日本版GPS衛星「みちびき」が開く未来

寺門 和夫【Profile】

[2017.10.11] 他の言語で読む : Русский |

三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、日本版地球測位システム(GPS)の構築を目指す準天頂衛星「みちびき」4号機を搭載したH2Aロケットの打ち上げに成功した。この結果、衛星のいずれか1機が常に日本の真上を飛び、データを24時間使うことが可能になった。

日本の衛星測位システムである準天頂衛星システム「みちびき」の4号機が、2017年10月10日に打ち上げに成功した。これによって準天頂衛星システムは4機体制となり、18年度にサービスを開始することになる。衛星からの電波によって、自分のいる位置を正確に知る衛星測位は、今や産業活動や日常生活に欠かせない。準天頂衛星システムは誤差がわずか数センチメートルという正確な位置情報を提供し、衛星測位に新たな世界を開こうとしている。

高精度で安定した測位が可能に

アメリカのGPS(グローバル・ポジショニング・システム)、ソ連のグロナス、ヨーロッパのガリレオ、中国のベイドゥが全球をカバーする衛星測位システムであるのに対して、日本の準天頂衛星システムはGPSと連携し、日本周辺地域、およびその南にあたる東南アジアやオーストラリアなどでサービスを提供する。この点がグローバルな衛星測位システムと異なっている。

日米間では早くからGPSの利用に関する協議が行われており、1998年には、GPS利用を促進するための協力を確認する共同声明が発表された。一方、当時国内には準天頂衛星を衛星測位および通信・放送に利用するという構想があった。準天頂衛星を通信・放送に使う案はその後取り下げられたが、こうした経緯があり、日本の衛星測位システムは準天頂衛星を用い、GPSと連携するシステムとして開発が進められることになったのである。みちびきはGPSと同じ周波数の信号を配信する。そのため、GPSとみちびきを1つの衛星群として利用することができ、常に高精度で安定した測位を行うことが可能となっている。

みちびき初号機、2号機、4号機は「準天頂軌道」を回る衛星である。準天頂軌道とは高度3万6000キロメートルの静止軌道を赤道面に対して角度をもたせた軌道で、地上から見ると衛星は8の字を描く。この軌道に3機の衛星を投入し、そのうちの1機が必ず日本列島のほぼ天頂に位置するようにしている。そのため準天頂衛星と呼ぶ。みちびき3号機は静止軌道をとっている。

準天頂衛星の軌道(画像提供:JAXA)

センチ単位の情報で広がる利用範囲

みちびきには「GPSの補完」と「GPSの補強」という2つの役割がある。

まずGPSの補完だが、自分の位置を知るためには、4機のGPS衛星からの電波を受信する必要がある。しかしながら、都市部のビル街や山間部では、周囲に遮られてそれだけの数の衛星が空に見えない場合がある。今後は準天頂衛星が1つは必ず頭上にあり、他の2機も常時見えるため、この問題は解消される。また、高層ビル街ではマルチパスといって、衛星からの電波がビルに反射してから受信されることがあり、測位の誤差が大きくなる原因となる。測位の誤差は電離層を通過するGSP衛星からの電波の速度が遅くなる現象によっても生じる。これらは準天頂衛星からの信号によって改善することができる。

GPSによる測位の誤差は現在10メートル程度と言われている。この誤差を小さくするのがGPS補強である。これには「サブメーター級補強」と「センチメーター級補強」の2つがある。サブメーター級補強は電離層を通過するGPS衛星からの電波を補正するサービスで、これにより測位の誤差を1メートル程度にすることが可能になる。個人がスマホで利用するナビゲーションやカーナビでも精度が改善されることになる。

センチメーター級補強は準天頂衛星独自のL6という信号を用いるサービスである。全国にある約1300の電子基準点で得られたデータから作成した高精度の測位情報を準天頂衛星経由で地上に配信する。これによって測位の誤差は数センチメートルになる。センチメーター級補強サービスは、準天頂衛星システム最大の売りである。専用の受信機が必要だが、これによって衛星測位に新たな可能性が開ける。これまで実現できなかった位置情報の利用法が現実化すると期待されている。

センチメーター級補強サービスの利用例として、現在実証試験が行われているものの1つは、農業への利用である。無人トラクターによる種まきや苗の植え付け、肥料や農薬の散布などが考えられる。これらの作業は畝に沿って行わなくてはならず、これまでの衛星測位サービスでは不可能だった。こうした無人運転は他の産業機械でも利用できる。もちろん、車線内における数センチ単位の情報を得ることができるので、競争が激化している自動車の無人運転にも利用可能である。正確な位置情報が要求される測量作業に使うこともできる。その他、町の施設や店舗・レストラン等の案内や地域防犯システムなど、公共サービスの質的向上にも貢献できる。

宇宙版日米同盟のシンボルに

準天頂衛星にはさらにメッセージ機能があり、地震や津波などの自然災害が発生した場合に、緊急通報を送信することができる。また、静止軌道にいるみちびき3号機を使って、災害発生時に被災情報や避難状況などを防災機関に送る衛星安否確認サービスが行われることになっている。これらは2011年の東日本大震災を経験した日本社会にとって、欠かすことのできない重要な機能である。

20年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、準天頂衛星システムの利用が進んでいくとみられる。同システムの特徴を生かしたサービスやそれに伴う新しい社会モデルが構築されることを私は期待している。

最後に、準天頂衛星システムには「GPSの代替」という役割もあることにも触れておくべきであろう。GPSが何らかの理由で使用不能、あるいは位置精度が極端に低下した場合でも、日本周辺においては準天頂衛星システムのみでその代替を行うことができる。準天頂衛星システムは日本だけでなく、米国にとっても安全保障上重要な存在である。準天頂衛星システムは国際宇宙ステーション計画と並んで、日米同盟の宇宙におけるシンボルとなっている。

バナー写真=準天頂衛星初号機「みちびき」(画像提供:JAXA)

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  • [2017.10.11]

科学ジャーナリスト。一般財団法人日本宇宙フォーラム主任研究員。1981年に株式会社教育社で科学雑誌『ニュートン』を創刊。以来、長年にわたって科学分野の取材を続けてきた。主な著書に『中国、「宇宙強国」への野望』、『ファイナル・フロンティア―有人宇宙開拓全史』、『[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート』など。

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