文科省「天下り」問題から考える官僚の再就職

横田 由美子【Profile】

[2017.05.11] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | Русский |

文部科学省による組織的な再就職あっせんが明るみとなり、改めて官僚の「天下り」が糾弾されている。再雇用制度で65歳まで同じ企業で働く人たちが増える中で、官僚の再就職はどうあるべきなのか。

今年初めに文部科学省による組織的な再就職あっせん問題が明るみに出て以来、久しぶりに「天下り」という言葉が連日新聞各紙の見出しに並んだ。それらを見て、四半世紀前にタイムスリップしたような気になったのは、私だけだろうか。

90年代不祥事続出が生んだ「官僚バッシング」

ある時期まで、「官僚」は日本のスーパー・エリートだった。中でも超実力主義の大蔵省(現・財務省)、華麗なる閨閥(けいばつ)の中に生きる外務省のキャリア官僚になることは、それこそ棺(ひつぎ)に入るまで “将来を約束された”も同然だった。

その社会的地位が大きく崩れたのが、1990年代に続出した官僚の不祥事だ。最も世間を驚かせた「大蔵省接待汚職事件」(98年)では112人が処分され、大蔵官僚の威信を著しく傷つけた。その結果、2001年の省庁再編時に改編改称され、その歴史ある看板を下ろすとこととなった。戦後、日本の高度成長、社会の安定をけん引してきたといわれる官僚の清廉潔白なイメージは日に日に薄れ、一般国民は連日報道される高級官僚の特権の多さに驚愕(きょうがく)し、怒り、激しい官僚バッシングが巻き起こった。「官僚=悪」の構図がいつの間にか出来上がった。官僚が出身省庁と関連の深い団体・企業に再就職する「天下り」問題が表沙汰になったのもこの頃だ。

「日本の政治の本質は “官僚政治”であり、政治家を裏から操っているのは官僚だ。政治の現状に変化をもたらすためには、官僚政治の打破しかない」。2000年代の初めには、こうした官僚批判が聞かれるようになった。そして霞ヶ関を去り、民間に転職する若手・中堅官僚が急増した。

当時、ある30代前半の官僚は、自分は官僚を辞めないと断言しつつ、省を去る若手官僚の心理をこう解説してくれた。

「カネの問題が大きい。局長になればそれなりの給与がもらえるが、若い頃は薄給だし、官舎は家賃は安くても老朽化が激しい。これまでは若くても見どころがあると思われれば、接待もかなりあったし、秘書課には財界重鎮の娘などの見合い写真が山積みだった。自身にお金がなくても、妻の実家に財力があれば薄給でも問題なかった。ところが給与は下がり、官僚の社会的地位が低下して見合い相手としての価値も下がった。その上、将来の天下りという“ニンジン”もなくなれば人材が流出するのは当然。外資系銀行に転職した元同僚の年収を比較するとばかばかしくなるし、転職するなら早いほうがいいでしょう」

「天下り」「わたり」規制を厳格化

キャリア官僚は各省庁で毎年20人程度採用されるのが一般的で、どこの省庁でもトップの事務次官を目標に熾烈(しれつ)な出世レースが繰り広げられる。そこで生き残ったとしても、その後には、元次官同士のポジション争いが待っている。

例えば、財務省でいえば、地銀などの頭取を務めた後、日銀総裁、東証トップの座に就くのが最高のコースであった。2つ、3つとトップの役職を続けると、生涯年収は退職金だけでも数億円に上る。

ところが、そうした「天下り」や官僚OBが天下りを繰り返す「わたり」が問題視され、2008年に国家公務員法が改正された。改正法では、他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供、現職職員による利害関係企業などへの求職活動、再就職者(元職員)による元の職場への働きかけなどを規制している。以前は離職(退官)後の2年間、出身省庁などと密接な関係にある企業へ就職する際には人事院の承認が必要とされているだけだった。

組織的に違法行為を継続した文科省

今回、文部科学省を中心に起きた天下りの構図は、見事なまでに改正法の再就職規制に違反するものだった。現職次官だった前川喜平氏の辞任・停職を含め、43人の処分者を出す結果となったのは、再就職あっせんが確実に組織ぐるみだったということが調査によって判明したからだ。文科省が3月30日に公表した最終報告書によれば、違法事例は62件。そのうち40件は、2009年に退職した人事課OBの嶋貫和男氏が関与していた(毎日新聞)。大学や財団、企業からの求人情報が人事課に集められると、職員が次官をはじめとした上司に報告。その後、嶋貫氏を介して、人材のあっせんが行われていた。嶋貫氏が求人情報を人事課に伝える場合もあった。それ以外は、嶋貫氏を通さず、人事課主導で再就職をあっせんしていた。

文科省人事課で仕事をしていたある官僚は、こう語る。「かつて国立大学は旧文部省の組織の一部だったので、本省である程度勤め上げた人が大学でポジションを得るのは普通の省内人事異動だった。国立大学が法人化されてからも、文科省と国立大学との間での人事交流や再就職先あっせんは、人事課の仕事の一貫として普通に続いていた。(文科省所管の) 私立大学に対しても同様の意識だった。天下りという感覚はなく、省内の人事異動の延長だという感覚があったことは否定しない」

他省庁が法を順守する一方で、平然と組織ぐるみの違法行為を続けていた文科省の感覚はやはり異常だ。国土交通省—特に旧建設省の管轄—や農林水産省などの現業を持つ省庁だけでなく、経済産業省や財務省の幹部および中堅も、改正法施行当時、再就職規制の厳格化に動揺していた。

財務省や経産省などでは、課長の役職を最後に “肩たたき” にあう官僚が多かった。関係する独立行政法人などの理事職に片道切符で送られるというパターンだ。そうした受け皿があるならまだいいが、今後はどうなるのかと、彼らが顔面蒼白になっていた様子を昨日のことのように思い出す。特に「ノンキャリア」(国家公務員Ⅰ種試験合格者でない公務員の俗称)の職員ほどその傾向は強かった。

もともと、各省が独立法人を多数抱えるようになったのは、ノンキャリアの再就職先としての受け皿にするという側面があった。キャリア組は選ばなければ、再就職はそこまで難しくはない。しかし、多くのノンキャリアはそうはいかない。65歳まで定年が延長されたのだから、役所に残ればいいという意見もあるが、そう単純な話ではないようだ。某省では、60歳以上のノンキャリア人たちの居場所と仕事をわざわざつくらなければならなかったと聞く。

“特典”なしで国家に尽くす若手結集への期待

真冬の夕方、省庁に取材に行くと、寒くて凍えそうになったことが度々あった。2011年の東日本大震災の原発事故以降は、光熱費の節約がますます求められるようになり、一定の時間になると、担当職員が暖房を切って歩く。担当者の姿が見えなくなった瞬間に誰かがこっそり暖房を入れることもあった。電気もつけずに真っ暗な部屋の中でカタカタとパソコンの音だけが響きわたるという異様な状態が一時期起きていた。“泊まり”が決定した若手職員は、厚手のウールの毛布を2、3枚体に巻き付けて仕事をしたり、真冬の登山時に使う寝袋を机の下に用意したりしていた。

利権や特権がなくなるにつれ、給与の安い霞ヶ関に良い人材が集まらなくなっているのは確かかもしれない。一方で、最初から「そんなものはない」と理解した上で入省したのだから、身を粉にして国家のために尽くそうと心の底から思える官僚が増えることが期待できるのではと言ったら、あまりにも理想主義的だろうか。それでも私は彼らが本来持っているはずの良識に期待したい。

民間による転職全面支援と規制の明確化

30代で「霞ヶ関だけが政策を作っている現状を変えたい」と、文科省を辞職した遠藤洋路(ひろみち)氏に、公務員の再就職に関する見解を聞いてみた。遠藤氏は仲間とシンクタンクを起業し、8年間活動を続けた後に、この4月、42歳で熊本市の教育長になった。「震災後の熊本の復興に貢献したい」「政令市となって間もない熊本市の教育行政の体制強化に尽力したい」と意欲的だ。

「退職した公務員がこれまでの職務経験を生かした仕事に再就職するのは、本人にも社会にも有益なはずだ。公務員の転職も普通に転職サイトや転職エージェント、あるいはハローワークを使えばいい。ある程度まで勤め上げた人であれば、丁寧に転職を支援してくれるエージェントに頼むぐらいのお金はあるはずだ。公務員の転職活動を全面的に民間がやるようになれば、公務員の転職を得意とする会社も出てくるのではないか」

その上で、現在の規制を見直す必要はあるという。例えば、「利害関係企業等に対して求職活動を行うことは禁止」(内閣人事局) という部分は、「現職はダメで前職は良い」など利害関係の範囲が曖昧で、実効性がないというのだ。

私個人としては、規制全体を再度見直し、曖昧な部分をなくすともに、許認可や補助金が再就職の引き替えにならないよう規制をより明確にする必要があると思う。今回の天下り問題の再燃が、霞ヶ関の最後の「膿」を出し切るチャンスだと捉えることもできるのではないか。

(2017年4月26日 記)

バナー写真:内閣府再就職等監視委員会の調査で文部科学省幹部の天下りあっせん問題が明らかになったことを受け、記者会見で謝罪する松野博一文科相(2017年1月20日/ 時事)

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  • [2017.05.11]

ジャーナリスト。1996年、青山学院大学文学部卒。政界・官界、女性をテーマに記事を執筆。2015年1月、女性の起業支援や女性向けニュースを配信する合同会社マグノリアを設立、ウェブマガジン「Mulan」を運営する。主な著書に『ヒラリーをさがせ!』(文芸春秋, 2008年)、『官僚村生活白書』(新潮社、10年)、『なぜ名門女子校の卒業生は、「ひと味」違うのか! 』(PHP研究所、15年)など。

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