豊洲移転、築地再開発の課題と不安

川本 大吾【Profile】

[2017.07.31] 他の言語で読む : ENGLISH |

迷走していた築地市場の豊洲への移転がようやく決まった。小池百合子東京都知事が打ち出したのは、築地も売却せずに「食の拠点」として再開発するという欲張りな方針だ。二兎を得ることはできるのか。長年にわたり築地を取材してきた筆者が点検する。

「決められない知事」と批判された小池氏が築地・豊洲問題に断を下したのは、都議会選の告示を3日後に控えた6月20日だった。その骨格は、①築地の市場機能を豊洲に移す、②築地市場跡地を20年の東京五輪・パラリンピック時に輸送拠点として活用した後、22年をめどに市場機能を持った施設に整備する―。

「築地は守る、豊洲は生かす」とのメッセージは耳に心地よいが、移転賛成派と反対派におもねった玉虫色の方針でもある。これまで散々振り回されてきた築地市場関係者は、複雑な表情を浮かべている。

責任はどこに?:石原元知事を証人喚問

施設の老朽化や営業しながら建て替え工事を行うことが困難な状況を理由に、築地市場の豊洲への移転整備が正式に決定したのは2001年。その後、08年に豊洲の市場用地から環境基準の4万3000倍にも達するベンゼンが検出され、生鮮食料品を扱う場所としてふさわしくないとの批判が強まった。

豊洲の市場用地は東京ガスの工場跡地であったため、土壌汚染は用地取得の段階から分かっていた。ただ「想像を超える汚染の実態だった」(都幹部)ため、都は総額で800億円を超える巨額を投じて土壌汚染対策を実施してきた。

11年夏から行われた対策工事は、「日本最先端の知見や技術をもって進めてきた」(都)。3年後の14年に完了し、学識経験者による技術会議を経て「豊洲新市場用地の安全性が確認できた」(同)はずだった。

施設の設計・建設工事を経て、ようやく16年11月7日の開場と決まったものの、昨年8月末に小池知事が安全性への不安は残されていると判断し、移転延期を決定。地下水モニタリング調査の最終結果が出る前に、新市場開場を予定していたことが理由だった。

豊洲への移転が延期されてからは、主要施設下で土壌対策に必要な盛り土がされておらず、地下空間が存在していることが判明。築地市場関係業者は、都に対する不信感を強めた。さらに、今年1月中旬に公表された地下水最終調査では、環境基準の79倍に当たるベンゼンや、「不検出」が基準のシアン化合物が検出され、豊洲移転に対する否定的な見方が広がった。

そうした中、「汚染されていると分かっていた豊洲の用地をなぜ取得したのか」といった疑問が強まった。これを受けて都議会は今春(3、4月)、調査権を持つ百条委員会に移転を決めた当時の都知事、石原慎太郎氏や浜渦武生副知事(当時)、歴代の中央卸売市場長らの出席を求めて証人喚問したが、大きな成果はなかった。

「地上は安全」が移転を後押し

宙に浮いたように思えた豊洲移転問題だが、都の専門家会議(座長・平田健正放送大学和歌山学習センター所長)は、環境基準は満たしていないものの「地上は安全。地下も対策をすればコントロールできる」との見解を示したことで、小池知事の豊洲活用への道が開かれた。

都議選の告示日が迫った6月17日、小池知事は築地市場に足を運び、豊洲開場の条件とされていた環境基準を守れなかったことを市場関係者らに陳謝。その3日後の20日に都庁で記者会見し、「豊洲移転・築地再開発」の方針を発表した。

注目された都議選では、小池氏が代表の「都民ファーストの会」が大躍進。公明党などの支持勢力を合わせ、獲得議席は過半数を大きく上回った。「都民ファースト」「都政改革」を掲げる小池氏にかかる期待は大きいが、豊洲・築地問題は単なるスタートに過ぎず、課題は山積みだ。

まず、改めて移転を決めた豊洲新市場については、土壌に関する追加的な安全対策を実施する。盛り土なしの地下空間について、底面をコンクリートで覆うほか、換気装置を新たに整備。地下水管理システムの排水機能も強化する。

小池知事は業界関係者が心配する風評被害対策も積極的に実施する考えを示しているが、追加の安全対策による「安全宣言」を出すこと以外、7月中旬まで具体的な対応は明らかにしていない。移転時期については、今後業界関係者との調整の上で決定する。

来年中にも実現するとみられている豊洲新市場への移転。開場後は羽田や成田空港へのアクセスが良い点を生かしながら、情報通信技術を活用した総合物流拠点とし、冷凍・冷蔵や加工の機能も強化していく。

築地再開発は絵に描いた餅?

一方、築地市場跡地は売却せず、都が保有したまま5年後をめどに再開発することにしており、市場機能を持たせた食の拠点とする。2020年東京五輪・パラリンピック時にはいったん輸送拠点として活用した後、再開発を進めるという。

これは移転に反対する築地市場関係者や、築地の伝統を継承すべきといった一般の声にも配慮した小池知事の判断だが、市場関係者の間では混乱が広がっており、小池知事の思惑通りに計画作りが進むかどうかは未知数だ。

豊洲と築地、2つの市場が併存するプランだけに、築地の卸会社は「近距離に2カ所の市場をつくるなんて、どの業者も求めていない」と反発。豊洲市場に巨額の費用を投じて大型冷蔵庫を整備するなど、既に1社で百億円ほどの投資をしている卸会社もあり、5年後に再び築地へ戻るとは考えにくい。

仲卸は「卸がいなければ魚はどこで買うのか。豊洲で仕入れて築地へ戻って売るのでは効率が悪い」と2市場の並立案に首をかしげる。一部の仲卸や新規の小売店が集まるだけなら築地場外市場と大差なく、卸売市場とは言い難い。

このほか、食のテーマパークを掲げた築地再開発に対し、豊洲市場内の千客万来施設で開業を予定している万葉倶楽部(神奈川県小田原市)が「採算が取れなくなる」として、難色を示していることが分かった。

万葉倶楽部は、豊洲市場に整備予定の観光・商業施設で飲食店や温泉施設を開業することにしていたが、築地にも観光客で賑わう施設ができれば目標の集客が見込めず、経営が成り立たないことから撤退も視野に入れているという。

小池知事が打ち出した築地再開発は今後具体的な計画作りが行われるが、今のところ移転時期を含め青写真が示されないままで、関係業者は困惑している。

“アキレス腱”の築地・豊洲問題を逆手に取るパフォーマンスで都議選を大勝した小池氏。しかし、豊洲への移転と築地再開発をどう具体的に両立させていくのか。真価を問われるのはこれからだ。

バナー写真:豊洲市場(東京都江東区)への移転と、将来的に再開発されることが決まった築地市場=2017年6月23日撮影(時事)

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  • [2017.07.31]

時事通信社水産部長。1967年東京生まれ。専修大学を卒業後、91年時事通信社に入社。水産部で築地市場の取引を25年にわたり取材。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社、2010年)。

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