ネット世論の実態に迫る(下)

社会

ネット世論を、偏向した一部の過激な人たちの意見だと決めつけるのは早計だ。マジョリティに属するが、マジョリティとして利益を享受していない人々の不満が、そこには強く脈打っているのだ。

影響力が大きいYahoo!ニュース

日本社会のネット世論空間で、一つの大きな特徴は、「ニュース媒体→ニュース→受信者=発信者」いう、ネット世論形成回路において、Yahoo!ニュースというニュース配信プラットフォームが極めて大きな役割を果たしていることである。

表1は筆者が2016年7、8月、関東・東海・関西圏16〜69歳の男女1100人を対象として実施したウェブアンケート調査の結果である。ニュース接触という観点からみて、Yahoo!ニュースの閲覧がネット利用者にとって、大きな位置を占めていることが分かる。16年1、2月の総務省「通信利用動向調査」では、13歳~49歳のインターネット利用率は96%以上、50代で91%、60代でも77%に達しており、Yahoo!ニュースは、ネット利用者というよりも、日本社会全体にとって、ニュース流通の中核的役割を担っていると考えることができる。

表1 年代別の各種オンラインニュース利用率、コメント・拡散等書込・参加率

(単位:%)

デジタルネイティブ デジタル移民 全体
16~24歳 25~35歳 36~50歳 51~69歳
Y!ニュース閲覧 60.0 76.5 78.2 72.4 72.5
ニュースポータルサイト閲覧 32.5 37.0 39.9 33.8 35.8
ニュースアプリ利用 30.0 31.0 17.4 20.2 23.2
動画サイトでの記事閲覧 42.5 34.5 31.9 29.1 33.3
まとめサイト 47.0 46.5 31.2 11.9 29.8
2ちゃんねるまとめサイト 39.5 31.5 23.8 11.9 23.7
2ちゃんねる閲覧 33.0 32.5 25.2 13.9 23.8
新聞社サイト 26.0 29.5 35.6 39.1 34.0
商品・サービスへの評価・レビュー・コメント書込 29.0 33.0 28.2 26.6 28.6
ネット「拡散行為」 21.5 12.0 4.0 2.7 8.2
個人掲示板・コメント欄書込 13.0 14.0 10.4 9.7 11.3
2ちゃんねる書込 11.5 11.5 5.4 2.0 6.4
匿名掲示板書込 10.5 8.5 4.7 2.2 5.5
ネット「炎上」参加 10.0 8.0 3.0 2.2 4.9
Twitterでのニュース閲覧 43.0 27.0 16.1 7.9 20.0

立教大学木村研究室調査 2016年7・8月 関東・東海・関西圏16-70歳男女 有効回答数1100

もちろん、他のニュースポータルサイト(ミドルメディア)も、年代を問わず3分の1以上利用されており、スマートフォンでのニュースアプリ利用は、35歳以下のデジタルネイティブ(※1)層で3割を超えた。また、デジタルネイティブ層は、「まとめサイト」に半数近く、「動画サイトでの記事閲覧」、「2ちゃんねる」に3分の1程度アクセスしている。つまり、10代から30代では、前回紹介したメディア生態系が、ニュース接触の回路として日常生活に組み込まれている様子を見て取ることができる。

さらに、各種レビュー、コメントの書き込みも、若年層を中心に、一般的行為となりつつある。商品・サービスについては年代を問わず3割程度が書き込みをする。ここで争点となるのは、2ちゃんねる、匿名掲示板への書き込み、「拡散」「炎上」への参加である。

表1から明らかなように、デジタルネイティブ層では、こうした行為が1割前後に達し、「拡散行為」は10代後半、20代前半で2割を超えるということが明らかになった。

Twitterの影響力が大きい日本

ネット世論における「拡散」「炎上」は、日本の場合、twitterと強く結びついている。

2014年6月現在のデータでは、Twitterは世界全体で1日平均5億ツィートに上るが、そのうち、日本語でのツィートが8700万、世界全体の16%に達する。特に10代、20代のデジタルネイティブにおいて、Twitter利用率(ネット非利用者の含めた当該年代において)は5割を超えている。さらに特徴的なのは、ニュース接触にTwitterが大きな役割を果たしていることである。10代後半、20代前半の43%が、「ツィッターのツィートに流れてくるニュースをクリックして閲覧する」。したがって、ある主題、事象に関する若年層を中心としたネットにおける反応=「ネット世論」をみる上で、日本社会では、Twitterが大きな役割を果たしていると言える。

Twitterを介した「ネット炎上」や「排外意識」については、実証的研究が10年代なって進展している。田中辰雄・山口真一著の『ネット炎上の研究』(2016、勁草書房)は、Twitterでの炎上への参加者を2万人余りを対象とした大規模なウェブモニター調査から推計し、調査時点での現役炎上参加者はネット利用者の200人に1人、炎上1件当たりの参加者は2000人程度(ネット利用者の10万人に数人)、炎上参加の9割は一言感想を述べる程度で、1件当たり何度も書き込み、当事者に直接的に攻撃しようとする参加者は数人から数10人のごく一部だと指摘している。

また、高史明著の『レイシズムを解剖する』(2015、勁草書房)では、10万以上のコリアン関係ツィートを収集、分析。投稿者ID数4万3千の内、8割近くのIDは1ツィートのみに対して、1%の471のIDが100以上ツィートしており、上位50のIDで8分の1のツィート(その大半は、明確な差別的表現)に達することを明らかにした。こうしたツィートでは、同様の内容が繰り返し投稿される傾向にあり、印象に強く残る。つまり、これらの研究からは、ネット世論の特徴として、ごく一部が極端な主張を繰り返すことで、オンライン言説空間における存在感を強めていることが分かる。

集団意識を反映するネット世論

「ネット世論」を、オンライン空間で優勢に感じられる言説と捉えれば、ごく一部の人々が過激な表現を繰り返すことで「ネット世論」は生み出されるものであり、社会一般の世論とはかけ離れた偏ったものということになるだろう。

しかし、他の大半の人々が、自ら感じることを、自分の言葉で、折に触れて、ソーシャルメディアにアップしており、それは全体の少なくとも過半数以上を占める。筆者は、「ネット世論」を一部の極端な主張に矮小化(わいしょうか)せず、コメントの集積から一つ一つを精査し、そこにはさまざまな意見や感情があることに着目し、リツィートや「いいね」をするといった、言説・感情・行動の複合体を「ネット世論」として捉えることが必要だと主張したい。

Brexit、トランプ政権の誕生、仏大統領選での極右勢力(決選投票に進み35%の得票率)など、先進国において、ナショナリズム的傾向、排外主義の高まりが見られるともに、オフラインにおける従来型世論調査が機能しなくなっている。こうした傾向に対して、「ネット世論」の影響が指摘されるが、仮に、社会全般とかけ離れた一部の極端な意見がネット世論だとすれば、それはあくまで一部に留まり、オフラインでの人々の意思決定、投票行動は、社会全般の世論に従うだろう。

だが、現実に起きている現象を冷静に受け止めるならば、ネット世論が社会全般の傾向を相当程度反映している現実がある。もちろん、看過できない過激な侮蔑的、暴力的表現が繰り返され、偏った傾向が目立つことも否めない。

しかし、ソーシャルメディア上を流通するメッセージに耳を傾ければ、例えば、日本社会でのネット世論において、中韓、歴史、民族、領土、ナショナリズムに関連した数多くのメッセージが見いだされ、そこでは、「日本」「日本人」に社会的アイデンティティを求め、さらに近隣諸国を外集団とし、内集団意識を明確化、強化したいというベクトルが強く働いていることも否めない事実である。

十分な利益を得ていないと感じる一般人が増加

twitter、facebookをはじめとするソーシャルメディアに流れる大量のコメントに目を通すことを介して、筆者が強く感じ取るのは、社会的少数派や弱者に対するいら立ちの強さである。少数派が多くの困難に直面していることへの配慮よりも、「弱者利権」といった言葉に現れているように、少数派だと主張することで権利や賠償を勝ち取るような行為として捉えて強いいら立ちを感じている。

例えば、「生活保護」「ベビーカー」「少年法(未成年の保護)」「LGBT」「沖縄」「中韓」「障害者」など少数派への批判的視線、非寛容は、バラバラの事象ではなく、日本を含む先進国に共通して強まっている社会心理の顕現ではないのか。

筆者はこうしたいら立ちを、「非マイノリティポリティクス」と呼びたい。「非マイノリティ」とは、つまり「マジョリティ」だが、「マジョリティ」が「マジョリティ」として十分な利益を享受していないと感じている人々だ。彼らが、従来のリベラル的マイノリティポリティクスに対して強烈な批判的視線を投げかけ、その人たちなりの公正さを積極的に求めている。こうした社会心理が、『ネット世論』に通底して強く脈打っている。

現在、非マイノリティポリティクスの背後にある社会的動態を考えるために、道徳基盤理論(MFT)という文化心理学的な手法に基づいた研究に取り組んでいる。今回紹介したウェブ調査(表1が基づく調査)では、MFTにもとづき、日本社会における保守、リベラル、リバタリアンを区分する質問項目を設けた。その調査結果によると、保守系が全体の68%、リベラル系が全体の24%、リバタリアン系が全体の9%という構成となった。年代別にみると、リベラル的傾向は、20代、30代で退潮著しく、リベラル的寛容さが失われつつあることを示している。

さらに中韓との関係で留意したいのは、ウェブ調査の結果(表2)からは、保守系、リベラル系を問わず、第2次大戦における日本の行為を常に反省する必要があると6割前後は考えている半面、8割前後は、孫やひ孫の世代が、謝罪を続ける必要はなく、いつまでも謝罪を求めるのは行き過ぎだとも感じている点である。

表2 政治的志向性別の第2次大戦に関連した態度

(単位:%)

保守 リベラル リバタリアン 全体
第2次大戦における日本の行為は常に反省する必要がある 60.8 70.2 43.0 61.4
第2次大戦における日本の行為に関して、孫の世代、ひ孫の世代が、謝罪を続ける必要はない 78.4 78.3 60.0 76.7
第2次大戦における日本の行為に関して、いつまでも謝罪を求める国は行き過ぎだ 81.3 81.4 61.0 79.5

回答者を道徳基盤理論にもとづき、「保守」「リベラル」「リバタリアン」に分類し、それぞれの分類で、第2次大戦に関する質問に対して「強く同意する」「同意する」「まあ同意する」を合計した割合

ネット世論の底流には、中韓への反感の基底として、謝罪を求め続けられることへの強い抵抗感が認められ、ウェブ調査の結果と共鳴する。このように分析を進めると、ネット世論は、社会のごく一部が過激な言説を展開する場ではなく、社会を映し出す鏡であることが分かる。こうしたネット世論に耳を傾けることは、社会の在り方を問い直す大きな契機となるのは間違いないであろう。

バナー画像(アフロ)

(※1) ^ 物心がつく頃から、パソコンやインターネットに慣れ親しんできた世代。日本では、1980年以降に生まれた世代が該当する。

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