シリーズ シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」
ベトナムの多世代間の連携の取り組み

土居 義範【Profile】

[2017.03.30] 他の言語で読む : ENGLISH |

公的な社会保障制度が十分ではないベトナムでは、インフォーマルな地域の活動が高齢者福祉において大きな役割を果たしている。ベトナム北中部、タインホア省でこうした地域活動を担うISHC(Inter-generational Self-Help Club:多世代間自助クラブ)を訪ねた。

政府の高齢者政策に採用された非公式な地域の活動

高齢者支援を行う国際NGO「HelpAge International」の調査によると、2014年末までに、ベトナム全土で779のISHCが公式に活動している。2016年8月には、政府認定の高齢者福祉モデルとして、ISHCの活動が正式に政策として採用されることが決まった。地域のインフォーマルな活動が、政府の高齢者政策に採り上げられたボトムアップの良い一例だ。実際に現地を訪れて感じたいくつかの特徴についてご紹介したい。

ベトナム・タインホア省にあるISHC。

地域のクラブ活動による無料の在宅介護

今回訪問したベトナム北中部、タインホア省にあるISHCは、ベトナム全土のISHCの中でも古くから活動しているものの一つだ。現在61人の会員がおり、上は90歳以上の高齢者から下は50歳以下の人など、様々な世代の人たちが参加している。このISHCでは、地域内の4人の要介護者のために会員の中から6人の介護ボランティアを割り当て、クラブ活動の一環として介護ボランティアが交代で家族への支援や家事の代行などの介護サービスを週3回行っている。

日本のように介護保険制度が整備されている国では有料のホームヘルパーを依頼することが当たり前だが、制度が整っていない国、特に地方でのホームヘルパー派遣は画期的な取り組みだ。しかもISHCのサービスは無料である。半身不随の91歳の義母を介護でISHCのサービスを受けているNさんに話を聞くと、「時々みなさんが来てくれて、家事を手伝ってもらったり、介護の悩みを聴いてもらったりして非常に助かっている」と明るく語ってくれた。多くの国で介護者の経済的・精神的・肉体的負担が問題となる中、ここでは地域のクラブ活動で要介護者を支える仕組みが確立されている。

多世代構成のISHC運営チーム。

高齢者の社会参加・QOLを考慮したモデル

貧困高齢者・老後破産などの問題が指摘されている中で、ISHCでは何歳になっても働く意欲のある人の起業を支援する取り組みも実施している。このISHCでは、会員向けにマイクロクレジットによるローンの提供なども行っており、資金提供だけでなく、ビジネス経験の豊富な会員は起業に向けた技術的なサポートも行う。その結果、ISHC のサービスを受けて起業した人の中には10億ドン(約45,000USドル)の年間所得を得た人もいたという。

また、健康増進や高齢者の生活の質に寄与するため、朝の体操や文化芸術活動など高齢者の社会参加を促す様々な活動を行なっている。

前回も触れたが、何を幸せと思うか、というQuality of Life(QOL)は人によって異なる。ここでは、世代を超えて支えあう仕組みが地域で機能しており、高齢者のQOLを考える上で興味深い。それは、自分が住む地域でつながりを深め、元気な時は地域の困っている人を支援し、自分が要介護者となった時には無料で支援を受けることができるといったように、地域の中で安心して老いていくことができるモデルとなっている点だ。ベトナムのISHCの活動は進行する高齢化に対応するために「地域力」の再生・活用に取り組む国にとって多くの示唆に富んでいる。

ISHCで行われた歌唱会。

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=タインホア省のISHCでの集団体操の様子。(写真はすべて著者提供)

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  • [2017.03.30]

笹川平和財団 国際事業企画部研究員。2005年、カリフォルニア大学バークレイ校卒業後、株式会社東芝に入り、USB Flash Memoryの海外営業企画を担当。退社後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊(ベトナムおよびドミニカ国にて活動)、在トリニダード・トバゴ日本国大使館勤務などを経て、2016年から公益財団法人 笹川平和財団国際事業企画部「アジアにおける少子高齢化」事業担当。企業活動による経済利益と社会利益の両立や超高齢化社会におけるインフォーマルな「地域力」の再生・活用に関心を持つ。

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