外国人介護人材門戸拡大から介護技術移転へ—いま日本に必要な長期的ビジョン

平野 裕子【Profile】

[2017.01.17] 他の言語で読む : ENGLISH | العربية |

2025年に想定される大幅な介護人材不足を踏まえ、政府は外国人介護職に門戸を広げる施策を決めた。だが、近視眼的な受け入れ体制には課題が多い。介護技術の海外移転も視野に入れた長期的ビジョンが必要だ。

技能実習制度の拡充と在留資格の新設

超高齢化社会日本における現時点での介護職者数は、176.5万人(文末参考資料①)であるが、団塊の世代が後期高齢者に達する2025年には、その数が37.7万人不足する(②)といわれている。この現状を踏まえ、16年秋の臨時国会において、技能実習制度を介護領域に拡大すること、外国人の在留資格に、新たに「介護」を設けることが決まった。

技能実習制度の拡大は、発展途上国への技術移転を名目とした制度を、これまでの農林水産業、工業等の領域から介護という領域に拡大し、技能実習生を介護労働力として確保するもの(以下「介護技能実習生」)、在留資格の新たな枠は、介護福祉士養成施設に2年以上在籍し介護福祉士の国家資格を取得した留学生に、介護福祉士の在留資格を与え引き続き日本での滞在を認めることで、介護労働力を確保するもの(以下「在留資格『介護』での受け入れ」)である。

介護人材不足への近視眼的な政策

筆者は、10年来、二国間経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士の研究に携わっているが、このたびの外国人介護人材の導入についても、EPA制度と同様、いまだに長期的ビジョンに立った政策が打ち出せない日本政府の対応を残念に思う。つまりあらゆる政策が「いかに外国人を介護人材として確保するか」という目先の課題に対処するために近視眼的になっているのだ。このため、在留資格「介護」での受け入れにおいては、民間主導の介護福祉士の留学プログラムを監督する機関がなく、悪質な仲介業者による留学生に対する人権問題の発生を抑制する手続きが検討されていないなど、課題は多い。

看護・介護の従事者は「感情労働」(③)という極めて高度な技能を要する。このため、外国人介護人材の獲得は、人数が足りないからといって、事業を拡大した工場が労働者の数を増やすように介護労働者を機械的に増やせばよいという単純な対処で済む問題ではない。

また、日本がこれからもアジアの人たちを引き付け、労働力を吸収し続けていくことができると楽観視はできない。むしろ、昨今の中国をはじめとする新興工業国の経済的台頭に比して存在感が落ち目にある日本が、今後どうやって国際社会で生き残っていくのかを大局的に考えた上で、外国人材の受け入れを長期的ビジョンに立って検討する時期に来たように思う。

EPA看護師・介護福祉士が定着しない理由

そもそも介護領域に外国人を導入するのは、今回が初めてではない。日本では2008年からEPA制度下で介護福祉士の受け入れが始まっていたのだから、そこから学ぶことも多いはずだ。鳴り物入りで始まったEPA看護師・介護福祉士たちが、当事者もそして受け入れ病院・施設も大変な苦労をして国家資格を取得したにも関わらず、なぜその16~38%が帰国したのか。帰国した看護師、介護福祉士らに話を聞くと、「仕事が忙し過ぎて結婚生活と両立できない」「看護・介護労働で身体を壊した」との声が多かった。これらは、日本人看護師や介護職者の離職理由と重なることに注目しなければならない。

つまりアジアの人々は国家資格を取得、そしてそれによって長期的に日本で滞在が認められたとしても—EPAでは、介護福祉士の国家資格を取得した者は、3年ごとの在留資格の更新を無制限に行うことができる—それでも帰国を選ぶものが少なくない現実がある。そしてその背景には、日本人にも共通した厳しい労働条件があるのだ。日本人、外国人を問わずより多くの介護人材を確保し続けようとするならば、労働条件の改善は必須である。

「介護職」が存在しないEPA締結国

一方、筆者がインドネシアのEPA帰国者に対して行ったヒアリングによると、EPA帰国者には、日本に行ったのは良い経験になった、という声もあった。それは単に貯金ができたからという経済的な理由とは別に、「高齢者看護・介護に触れることができたこと」に対する評価である。もともと「介護職」という専門職は、EPA介護福祉士の送り出し国であるインドネシア、フィリピン、ベトナムには存在しない。それらの国と日本との間には疾病構造や平均寿命、文化的な背景の違いなどがあり、高齢者のケアは施設ではなく自宅において、もっぱら家族によって担われているためである。

「まるで自分の祖父母に対して接するよう」に利用者に対して行う介護は、母国での看護学校では教わったことがない新しい経験だった、と語るEPA介護福祉士。「介護保険制度は日本の素晴らしいシステム。将来はインドネシアも高齢化するので、インドネシア版の介護保険制度を作ってみたい」と語るEPA看護師。「日本の在宅ケアは、(インドネシアにはまだないから)これからの新しい領域になると思う」と語るEPA介護福祉士。

これらの評価は、インドネシアで看護課程を修了して来日した者(インドネシア、フィリピンから来日するEPA介護福祉士候補者の中には、出身国で看護以外の課程を修了してきた者も含まれる)に多く見られ、日本の「介護」の対象や介入方法が、インドネシアにおいて新しい看護分野として認識される可能性を示唆していた。あるEPA介護福祉士は、筆者に「これからはインドネシアで、介護職として渡日する人たちを養成する学校を作りたい」と語った。

超高齢社会日本で働いた彼ら・彼女らは、まもなく高齢化していく母国インドネシアの将来の姿を重ね合わせたのだろう。日本語を習得し、日本の文化にも日本人の働き方にも慣れた彼らは、まさに後進の育成にうってつけと思われた。

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  • [2017.01.17]

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授。専門は保健医療社会学。1997年3月東京大学大学院医学系研究科保健学専攻博士課程修了・博士(保健学)取得。九州大学医学部助教授、大学院医学研究院准教授を経て2011年4月より現職。07年以降、経済連携協定下での外国人看護師・介護福祉士受け入れに関する国際共同研究に携わっている。

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