東南アジアの日本旅行ブーム:ニッポン体験型観光がキーワード

大塚 智彦【Profile】

[2017.06.27] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 |

中国に続き、東南アジアからの訪日旅行者が増えている。各国で放映される日本観光を紹介するテレビ番組は大人気で、「振り袖を着る体験をしたい」「本物の天ぷらを食べたい」といったニーズが高まっている。東南アジアの訪日ブームの背景を探る。

「定番」以外の観光が人気

「日本人ですか、シラカワはいい所ですね」

インドネシアの与党関係者の会合で突然話しかけられて戸惑った。「はて、シラカワなど日本人である私でも分からんぞ」。よくよく話を聞くとユネスコの世界遺産にも登録された岐阜県高山市の合掌造りで有名な白川郷のこと。なんと彼は今年初めに家族で訪れ、それも合掌造りの家屋にホームステイしたというではないか。

今インドネシア人の間では「日本旅行」がブームとなっている。かつては東京ディズニーランド(TDL)、大阪のユニバーサルスタジオジャパン(USJ)、京都・奈良などの古都、東京の浅草、東京タワー、スカイツリーといった日本人もよく訪れる観光地への旅行が主だった。しかし昨年あたりからインドネシア人の日本旅行はその目的が様変わりしている。

白川郷を訪れたその男性は、昨年は信州乗鞍岳の雪の回廊、北海道のニセコスキー場にも行ったという。「家族に冬、雪を見せ、スキーをしたのが最高だった」と。ちなみに来年は香川県琴平の金毘羅山に行く予定だ。

インドネシア人観光客の訪日観光ビザ申請者は年々増加の一途をたどり、ジャカルタの日本領事館への観光ビザ申請者は前年比で40%の増加を記録している。今年3月からは専用窓口を開設して対応している忙しさで、1800件のビザ申請を記録した日もあったという。

桜を見るための訪日も今年は多く、インドネシアのガルーダ航空は日本便が連日満席状態になり、これに目をつけた香港・キャセイパシフィック航空は香港経由ながらジャカルタ—成田間・往復580万ルピア(約4万8000円)のキャンペーン価格を設けたところ、たちまち売り切れとなった。

京都では八坂神社近くにある「着物体験教室」が外国人女性観光客に大人気だ。着物、帯、草履を自分で選んで、英語も話せる専門女性スタッフの力を借りながら和服を着付ける。その着物姿で周辺を散策、桜をバックに記念写真を撮影する姿があちらこちらで見られた。

ニッポン体験を楽しむ

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、インドネシアからの観光客数は2016年に前年比で32%増加。今年1、2月では前年度比57%も増加している。桜のシーズンである4月には4万5200人となり、前年同月比45%増加で1カ月の記録としては過去最高となった。

桜も単なる「お花見」から変化している。関西空港に到着してまず大阪城を見物。新幹線で京都に移動して醍醐寺、さらに東京の上野公園、千鳥ヶ淵を散策して成田から帰国。5月に入ってからは、震災地の東北から北海道まで桜前線を追って北上するという「桜巡礼コース」も人気があった。

JNTOによれば東南アジアでは4月の訪日観光客はタイの13万8600人(前年同期比5.8%増)、フィリピンの6万2000人(同47.8%増)、マレーシアの4万3200人(同13.6%増)、ベトナムの3万8900人(同14%増)、シンガポールの3万5400人(同15.8%増)と軒並み増加。東南アジア主要6カ国からの16年度の訪日観光客は合計で251万人に達した。今や日本観光は一大ブームとなっており、旅行業界のみならず地方自治体にとっても「絶好の商機」となりつつある。

ただ手放しで喜んでいるわけにもいかない。4月に桜を見に訪日したインドネシア人女性は「日本にはとても満足した」と前置きしつつ、都市部の公共交通の不便さを指摘する。地下鉄、JR鉄道などは充実し、英語の地図や案内もあるが、「階段が多くとても疲れる」と嘆息する。主要駅以外ではまだまだ階段が多い日本。インドネシアでは歩道橋、非常階段以外に階段は少ない。階段の上り下りが苦手なインドネシア人は、歩道橋を使うより危険を承知で道路を横断してしまうことが多い。「階段のないバスを利用したいが、目的地は分かっても経由地を知るのはほとんど不可能で、路線図も入手困難。車内案内も日本語だけがほとんど」というのだ。20年の東京五輪に向け、バスの外国人利用に向けた改善が必要になるだろう。

おもてなしのさらなるバージョンアップを

インドネシアの旅行業関係者に日本旅行の人気の理由を尋ねると、

  • 距離が近い
  • レストランなどが清潔
  • 夜間女性が一人で歩いても大丈夫なほど治安面で安心
  • 食事が美味しい
  • 親切な人が多い

という答えが返ってきた。

こうした強みがあるので、「階段が多い」に加えて、「英語が通じない。イスラム食(ハラル)への配慮が不徹底。ラッシュ時に電車に乗れない」などの不満点を差し引いても日本は魅力たっぷりだと分析できる。

ジャカルタの大手旅行代理店「HIS」は、次なる訪日観光のターゲットを「日本の夏」に絞り、早くもキャンペーンを開始。そのセールスポイントの一つが「ホームステイ」で、「ホストファミリーと家族のような日本生活を体験しよう」というのが宣伝文句だ。

「ホームステイ」以外のツアーでも以下のような観光メニューが人気だ。

  • 鳥取砂丘で砂漠体験
  • 神戸の酒博物館での試飲
  • 鹿児島で砂風呂体験
  • 「青山剛昌(『名探偵コナン』の作者)ふるさと館」(鳥取県東伯郡)など聖地巡礼
  • お土産に大人気の「白い恋人」工場(北海道札幌市)見学
  • 札幌のラーメン横丁グルメツアー

これまでの観光コースとはひと味違う「体験型」に訪日旅行客の関心が高まりつつあるようだ。

2017年は日本とタイの「修好130周年」、日本とマレーシアの「外交関係樹立60周年」の節目の年でもあり、18年には日本とインドネシアは「国交樹立60周年」を迎える。こうした契機により多くの東南アジアの人々が日本を訪れることが期待されるが、迎える側の私たち日本人としても「日本に来て良かった」「ぜひまた行きたい」と思ってももらえるように、おもてなしをバージョンアップする不断の努力を忘れないようにしたい。

バナー写真:京都で着付け体験を楽しむ東南アジアからの旅行者(撮影=大塚 智彦)

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  • [2017.06.27]

ジャーナリスト。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。毎日新聞社長野支局、東京外信部、ジャカルタ支局長。産経新聞社シンガポール支局長。現在はPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動中。ジャカルタ在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。

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