セレクトセール2017—20年目を迎えた競走馬のセリ市

文化

日本の競走馬流通に革命を起こしたセリ市場、「セレクトセール」(日本競走馬協会主催)が、今年で20回目を迎えた。7月10、11日の両日、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで行われた今回は、節目の年を飾るように、記録づくめの2日間となった。

「セレクトセール2017」は、初日の1歳馬、2日目の当歳馬の両部門とも、1日の売却総額、売却率が史上最高を記録した。2日間の落札総額は 173億2700万円で、昨年を16%も上回る過去最高。1998年の初開催の売り上げから3.57倍に拡大した。流通のみならず、日本競馬界全体に大変革をもたらしたこの20年を象徴する2日間だった。

上場馬に押し寄せるカメラマンたちが、注目度の高さを物語る

売却率が熱気を証明

セリ市場の熱気を測る指標は売却率である。声の掛からない馬が多いと、雰囲気は冷める。その点、今回の売却率は驚異的だった。242頭が上場された初日は、市場の終盤まで売却率が90%を上回った。最後は息切れしたものの、落札率89.3%。1歳馬部門の過去最高だった2015年を 1.1ポイント上回った。多くの馬で競り合いになったため、予想外に時間を要し、競馬専門局「グリーンチャンネル」の生中継が終了する午後7時直前に、辛うじて最後の取引が終わった。活発なセリは価格を押し上げ、平均落札額は約3997万円。売却率90%、平均価格4000万円という領域に迫っていた。

セリの風景

当歳馬部門は14年を例外として、売却率で1歳馬を下回るのが常だったが、今回は1歳馬部門に劣らない勢いが持続した。中盤まで90%台を維持し、1度は失速したが、終盤で盛り返し86.4%。過去最高だった14年の85.9%を上回った。落札価格1億円以上の馬が17頭と昨年の9頭からはね上がり、平均価格は約4575万円。20年目にして初めて、1日の平均価格が4000万円を突破するという新記録を樹立した。

キタサンブラックの全弟「シュガーハートの2017」はDMM.comが落札

高額馬で競り負けた購買者が、やや低めの価格帯の競り合いにも参入して、価格を押し上げる。さらに、それに押されて中間以下の価格帯の競り合いも激しくなり、会場のあちこちで「高すぎて買えない」というぼやきが聞かれた。米国など主要競馬国の大規模市場でも、価格帯の高い領域の売却率は良くて8割程度という。9割に迫った1歳部門はもとより、生まれたばかりで血統以外に判断材料が乏しい当歳部門の86%台は驚異的といえる。国内競走馬市場はこの後、7月18日のHBA(日高軽種馬農協)セレクションセールを皮切りに、日高地区の市場が幕を開ける。セレクトセールで買えなかった購入者の参入も予想され、こちらも活況となりそうだ。

外国人プレスも多く来場した

32頭が1億円の大台乗せ

今回は1歳部門15頭、当歳部門17頭の計32頭が1億円の大台に届き、1歳14頭、当歳9頭の計23頭だった昨年より9頭増えた。大台に達した32頭中、ディープインパクト産駒は過半数の17頭で、1歳、当歳とも上位4頭を占めた。その一方で、他の種牡馬の躍進も目に付き、ハーツクライ5頭、ロードカナロア4頭、キングカメハメハ3頭と複数の1億円馬を出した。ロードカナロアは6月に始まった今年の2歳戦から産駒が実戦に登場した。5週間で3頭が勝ち星をあげたことで、人気に火が付いた。有力種牡馬の高齢化が進む中で、待望久しかった新鋭馬の台頭である。

ディープ産駒は2億円以上が7頭で、争奪戦の過熱ぶりを象徴した。2日間を通した最高価格は、史上2位の5億8000万円で落札された「イルーシヴウェーヴの2017」(牡)だった。1歳上の全兄は、昨年の最高価格タイの2億8000万円で里見治(はじめ)氏が落札したが、今回は競り負けた。落札した近藤利一氏は「体の雰囲気や動きが飛び抜けていた。スターになって欲しい」と期待を示した。

近藤オーナー(中央)と「イルーシヴウェーヴの2017」。左端は、元メジャーリーガーの佐々木主浩氏

2位の3億7000万円で落札された「ドナブリーニの2017」(牝)は、顕彰馬ジェンティルドンナの8歳下の全妹。落札したDMM.comはFX(外為証拠金取引)で国内最多の口座数を持ち、クラブ法人形態で1頭当たり1万人規模の出資者を募る新たなビジネスモデルをスタートする予定だ。広告塔としてドナブリーニの2017のほか、1歳のリアルスティールの全妹、当歳のキタサンブラックの全弟を、いずれも1億円以上の高額で落札した。

国内外のGⅠを7勝したジェンティルドンナの全妹「ドナブリーニの2017」

里見氏は1歳馬部門における最高価格の2億7000万円で「リッスンの2016」(牡)を落札するなど、計11頭を11億7200万円で購入。ただ、個人での購入総額は昨年の13億2700万円(13頭)を下回っており、いかに最高価格帯での攻防が激しかったかを物語る。

里見オーナー(左から3番目)と「リッスンの2016」。左端は池江泰寿調教師、その隣は父の池江泰郎元調教師

存在感が薄かった海外勢

相場の高騰もあり、外国勢の存在感は全体に薄かった。6件の名義で12頭が購入され、総額は3億2900万円。このうち、カタール王族のシェーク・ファハド殿下の代理人が1歳2頭、当歳3頭の計5頭を1億2600万円で落札した。ファハド殿下や欧州最強のクールモアグループは高額馬の争奪戦にも加わったが、1億円以上の馬には手が届かなかった。ただ、ファハド殿下は外国勢最高価格の5600万円で1歳の「ルナレガーロの2016」(牝、父ハービンジャー)を購入する一方、 800万円の「ソヨカゼIIの2016」を落札するなど、低価格帯の馬も綿密にチェックしていた。また、5頭の購入馬はセリ参加者が少なくなる各日の後半に集中していた。参戦を繰り返して、セールの流れを把握して臨んでいたのが伺える。

ファハド殿下の代理人と「ルナレガーロの2016」

20年で売却総額1856億円

節目の20周年を好成績で飾った今回のセレクトセール2017。20回の売却総額は1856億8375万円、購買頭数は1歳2118頭、当歳3787頭の計5905頭となった。来年は2000億円、6000頭を突破する可能性が高い。

当歳のサンデーサイレンス産駒の「青田買い」の場として出発した市場は、途中でキングカメハメハ、ディープインパクトというスターを輩出し、両馬は国内生産界に礎石を築いた。今や両馬の産駒が市場をけん引する。近年はジャスタウェイ、サトノクラウンなど市場出身馬の海外での活躍が、海外バイヤーの呼び水となった。セール出身馬は2000年以降、中央の平地重賞を309勝(うちGⅠ58勝)し、障害重賞11勝。また、ダートグレード競走49勝(うちJpnⅠ10勝)に加え、海外でも重賞11勝(GⅠ5勝)を重ねた。誰もが認める国内最高の競走馬資源に、内外の有力購買者が自由に接近できるセレクトセールは、セリ市場の枠を超えた日本競馬のショーケースに成長したと言えるだろう。

取材・文=ニッポンドットコム編集部
写真提供=日本競走馬協会

バナー写真:2017年7月11日、セレクトセールにおいて5億8000万円で落札された「イルーシヴウェーヴの2017」

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