国立大学で進む学部再編は一体何をもたらすのか

松浦 良充【Profile】

[2017.03.20]

国立大で、数十年ぶりの新学部設置などの学部再編ラッシュが進行中だ。キーワードは「文理融合」と「地域貢献」。文科省の考える重点支援に沿って各大学が動いた結果だが、最高学府としての存在意義を損なうことにならないのか。大学改革の影響について比較大学論を専門とする筆者が考察する。

学部再編の嵐

「地域デザイン科学」「生物資源産業」「社会共創」「芸術地域デザイン」「地域資源創成」

いずれも2016年度に開設された国立大学の新学部名である(順に宇都宮、徳島、愛媛、佐賀、宮崎の各大学)。これらを含めて14の国立大学で学部が新設・改組された。さらに17年度には11の大学で学部の再構築が予定されている。このほか学科の新設・改組、入学定員の改訂、大学院研究科などの改編も相次ぎ、国立大学の研究教育組織の再編成が活発化している。

新設・改組された(る)学部の領域は多岐にわたるが、文理融合や地域貢献を標榜するものが目立つ。例えば宇都宮大学地域デザイン科学部は、「コミュニティデザイン」、「建築都市デザイン」、「社会基盤デザイン」の3学科構成である。

愛媛大学社会共創学部も、「産業マネジメント」(産業マネジメント/事業創造)、「産業イノベーション」(海洋生産科学/紙産業/ものづくり)、「環境デザイン」(環境サステナビリティ/地域デザイン・防災)、「地域資源マネジメント」(農山漁村マネジメント/文化資源マネジメント/スポーツ健康マネジメント)の4学科(コース)を擁する。いずれも文理融合の学際的な観点から地域に貢献する人材の育成をめざすものだ。

「新設」学部とは言っても、いずれも学内の既存学部から入学定員や教員を「割譲」して構成される「再編」というのが、今回の国立大学改革のもう一つの特徴である。特に教員養成系学部の定員減やいわゆる「ゼロ免」課程の募集停止に連動する例が多い。16年に新学部等を開設した14大学のうち10大学がこれに当たる。

「ゼロ免」課程とは、教員養成系学部に設置された教育職員免許状の取得を卒業要件としない課程のことである。少子化に伴う教員採用数の減少や卒業生の進路の多様化を受けて、1987年以降、「生涯教育」「芸術」「文化」「スポーツ」「地域」「心理・カウンセリング」「情報」「環境」「国際・異文化」などの課程が開設された。

しかし2006年以降、やはり教員需要の変化から、ゼロ免課程の学生募集を停止し、再度学校教員養成課程に特化した学部に再転換する方針が採られるようになった。そしてこの傾向は、後に述べる文部科学省による国立大学の「ミッションの再定義」や「組織及び業務全般の見直し」の施策によって、16年以降さらに拍車が掛かることになった。

国立大学の法人化と機能強化

国立大学は、2004年に法人化された。それ以前の国立大学は国の行政組織であり、財政や人事など制度的な制約が強かった。法人化の目的は、組織・経営面での柔軟性や自律性を高め、各大学が自主性を発揮して特色ある研究教育を活性化させることだった。

他方で法人化は、教職員の非公務員化を図るといった、国の行財政改革の一環として実施されたという側面もある。法人化後、各大学の経営の基盤的資金として国から支出される運営費交付金は、毎年、前年比で1%ずつ減額されることになった。この減額は10年度に事実上凍結されたが、運営費交付金の総額は13年度まで減少が続いてきた。

文部科学省は13年度から各国立大学との意見交換を経て、法人化の核となった「各大学の強み・特色・社会的役割」という考え方を見直し、国立大学のミッションを再定義することにした。さらに「国立大学改革プラン」を策定し、各大学の機能強化を推進するため、第3期中期目標期間(16-21年度)において、「各大学の強み・特色を最大限に生かし」「自主的・自律的な改善・発展を促す」仕組みとして、各大学の取組の成果に基づいて、「教育研究組織や学内資源配分を恒常的に見直す環境を国立大学法人運営費交付金の配分方法などにおいて生み出す」との方針を掲げた。

こうして15年6月、文部科学大臣決定として公表されたのが、「国立大学法人などの組織及び業務全般の見直しについて」である。それは広くマス・メディアによって報道され、大きな反響を呼んだ。国立大学に速やかな組織改革を求め、「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」としたのである。

そしてこの「見直し」は、運営費交付金の重点配分によって推進されることになった。見直しの際、重視されたのが、以下の3つの枠組みだ。

  1. 地域に貢献する取組とともに、世界ないし全国的な教育研究を推進する(地域貢献型=55大学)
  2. 地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する(世界・全国型=15大学)
  3. 世界で卓越した教育研究、社会実装を推進する(卓越型=16大学)

各国立大学は、機能強化の方向性として設定された上記3枠組みのうち、その「強み・特色」に適合した一つを選択する。そして第3期における「ビジョン」と「戦略」をまとめ、具体的な取組とその達成状況の判断基準となる「評価目標」(測定可能な評価指標)を提出する。その評価結果が資金配分に反映されるのである。各大学は基幹運営費交付金の約1%の財源を拠出し、そうして集まった総額約100億円が文科省によって再配分されるのだ。

16年度は、従来の交付額に対して118.6〜75.5%の範囲で資金が配分された。その結果、増額が42大学、減額が43大学(配分要望なしが1大学)だった。最大増加額は約7000万円、最大減少額は約5000万円。17年度は取組の進捗状況も含めて評価され、最終的に113.0〜78.3%の範囲で配分された。増額が41大学、減額が45大学で、増額の最多は約5500万円、減額は約3000万円だった。

国立大学改革の課題

16年度と17年度に学部を新設・改組した(する)25大学のうち18が地域貢献型である。またその半数の9大学が2年連続で増額配分を受けている。活発な学部再編の動きを見る限り、一連の国立大学改革は一定の成果を上げているようにも見える。

しかし課題も多い。第1に重点支援による増額は、年間数千万円に過ぎない。改革の誘因にはなったとしても、新たな研究教育を創出するための実質的な資金としては不十分だ。結局は既存組織を組み替えるしかない。学部名称には新奇性があっても、その研究教育の中身がどれほど新しいものになるかは疑問である。

第2に文科省は各国立大学の自主的な改革を強調するが、他方で教員養成系や人文社会科学系の再編などの方向性も指し示してくる。各大学の運営は文科省の資金配分に大きく影響されるため、そうした方向に向かわざるを得ない。学部名称は個性的であっても、地域貢献や文理融合など、蓋(ふた)を開けてみると各国立大学の改革が同じ方向に向いているように見えてしまう。

第3に、こうした文理融合や地域貢献型の学部は、果たして「社会のニーズ」に合致したものなのか。現在の大学改革では「機能強化」という用語に明確なように、大学を社会的要請に応えるための「機能」として捉える傾向が強い。そしてその機能の達成度を測る客観的な評価基準が求められる。ただし大学を社会的な「機能」とみなすということは、「大学の研究教育の目的が、大学の外部から提示される」ということを意味する。

しかし社会的なニーズとは何か。受験生や親の要望か、地元企業の要請か、政府の方針か。結局は多様なニーズの中から、大学が自らの社会的使命や目的を選択する必要がある。そこにこそ「大学の自主性」と「学問の自由」の存在意義がある。社会的なニーズを代弁するのは政府ではない。政策に無批判に呼応するだけでは、学術の府としての大学の使命(ミッション)を、大学自ら損なうことになるのではないか。

国立大学が法人化されたのには、さまざまな経緯と事情がある。しかし法人化によって国の行政組織ではない独立性を獲得したことの意味は大きい。学術の発展は、学問や思想の自由を基盤としてこそ成り立つ。資金獲得や元官僚の再就職のために大学が存在するというようなことがあってはならない。そうした矜持(きょうじ)を失うことがないよう、私学も含めて心したい。

バナー写真:社会共創学部が新設された愛媛大学(アフロ)

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  • [2017.03.20]

慶應義塾大学文学部教授・文学部長。一般社団法人日本教育学会副会長。日本学術会議連携会員。1958年生まれ。同志社大学卒業、国際基督教大学大学院修了。専門は、比較大学史・大学論、高等教育思想史。主な著書に『現代教育の争点・論点』(編著・一藝社、2015年)、『対話の向こうの大学像』(共著・岩波書店、2014年)など。

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