難航する燃料デブリ調査:福島第1原発事故から6年

高橋 秀樹【Profile】

[2017.03.06] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

東京電力福島第1原発事故から6年、廃炉作業が続く現場を訪れた。

原子炉建屋の相次ぐ水素爆発、全面マスクに真っ白な防護服姿の作業員たち、警報を発する線量計、そしてその後に続いた汚染水との苦闘――。6年前から現場を見てきたが、今、目の前に広がる廃炉の光景は事故発生当時と大きく異なる。

建屋地下に流れ込んで汚染水となる地下水を減らそうと敷地の大部分は舗装され、雨が地中に染みこんで地下水が増えるのを防いでいる。土があった部分は灰色のコンクリートに変わった。敷地内に林立する900基以上の巨大なタンク群は確かに異様な光景ではあるが、中身は放射性物質をほぼ取り除いた水で、高濃度汚染水をためていた時に比べればタンクから出る線量は低下した。

東京電力福島第1原発を敷地西側から臨む。おびただしい巨大タンク群の向こうに事故を起こした1~4号機が見える=2017年2月17日(筆者撮影)

そうした現場環境の改善もあって、全面マスクや防護服を着用しなくても済むエリアが大幅に広がった。作業員たちが談笑しながら歩く姿は、まるで普通の工事現場のように見えなくはないが、もちろんまだ人が容易に立ち入ることができない場所は存在する。その1つが原子炉建屋である。

広まった誤情報

今年2月上旬、海外で「またフクシマで大変なことが起きている」「放射線量が急上昇したようだ」といった噂が飛び交った。東電・国際廃炉研究開発機構(IRID)・東芝が1月下旬から実施した2号機格納容器内部の調査で、推定500シーベルトを超える箇所があることが判明したのがきっかけだった。

もし人間が浴びれば死に至るであろう線量ではあるが、現実には格納容器で遮蔽(しゃへい)されており、人への影響も、建屋外の環境汚染もあり得ない。2号機では事故で原子炉内の核燃料が溶融し、格納容器へと落下したのだから、廃炉作業の工程でこのレベルの線量が確認されることは想定内ではあった。しかしニュースが海外に広まる過程でどうやらこの数字だけが一人歩きして、肝心の「放射線は格納容器で遮断されている」という情報が欠落してしまったようだ。

福島第1原発2号機の原子炉建屋=2017年2月17日(筆者撮影)

実際に建屋の前に立てば、そんな殺人的な放射線が原子炉建屋の外に出てきているわけでもなければ、再び周辺地域の環境を汚染しているわけでもないことが分かる。事故から6年が経過してもなお、こうした誤った情報が広まってしまうことには正直、残念としかいいようがない。うそや間違った情報の拡散は地元への新たな風評被害につながりかねないだけに、繰り返し正確な情報を発信していくしかないのが現状だ。

成功したカメラ調査

その2号機の調査を振り返ってみたい。2号機は6年前の東日本大震災発生時、1、3号機とともに運転中だった。地震で原子炉が緊急停止したものの、津波で全電源を喪失し燃料の冷却ができなくなって、3基とも原子炉内の燃料が溶融(メルトダウン)した。溶融燃料は原子炉底部を突き抜け、構造物を溶かして混ざり合いながら燃料デブリとなって直下の格納容器下部に落ちた。

2号機の燃料デブリを遠隔操作機器で確認しようというのが今回の調査である。原子炉直下へのアクセスルートには、巨大な丸底フラスコ形の格納容器下部にある「X-6」という直径約60センチの貫通部が選ばれた。X-6は分厚い鉄製の蓋で厳重にふさがれている。格納容器内の線量が高く、作業員が長くとどまるのは難しいため、遠隔装置で蓋に直径11.5センチの穴を開けた。その上で1月26日と30日に作業員が交代でカメラを先端に装着した伸縮式のパイプを差し入れて内部を撮影した。X-6の内側、すなわち格納容器内部には、原子炉直下の足場に向かって幅60センチ、長さ7.2メートルの機器交換用レールが設置されている。作業員はこのレールに沿って、カメラを押し込んでいった。

26日の調査ではレールの途中までを撮影し、大きな障害物がないことを確認。30日の調査ではさらに奥へとカメラを押し入れ、原子炉直下の作業用足場の一部を撮影することに成功した。福島第1原発事故後、原子炉直下にカメラが入るのは全号機を通じて初めてのことである。カメラのライトが照らし出した光景は、鉄製の足場がまるで「あめ」のように曲がって垂れ下がり、黒とも茶色ともいえない堆積物がそこら中にこびりついているという衝撃的なものだった。

1月30日の調査でカメラがとらえた2号機原子炉直下の作業用足場(グレーチング)。足場が溶けて脱落している箇所が複数ある=国際廃炉研究開発機構(IRID)提供

熱で変形したらしい足場は何カ所も脱落して、中には1メートル四方の大きな穴が空いている場所もあった。堆積物は燃料デブリの可能性があったが、カメラには線量計も温度計も付いていないため、この日の調査では判定できなかった。

この調査で、機器交換用レールの途中に推定線量530シーベルトという箇所があることも判明した。画像に入った放射線によるノイズから線量を推定したものだ。この数字をきっかけにして、前述したような誤情報が海外に広まっていったのである。

不可解な線量の逆転

次に格納容器内部に調査機器が入ったのは2月9日。機器交換用レール上で確認されていた堆積物を、自走式ロボットから高圧水を噴射して除去する作業だ。次に本格調査用として投入するサソリ型ロボットの走行ルートを確保しようという狙いだった。

レールにこびりついていた堆積物は厚さが最大約2センチで、格納容器内の塗料やケーブルのカバーなどが溶けたものと推定された。レール上の長さ約5メートルにわたって付着しており、このうち約2メートルの範囲は高圧水で除去できたが、周囲の高線量でロボットのカメラが不調になったため作業時間を短縮せざるを得なくなり、残りは除去できなかった。この除去作業中の画像からは、機器交換用レール上で推定650シーベルトの場所があることが分かった。

ここまでの調査で、原子炉直下の状況や推定線量など新たに分かったことが多い半面、不可解な点も浮上した。画像のノイズから推定した線量は原子炉直下で20シーベルトなのに対し、原子炉を支える円筒形のコンクリート製基礎(ペデスタル)より外側、つまり直下ではない場所で1桁高い500シーベルト超の高線量だった。

燃料デブリがあるとみられた原子炉直下よりも、燃料デブリの落下範囲ではないはずの場所が高線量となっている理由は何か。いったいそこにどんな線源があるというのか。東電福島第1廃炉推進カンパニーのプレジデント・増田尚宏氏も首をかしげていた。

東電福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデント=2017年2月3日、東京都千代田区(筆者撮影)

「正直、あれ?と思うところはあります。原子炉直下の線量が高くて、外が低いなら理解できるのですが…。外の方が高線量だというなら、そこに何かがないとおかしいが、では何があるのかというと思いつきません。逆に直下の20シーベルトというのもちょっと低すぎる気がします。原子炉直下の足場にあった堆積物が燃料デブリかどうかは、線量や温度を見ないと分かりません」

そこで関係者は、サソリ型の自走式ロボットによる調査に大きな期待を寄せていた。サソリ型ロボットとは、IRIDと東芝が開発した遠隔操作の自走式ロボットで、前部と後部にカメラがあり、線量計や温度計を搭載している。前出のX-6貫通部から投入する際には、高さ約9センチ、長さ約60センチの棒状になっているが、機器交換用レール上に降りてからは状況に応じて後部をサソリの尾のように持ち上げて撮影が可能となる。堆積物の線量や温度を実測することもでき、燃料デブリかどうかを判断できるというわけである。

目標到達できなかった「サソリ」

2月16日、ついにサソリ型ロボットが投入された。が、結果は「失敗」といわざるを得ないものだった。機器交換用レール上の堆積物を乗り越えることができずに行きつ戻りつしているうちに、走行用ベルトが動かなくなってしまったのである。高圧水で除去しきれなかったあの堆積物である。原子炉直下の足場に到達し、燃料デブリとみられた堆積物を調査する目標はかなわなかった。IRIDはケーブルを切断し、サソリ型ロボットは回収されないまま機器交換レール上にとり残された。

2号機格納容器内部調査プロジェクトには十数億円がかかっているといわれる。サソリ型ロボットの失敗は残念ではあるが、一連の調査を俯瞰(ふかん)してみれば、最初のカメラ調査で原子炉直下の様子を撮影できたことは大きな収穫だった。燃料デブリ取り出し工法の確立に向けて重大なヒントになったことは間違いない。

格納容器にまで落下した燃料をどうやって取り出すかというのは人類初の試みで、廃炉作業最大の難関である。何もかも想定通りにいくとは限らない。IRID開発計画部長の桑原浩久氏は「どんな分野でも未踏領域の研究開発において失敗ゼロというのはあり得ない。失敗してもリカバリーしながら進んでいくしかない」と話す。

今後は、今年夏ごろに、号機ごとのおおまかな燃料デブリ取り出し手順を絞り込み、2018年上半期にはどの号機から最初に取り出すのかが決まる。その上で21年には最初の号機で燃料デブリの取り出しが始まる予定だ。

「デブリ取り出しは非常に高い線量下での完全な遠隔操作になります。入念に技術開発をしていかないと、いったん止まってしまった時にその後の作業が続かなくなってしまいます。もしそうなっても別の手段を持っておけるよう、いろんなリスクへの対処方法を設計段階から考えていかなくてはなりません」(桑原氏)

他の号機に比べて事前調査が先行している2号機で燃料デブリ取り出し方法を確定させるには、なんとしても燃料デブリの所在や状態を把握する必要がある。それには今回の調査結果を謙虚に総括し、今後も地道に調査を重ねていくしかない。東電・IRIDは戦略の大幅な見直しを迫られることになるかもしれないが、拙速にことを進めたあげく、取り返しのつかない失敗をして廃炉計画そのものが後退するような事態だけは避けなければならない。

その目で見てほしい

ところで私は最初に「廃炉現場の線量は低下し、工事現場のようだ」と書いた。現場に行ったことがない人にとっては、信じ難い話かもしれない。実際に線量計を身につけて3時間ほど福島第1原発の敷地内を歩き回ったが、被ばく線量は0.03ミリシーベルトだった。胸のレントゲン撮影1回相当くらいだろうか。

この廃炉現場に年間8000人ほどの見学者が訪れていることをご存じだろうか。見学者の数は年々増える傾向にあり、事故6年で延べ3万人に迫る勢いだ。かつて事故直後は技術者や政府関係者がそのほとんどであったが、最近は高校生や大学生が集団で訪れることも少なくない。彼らは東電から貸与されたヘルメットと医療用マスクを付けて原子炉建屋を見渡せる高台に立つ。福島第1廃炉推進カンパニーの増田氏は公開に積極的な姿勢だ。

「これからの時代を担う世代に、今の福島第1原発がどういう状況にあって、これから何をしていこうとしているのかを理解していただきたいと思っています。何か危ないことが起きているのではないか、東電が何か隠しているのではないか。そういった疑念はきっと誰にもあるでしょう。だからこそ見ていただくことが大事だと思っています」

福島第1原発の見学者数推移

2011年度 913人
2012年度 2753人
2013年度 3798人
2014年度 5409人 うち海外694人
2015年度 8000人 うち海外870人
2016年度 7945人 うち海外558人
2万8818人

(東京電力調べ、2016年度は16年12月末までの見学者)

見学者が廃炉現場で何を感じ取るかはそれぞれ違うだろう。だが次代を担う若者たちが実際に自分の目で廃炉作業の現場を見ることには重大な意味がある。1人でも多くの若者に史上最悪の原子力災害があった現場を見てもらい、原発とは何かを考えるきっかけにしてほしいと願う。

(2017年2月22日記)

バナー写真:格納容器調査が行われた2号機から西側約150メートルの地点に立つ筆者。この付近では放射線量が低く、全面マスクや防護服は必要ない=2017年2月17日、東京電力福島第1原発

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  • [2017.03.06]

共同通信社原子力報道室担当部長・編集委員。1964年生まれ。共同通信記者として札幌支社、さいたま支局、本社社会部などに勤務。2011年3月の東日本大震災以降、福島第1原発事故の現場や関係者取材を続けている。編著書に『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発』(2015年、祥伝社)

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