IoT展示会に衣替えした「CEATEC JAPAN 2016」に見る日本の電機メーカーの戦略

大河原 克行【Profile】

[2016.11.14] 他の言語で読む : ENGLISH |

アジア最大規模のIT・電機の展示会「CEATEC JAPAN」が、IoTを中心とする内容に衣替えした。その背景を解説し、2016年の展示から国内電機大手の戦略を分析する。

今の時代の「最先端技術」にフォーカス

「CEATEC JAPAN 2016」が、千葉市の幕張メッセで10月4日から7日まで開催された。2000年に第1回が開催されたCEATECだが、15年は過去最低の来場者数および出展者数となり、開催意義を問われる状態だった。そこで17回目を迎えた今年のCEATEC は、内容を従来の「IT・エレクトロニクス総合展示会」から「CPS/IoT 展示会」へと大きく変更。来場者数は14万5180人(前年は13万3048人)、出展者数は648社・団体(同531社・団体)と前年実績を上回った。

CPSとは、Cyber Physical Systemの略称であり、実世界(フィジカル空間)にあるデータをセンサーなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術を駆使して分析、知識化。そこで創出した情報や価値をフィジカル空間に戻し、産業の活性化や社会問題の解決を図る仕組みを指す。一方、IoTはInternet of Things(モノのインターネット)の略称で、全てのモノがインターネットに接続される世界のことを指し、CPSの根幹をなすものだと位置付ける。

主催3団体の1つである電子情報技術産業協会(JEITA)の長尾尚人代表理事は、CEATECの衣替えの狙いを次のように語る。

「これまでのCEATECは一般的に家電見本市と言われていたが、CEATECの意味はCombined Exhibition of Advanced TECnologyであり、日本語にすると先端技術複合展示会。過去の家電製品は、高機能なものを大量に安く供給し、それが生活を豊かにしてきたが、現在の人の暮らしを豊かにするのは、家電とサービスが一体化すること。そこに価値が生まれ、収益が生まれる。その潮流を捉え、コンセプトと構成内容を百八十度変えた。新たなCEATEC JAPANにおいては、『見せましょう、日本の底力』をメッセージとして、世界に発信したい」

CPS/IoTという最先端技術にフォーカスすることで、名称に込めた本来の意味へと展示内容を変更したのが、今年のCEATECというわけだ。

日本の電機復活の鍵は「CPS/IoT」?

では、CEATECはなぜ「CPS/IoT」にフォーカスしたのだろうか。

最大の理由は、CPS/IoT市場の中核をなすセンサーが、日本の電機業界にとって、今後の重要な成長ドライバーになると見ているからだ。

電子情報産業における全世界の生産額は、過去10年間で約1.5倍に拡大。2016年の推計では327兆円に達すると見られている。だが、このうち日本企業の生産額はこの10年間にわたって40兆円前後で推移。16年推計でも44兆円にとどまる。日本の電機産業が、世界の成長に追随できていない実態が浮き彫りになる。

日本企業の生産額が横ばいとなっている理由には、円高局面が長く続いたことも影響しているが、一方で成長領域への取り組みが遅れたことを指摘する声が少なくない。

JEITAの調査によると、日本企業は15年時点で、電子部品で38%、AV(オーディオビジュアル)機器で31%、コンピューター・情報端末では15%という高い世界シェアを持っている。だが、上記の各分野が電子情報産業の世界生産額全体に占める比率は06年と比較して、AV機器は4ポイント減の6%、コンピューター・情報端末は4ポイント減の16%、電子部品は2ポイント減の8%と、いずれも下がっている。

その一方で、市場構成比が高まっている分野において、日本企業のシェアは低い。クラウドなどのITソリューション・サービスは、この10年間で4ポイント増の26%に、スマホなどの通信機器は6ポイント増の20%となっているが、これらの市場における日系企業のシェアは、それぞれ7%、6%といずれも10%以下にとどまる。成長市場で存在感を示せていないのだ。

センサー分野に活路を見いだす日本の電機産業

だが、IoTの広がりとともに今後の成長が見込まれるセンサー分野においては、日本企業が高いシェアを持つ。

センサー市場全体に占めるシェアは54%。その内訳を見ても、イメージセンサーなどの光度センサーのシェアは69%、温度センサーは67%、慣性力センサー(加速度センサー、位置センサー、流量計など)は34%、圧力センサーや気圧センサーでは30%となっている。

そして、この分野の成長率が極めて高くなるとは、各種予測に共通したものだ。

JEITAによると、全世界のセンサー市場は2014年に532億個の市場規模であったものが、25年までの年平均成長率は10%で、14年の2.9倍となる1522億個に拡大するという。また、金額ベースでは25年までに年平均11%増で成長し、3.2倍の9兆円に達するという。

さらに、日本が得意とするウェアラブル端末、ワイヤレスモジュールなどIoT関連製品や、CPSを実現するために不可欠な人工知能(AI)およびロボットなどの領域でも日本の技術が発揮できれば、周辺領域にまでビジネスチャンスが拡大し、日本の電機産業の成長の可能性はさらに高まるというわけだ。センサーだけの「一本足打法」にとどまらず、成長領域をいかに取り込むかがこれからの課題と言えよう。

IoT先進国の片りんを見せた今回の展示

今回のCEATECは、こうした成長市場に向けて、日本の電機各社がのろしを上げる場になった。

主催団体の1つ、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の会長を務める富士通の山本正已会長は、「過去の人類、社会の進化の背景には、テクノロジーの貢献があった。蒸気エンジンや電力は産業革命を引き起こし、豊かな社会を実現した」と前置きし、「IoTはこれに勝るとも劣らない大きなインパクトを持つテクノロジー。日本は技術立国であり、これまでにも数々のイノベーションを実現してきた。IoT時代においても世界をリードしていく役割を果たすべきだと考えている」と語る。

また、JEITA会長を務める日立製作所の東原敏昭社長は、「日本は技術者のレベルが高く、機器の稼働が正確であるため、品質の高いデータを取得できる。つまり、日本はCPS/IoTを活用しやすい環境にあるとも言える。また、センシング技術や、そこから得た知見を実装する技術は、日本が得意とするところである。IT・エレクトロニクス業界に大きなビジネスチャンスが来たとも言え、『課題先進国・日本』が社会課題を世界に先駆けて解決していくことで、国際貢献ができる」と述べる。

展示会場を見ても、日本の技術を生かした展示がめじろ押しで、来場者からは「例年よりも見どころが多かった」との声も聞かれた。

例えばパナソニックは、非接触肌センサーと特殊印刷技術を応用したメーキャップシートを参考展示。一人一人にぴったりの肌の色を再現したナノレベルの極薄シートを肌に貼れば、シミやそばかすを目立たなくできる。また、人体通信応用デバイスのデモンストレーションも実施。この技術を活用することで、握手するだけで名刺の情報を交換したり、何も持たずにドアを開錠したりといったことが可能になる世界を表現した。

パナソニックが展示したメーキャップシート。鏡台のセンサーが人によって異なる肌の状態を分析し、専用プリンターがシミや毛穴に合わせたシートを印刷する(ロイター/アフロ)

また、シャープは「AIoTスマートホーム」を提案する中で、2017年前半にも発売する予定の「ホームアシスタント」を参考展示。AIoTとは、AIとIoTを組み合わせた「モノの人工知能化」を目指すシャープ独自のコンセプトで、家電製品をつなぎ、日常的な言葉で対話をしながら、スマートホームを実現する様子を見せた。

人の言葉を判断し、エアコン、テレビなどの家電を操作する、シャープのタマゴ型ロボット「ホームアシスタント」。温度と湿度のセンサーを内蔵する(時事)

さらに三菱電機は、話した言葉を指でなぞった軌跡に表示する音声認識表示技術「しゃべり描きUI(ユーザーインターフェース)」や、レーザー光を利用して微小粒子状物質PM2.5の濃度を高精度に検出する小型空気質センサーの計測デモのほか、次世代自動車運転支援技術として、3D(3次元)ヘッドアップディスプレーの実機デモなどを行った。

三菱電機の「しゃべり描きUI」は、話しながらタブレットやスマートフォンの画面を指でなぞると、言葉が表示される。多言語翻訳機能と組み合わせ、他の言語で表示することも可能

そのほか、富士通はセンサーモジュールを靴の中敷きに埋め込み、運動時の各種データを取得するデモンストレーションも行い、NECはイヤホンを使用して、耳穴からの反響音特性で個人を特定する「耳音響認証技術」を参考展示してみせた。

このようにCEATEC JAPAN 2016では、日本の強みであるセンサー技術を活用したCPS/IoTに関する展示が目立った。

だが、CPS/IoTの実現においては、従来の枠組みや産業の垣根を越えたパートナーシップが重要であるほか、電機大手が積極的にベンチャー企業と関係を強化する必要もある。今回のCEATEC では、自動車や金融、セキュリティー、おもちゃ、旅行、流通などの異業種からの出展が相次いだ。これらの企業でもロボットなどを展示。電機業界との連携ぶりを強調した。

今後、こうした企業との連携を加速させることは、日本の電機メーカーがCPS/IoTにおけるリーダーとしての存在感を発揮することにつながり、復活の道を歩むきっかけになる。そうした形での成長に向けた片りんを見ることができたのが、16年のCEATEC だったと言えそうだ。

トヨタ自動車は、車のカップホルダーに入れられるサイズのコミュニケーションロボット「キロボミニ」を展示した。ユーザーの好みや思い出を記憶し、その後の会話に反映する。本体の希望小売価格は税抜き3万9800円で、2017年に全国で発売予定

バナー写真:「CEATEC JAPAN 2016」の会場に設けられた「IoTタウン」のコーナー(時事)

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  • [2016.11.14]

フリーランスジャーナリスト。1965年東京都生まれ。ITビジネス専門紙『週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)』の記者、編集長を経て、2001年からフリー。20年以上にわたり、IT業界、電機業界について取材、執筆を行っている。著書に『ソニースピリットはよみがえるか』(日経BP社/2005年)、『松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略』(アスキー新書/2009年)、『図解 ビッグデータ早わかり』(KADOKAWA/2013年)、『究め極めた「省・小・精」が未来を拓く 技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ』(ダイヤモンド社/2015年)など。

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