】

[2016.09.12] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية |

結成から28年、SMAP解散のニュースは、日本中に衝撃を走らせ、海外でも注目を集めた。年末の解散までの動きが注目される「国民的グループ」の功績とその特異性を振り返る。

解散発表後の不自然さ

8月14日、日本中に衝撃が走った「SMAP解散」のニュースは、彼らのファンがたくさんいるアジア各国をはじめ、世界中にも発信された。

国内では、いまだに週刊誌やウェブのゴシップメディアを中心にその解散の原因や、今後の各メンバーの活動を巡る憶測が報じられ続けている。今回のSMAP解散の奇妙なところは、解散ツアーのようなものが行われる可能性はなく、現在のところSMAP5人での解散を受けての企画(テレビの音楽番組への出演やベスト盤などのCDリリース)が何も発表されていないにもかかわらず、唯一メンバー全員が顔を揃えるテレビ番組『SMAP×SMAP』の放送だけが、活動の期限とされる今年の年末までこれまで通り毎週平然と続けられていることだ。

解散に至った直接的な原因はメンバーの不仲にあったわけではないはずだが、結果的にコミュニケーションに問題が生じているといわれるメンバー同士の姿や表情や発言をテレビの画面越しに毎週見るというのは、それがテレビ局との契約によるものだとしてもエンターテインメントの在り方として不健全な状況だ。アイドルというものには必然的に「見せ物」の要素があるわけだが、現在の彼らは、おそらくは本人たちにとって不本意なかたちで「見せ物」となってしまっている。

『SMAP×SMAP』は先駆的なバラエティー番組

SMAPにとって『SMAP×SMAP』は、彼らの人気と名声を象徴するテレビのバラエティーショーであり続けてきた。1991年のCD デビューから5年後の1996年にスタートし、ちょうど今年で20周年を迎えるこの月曜日の夜の番組には、これまでマイケル・ジャクソン、マドンナ、ロバート・デ・ニーロ、トム・クルーズ、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン、ブラッド・ピット、ウィル・スミス、アラン・ドロン、ソフィア・ローレン、ジェーン・バーキン、ミハエル・ゴルバチョフ、デヴィッド・ベッカム、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマール、ウサイン・ボルトなどなど、数え切れないほどの「通常ならテレビのバラエティーショーに出ることなんて考えられない世界中のセレブリティ」がゲストとして出演してきた。

また、それまで日本のアイドルグループはテレビのバラエティーショーにゲストとして出演することはあっても、ホストとして番組を持ち、そこでゲストに率先して自らコメディーやパロディーを演じたりすることはなかった。そんなさまざまなテレビ界、芸能界の常識を覆してきた『SMAP×SMAP』は、日本のテレビ番組で最も潤沢な制作費が注ぎ込まれてきた番組であり、日本においてアイドルという存在の意味と可能性を広げることとなった先駆的な番組でもあった。

「国民的グループ」の役割を自覚

この番組では、2011年3月に東日本大震災が起こって以来、5年以上たった現在に至るまで毎回、番組の最後にメンバー5人がフォーマルなスーツに身を包んで一列に立ち、視聴者に復興支援を呼び掛けている(現在は、今年4月に起こった熊本地震の被災者への義援金への呼び掛けも加えられている)。大きな災害が起こった後にタレントやミュージシャンがチャリティー活動をすること自体は珍しいことではないが、それをここまで継続的に、毎週、視聴者に向けて行っている例は他にない。

その復興支援への呼びかけのパートは、最初にジャニーズ事務所独立騒動の報道があった今年1月以降も、その都度撮り直されている。彼らはただ日本人の多くから「国民的グループ」と呼ばれていただけではない。その役割を自認して、その立場でその時に何をすることができるかを常に考えてきたグループだった。あるいは、そうした役割があったからこそ、それぞれがソロ活動で人気役者として、また人気バラエティータレントとして活躍するようになって10数年がたっているにもかかわらず、SMAPの一員であり続けてきたという側面もあったのだろう。

そのことを考えると、年内解散が報道されて、グループとしての音楽番組への出演やCMの契約が途絶えてしまった現在も『SMAP×SMAP』だけが続いている理由は、テレビ局との契約問題だけではないことが分かる。彼らは最後まで、少なくともその役割だけは果たし続けようとしている。

若手ミュージシャンの夢も担う

もちろん、SMAPが結成から28年もの期間、グループとして活動し続けてきた理由は、「国民的グループ」としての責務を果たすためだけではない。何よりも彼らはエンターテイナーであり、ステージ上で歌い、踊ることには、言葉にすることができない根源的な快楽と喜びがあっただろうし、そんな彼らの歌い、踊る姿は多くの人々を魅了し続けてきた。

近年、ビヨンセやリアーナ、カニエ・ウェストやジャスティン・ビーバーといったアメリカやカナダのトップスターたちは、インディペンデントで活動している若手ミュージシャンを自らの作品に積極的に起用し、世界中にその才能を知らしめるようになっている。SMAPは、楽曲制作や『SMAP×SMAP』での共演ステージにおいて、日本国内でそれと同じような役割を90年代後半からずっと果たしてきた。今年8月に解散報道があった時も、多くのミュージシャンから「いつかSMAPに楽曲を提供するのが夢だったのに」「SMAPと共演するのが夢だったのに」とその解散を惜しむ声が上がっていた。SMAPは、そんなメインストリームとアンダーグラウンドカルチャーのクロスオーバーを夢見ることができる場所であり続けてきた。

解散の危機は何度もあった

海外では「ボーイバンド」などと呼ばれる活動形態であるSMAPの5人のメンバーも、今年で最年長の中居正広と木村拓哉が44歳、最年少の香取慎吾も39歳。図らずもメンバー全員が40代になる直前に、グループとしての活動を終えることとなった。途中からは役者やテレビ番組MCとしてソロでの活動の比率も多かったとはいえ、自立した5人の大人の男が30年近くずっと一緒に活動していれば、その過程では当然のようにメンバー間に不和が生まれる時期もあっただろうし、オリジナルメンバーの森且行の脱退(1996年)を筆頭に、これまでも解散の危機に何度か直面したことをメンバー自身がふと漏らすこともあった。

何事も永遠に続くものはない。(極めてチケットの入手が困難だった)彼らのライブツアーに足を運んできた熱心なファンも、主にテレビを通して彼らの活動を追ってきたライトなファンも、「SMAPのいる日常」があまりにも当たり前のこととなっていて、これまで「SMAPが解散する」という可能性に思いを巡らすことがなさすぎたという面もあるだろう。50歳になっても60歳になってもSMAPであり続けてほしいという願うファンの気持ちは、メンバーの精神的負担と肉体的負担を客観的に考えれば、ある種の残酷さと隣り合わせでもあった。

SMAPの功績にふさわしいエンディングを

しかし、彼らを育ててきた担当マネージャー(当時)の独立問題に端を発すると報道されている今年に入ってからの解散騒動と、8月14日に発表された「グループとしての解散」という結論は、はた目からは事務所による「強制終了」のようにも見えた。日本のエンターテインメント界においてあまりにも特別な存在であったこの「国民的グループ」の終わり方として、それはふさわしくないものだという気持ちが拭えない。いつか彼らが「解散」することがあったとしても、今回発表されたメンバーの書面やラジオ番組でのコメントには、「このタイミング、このやり方ではしたくなかった」という気持ちがにじみ出ていたし、ファンの間には、メディアを通して一方的な情報が流される解散報道に対して疑心暗鬼が渦巻いている。

SMAPが正式に解散する今年の大みそかまで、残りあとわずか。事務所やメンバー間の意思の疎通において、どこかでボタンの掛け違いがあった(おそらくは一箇所のボタンではなく複数箇所のボタンにおいて)としか思えない今回の解散騒動だが、せめて最後だけは、メンバー全員が自分たちの歴史と功績にプライドを持って、彼らが一貫して体現し続けてきたポジティブな感情をファンと共有できる機会が訪れてほしいと、今は願うばかりだ。日本のエンターテインメント界において彼らが成し遂げてきた功績を踏まえれば、彼らには笑顔で送り出される資格があるし、そうでなくてはいけないと思う。

(2016年9月6日 記)

バナー写真:2016年8月14日、SMAP解散のニュースを一斉に報じる朝刊紙(アフロ)

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  • [2016.09.12]

1970年、東京都生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。「ロッキング・オン・ジャパン」「CUT」「MUSICA」などの編集部を経て、現在はウェブマガジン「リアルサウンド映画部」主筆。主な著書は『1998年の宇多田ヒカル』『くるりのこと』(共に新潮社、2016年)。

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