「高度外国人材」永住権緩和—日本に「覚悟」はあるのか

姫田 小夏【Profile】

[2017.03.31] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL | Русский |

「高度外国人材」の確保を成長戦略の一環に位置づける安倍政権。だが、受け入れ態勢が不備なまま、なし崩し的に「移民」を受け入れれば、弊害も生じる。

少子高齢化を背景に、日本は外国人受け入れに大きく舵(かじ)を切り、ビザ発給に至る “高かったハードル” を急激に低くしている。年内には、研究者や企業経営者など高い専門性を持つ外国人が最短1年で永住権を申請できる「日本版高度外国人材グリーンカード」(安倍内閣)がスタートする見通しだ。

その政策的な裏付けは、2016年6月に発表された「日本再興戦略」だ。サブタイトルを「第4次産業革命に向けて」と銘打つこの戦略は、「イノベーション創出力の強化」を掲げており、「高度外国人材」の確保をその一環に位置づけている。実現には長期間日本に在留できる制度が必要となるため、同戦略は「入国・在留管理制度の整備」を打ち出し、「高度外国人材の定着を目指す」としている。

在留資格「高度専門職」は永住権への近道

すでに「高度外国人材」については、数年前からその受け入れが緩和されている。2012年、出入国管理上の優遇措置として「高度人材ポイント制」が導入された。入国管理局に設置された外国人在留総合インフォメーションセンターによると、「学歴、職歴、年収など段階に応じてポイントが与えられており、合計して70ポイント以上になると『高度専門職』としての在留資格を与える審査対象になる」という。

ここでいう「高度専門職」は、高度学術研究活動(「高度専門職1号(イ)」)、高度専門・技術活動(「高度専門職1号(ロ)」)、高度経営・管理活動(「高度専門職1号(ハ)」)の3つの活動に分けられる。

同センターは「ざっくりとしたイメージだが」と前置きしつつ、「(イ)は教授などの研究職、(ロ)はITなどのエンジニア、(ハ)は企業経営者あるいはその管理職です」と解説する。

例えば、日本の企業が海外の「ホワイトカラー」を貿易や営業、通訳などの戦力として雇用したいと思った場合、申請する在留資格は「技術・人文知識・国際業務」となる。あるいは、部長職や組織の長として雇用する場合、申請する在留資格は「経営・管理」となる。まずはこれらの資格で入国し在留するわけだが、その後、時間の経過とともに「高度専門職」への切り替えも視野に入れることができる。「高度専門職」という在留資格の最大のメリットは、他でもない “永住権への最短距離” にある。

今回実施される予定のさらなる永住権の要件緩和では、これまで「高度専門職」該当者の永住権申請に要した5年の居住が、最短1年(80ポイント以上)に短縮される。前述の「日本再興戦略」で言及された「世界のトップレベル人材を引き付けるため、『日本版高度外国人材グリーンカード』を導入する」に呼応する動きだ。

日本政府は、「高度外国人材」の受け入れの必要性と在留資格要件の緩和について「あくまで経済活性化」だとするが、人口減少を外国からの移民で補おうとする意図は明白だ。実際、現場では「高度人材」の需要は切迫していない。エコノミストの竹島慎吾氏は次のように指摘する。

「日本企業が高度外国人の人材難で逼迫(ひっぱく)しているとは考えにくい。ITなど一部の業界ではこうした状況にあるようですが、メーカーなどでは差し迫った状況にはないと思われます」

中国籍に集中が見られる

入国管理局「在留外国人統計」(2016年6月)によると、日本に住む外国人の総数は約230万人にのぼる。地域別では、アジアからの外国人は190万人で、全体の8割強を占めている(図1)。さらにアジアの内訳を見ると、中国籍は67万7571人と35%を占める。総数230万人のうち約3割が中国人だということになる(図2)。一方で、「高度外国人材」だが、現在その総数は4732人。アジアからの出身者が8割強だ(図3)。また、総数に占める中国籍の割合は65%と突出している。

「高度専門職」には “永住権への近道” 以外にも、いくつかのメリットがあるが、その中に「親の帯同の許容」がある。7歳未満の子を養育するためならば、本国から親も呼び寄せることができるという制度だ。

「親に子どもの面倒を見てもらうというのは中国人の習慣であり、欧米人にはこの習慣はないため、結果として『高度専門職』の申請を行うのは中国人が多くなっています」(外国人在留総合インフォメーションセンター)

子育てのための「親の帯同」が許容された点を考えると、「高度専門職」は主として中国人の取得を視野に入れて設計された在留資格である可能性は否定できない。中国ではここ数年 “移民ブーム” が続いている。上海市出身の孫俊さん(仮名)はこう語る。

「上海から飛行距離2時間半の東京は便利。空気もきれいで子育てにも向いています。私の周囲には、日本での在留資格申請に関心が高い友人もいます」

留学生も中国籍が半数近く

一方で、外国からの留学生が日本の高度人材予備軍となることは間違いない。「日本再興戦略」も「外国人留学生の日本国内での就職率を、現状の3割から5割に引き上げる」と打ち出している。

だが、外国人留学生にも偏りが見られる。中国人留学生が大半を占めているのだ。2015年の留学生数は20万8379人(7月1日時点)、中国人留学生はうち9万4111人で、約45%を占める。卒業後も中国人が高い就職率を維持している。

日本の大学に通う外国人留学生を主な対象に、就職活動支援を行うベイングローバル(Vein Global Inc.)の大澤藍社長は、その偏りについて次のように指摘する。

「日本語が流ちょうなのは、中国人などの漢字圏人材。入社試験の筆記試験やエントリーシートも日本語で表記されているので、結果として日本企業に採用されやすい傾向にあります」

他方、欧米系のエリートを日本の大学に振り向かせるのは難しい。なぜなら肝心な「就職先」に大きな魅力がないからだ。世界的に有名でも、世界の人気企業とは言い難いのが今の日本企業の実態であり、「果たしてハーバードの学生が『日本の大手企業に就職したい』などと憧れを示すだろうか」と疑問を呈する国際教育の専門家もいる。

オーストラリアとカナダの中国移民

人口13億人の中国だが、近年、国内経済の先行き懸念と大気汚染から、先進国への移民を切望する人たちが増えている。カナダ、オーストラリアは中国人に最も人気がある移民先だ。人口2300万人のオーストラリアでは、中国大陸からの移民が44万7370人(2014年)になった。

同国経済は中国人がもたらす投資に大きく依存し、2014年度には政府が認可した投資総額1946億ドルのうち中国は最多の465億ドルを占めた(外国投資審査委員会/Foreign Investment Review Board)。そのうち、不動産投資も243億ドル。この数字は前期に比べ倍増した。オーストラリアに24年間住んで最近帰国した久原和歌子さんは「近年、アパートやマンションのオーナーは中国人が大変多く、中国人が多数を占める住宅街も急増しました」と語る。

カナダでも同様の事態だ。1960年代にバンクーバーに移住、建築事務所を経営していた山本富造さんは現地の変化をこう語る。

「バンクーバーとその周辺はトロントと並んで、中国からの移住者が多く、中国人向けのショッピングセンターもあります。(バンクーバーに隣接するリッチモンド市では)中国語で書かれた看板に対し、市が英語表記も入れるように強く求めています。最近では、『アパートの住民の管理委員会が中国語で行われたことに、英語を話す住民から不平が出た』というニュースも伝えられました」

バンクーバーでも近年、中国人による積極的な住宅購入が価格高騰を招き、地元の実需層を遠ざけるようになっていた。この結果、州政府は外国人の住宅購入に対し、15%の課税を導入するなどバブル抑制に乗り出している。カナダは2014年に中国人富裕層の間で人気の高かった移民プログラムを廃止した一方、中国からの「高度外国人材」獲得には積極的だ。

中国、インド、フィリピン、イランの順で移民が増え続けているカナダだが、移民の集中するバンクーバーやトロントでは「今後30年で、白人はマイノリティーになる」ともいわれている。

「覚悟」はできているのか

「高度人材」の永住要件緩和の一方で、農業、漁業、建設など労働者不足が見込まれる現場においては「技能実習」という名目で外国人に在留資格を与えており、その数は急増している。「移民は全く考えていない」とする安倍首相だが、実質的な「移民」受け入れの制度づくりが急務だ。永住者が増えれば、その家族も来日する。年金などの社会保障の権利をどこまで認めるのか、子供の教育問題など、課題は山積みだ。同時に、投資規制などを含め、国民生活の保護という視点から法律や制度の改正が必要になる。

「日本経済の活性化」を理由に、なし崩し的に外国人受け入れを拡大するのは拙速だ。「多様な国家」を築くことは理想だが、乗り越えるべき課題は実に多い。日本はどんな国づくりを目指すのか。私たち国民も「覚悟」を強いられている。

(2017年3月27日 記)

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  • [2017.03.31]

ジャーナリスト。1997年から上海へ。翌年上海で日本語情報誌を創刊、日本企業の対中ビジネス動向を発信。2008年夏、同誌編集長を退任後、中国・アジアビジネス情報を提供する「アジア・ビズ・フォーラム」主宰。語学留学を経て、上海財経大学公共経済管理学院入学、2014年卒業。著書に『中国で勝てる中小企業の人材戦略』(2012年、テン・ブックス)等。

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