ネット世論の実態に迫る(上)

木村 忠正【Profile】

[2017.07.04]

ネット世論はいかにして形成されるのか。そこでは、なぜ「炎上」が起きるのか。多様な調査結果をもとに、インターネット研究の第一人者がネット住民の生態に迫る。

ネット世論はどのように形成されるのか

インターネットが社会的に普及し始めた1990年代後半、サイバースペースに対して、新たな「公共圏」としての期待が生じた。それは、サイバースペースでは、オフラインにおける人間関係や社会経済的な地位に縛られず、また時間、場所の制約からも解き放たれて、自由闊達(かったつ)に議論ができる可能性が出てきたからである。こうした流れを受け、これまで「電子市民会議室」「パブリックコメント制度」「地域SNS」など、社会的に取り組むべき課題を明確にし、自由に意見交換、熟議を行い、社会的な合意形成、意思決定へとつなげていくオンライン空間構築の試みが活発化してきている。

しかし匿名制では、表情などの社会的な手がかりが乏しく、匿名の陰に隠れている意識から、無責任で不適切な発言、過剰な「言い争い」「炎上」(flaming)が生じやすい。しかし登録制、メンバー限定などの仕組みにすると、ほとんど利用者がいなくなってしまう。

他方、インターネットは聞き上手とともに、話し上手であり、自分の聞きたいことを耳にし、似たような嗜好性(しこうせい)や価値観をもった話し相手には困らない。従って、似た者同士が交流、共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅される「エコーチェンバー(反響室)」現象を引き起こすことになる。その結果、個々人の意見がバランスの取れたものから極論へと増幅され、集団として先鋭化された意思決定がなされる「集団成極化」(※1)が起こりやすい。

そこで、インターネット空間における社会的議論は、「ネット世論」と呼ばれ、従来の世論とは異なる傾向を持つとの認識が拡がってきた。それは、新たな公共圏の創出よりもむしろ、東京オリンピックエンブレム問題のような「ネット炎上」を引き起こし、近年では、フェイクニュース(嘘のニュース)やオルタナティブファクト(もう一つの事実)が流布する空間ではないかとの懸念も大きい。

筆者は、90年代半ばからインターネット研究に関わり、こうしたネット世論についても、多様な調査研究に取り組んできた。日本社会におけるネット世論の構造的特徴を示すとともに、「ネット世論」が決して偏った特殊な空間ではなく、先進国にある程度共通してみられ、社会全体の動態を反映したものであることを明らかにしたい。

日本社会における「ネット世論」の構造

「ネット世論」は、従来のマスメディア(オフラインジャーナリズム)も含め、ニュースの生成、流通、世論形成というメディア生態系に定位される。下図が、筆者が措定する日本社会におけるメディア生態系のモデルである。

従来のマスコミュニケーションを基盤にした世論形成は、基本的に情報発信者およびマスコミが取材対象とする政府や大企業の組織の力が強く、大多数の受信者、個々の市民は間接的にしか影響を与えることはできなかった。

他方、インターネットでは、「ニュース媒体→ニュース→受信者」で留まるのではなく、受信者が同時に発信者となり、多彩なソーシャルメディア(Facebook、TwitterなどのSNS、ブログ、掲示板、コメント欄など)に、多様なコメントを投稿することが可能となった。

さらに、「ミドルメディア」と呼ばれる「BuzzFeed Japan」、「J-CASTニュース」のようなオンラインニュースサイト、「NAVERまとめ」のようなまとめサイトが成長し、マスメディア、ミドルメディア、ソーシャルメディアが交錯する広大なメディア空間が構築され、ネット世論形成のプラットフォームとして成長している。

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(※1)^ 集団で意思決定を行う場合、個々人の判断が,集団でのやりとりを繰り返すうちに極端な方向へとシフトしていくこと。

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  • [2017.07.04]

1964年生まれ。Ph.D(ニューヨーク州立大学・文化人類学)。専門はネットワーク社会論。早稲田大学理工学部教授、東京大学大学院総合文化研究科教授などを経て現職。CS朝日ニュースター「ニュースの深層」キャスター、総務省情報通信審議会専門委員などを歴任。主な著書に『デジタルネイティブの時代 なぜメールせずに「つぶやく」のか』など。

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