特集 ポストFUKUSHIMAのエネルギー戦略
原発放棄は短・中期的にとる政策ではない
地政学の視点からエネルギー問題を再考する

十市 勉【Profile】

[2011.11.25] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

資源に乏しい日本にとって、エネルギーの安定供給の確保は、国家の存立を左右する重要な課題。「原子力発電に対する不安と怒りが渦巻く中でも、日本にとって何が必要かを冷静に考えなければ」と話す十市氏がエネルギー戦略を考察する。

福島第一原子力発電所の事故は、日本社会全体に原子力発電の安全性に対する不信感を一気に広げた。事故の収拾が手間どる間に、脱原子力の機運はますます高まってきている。このような深刻な事故が起きた以上、安全性の面から原発を見直すのは当然だ。原発依存度を高めようとしていた日本のエネルギー政策は、大きな方向転換が必要になった。

しかし、原発問題だけで、将来のエネルギー政策を決め得るものではない。そもそも、日本にとってのエネルギー政策の目標は何であり、その実現のためには何が必要条件か、さまざまなリスク要因を十分に考慮して決めるべきであろう。

もともと資源に乏しい日本にとっては、エネルギーの安定供給の確保は、国家の存立を左右する極めて重要な課題であり、常に政策判断のベースに置いておかなければならない。そこで、まず戦後のエネルギー政策を概観してみたい。

エネルギー安定供給は国家存立要件に直結

第二次世界大戦後の日本が、荒廃した経済や国民生活を立て直して復興を進めるために、最初に手をつけたのは国内のエネルギー資源の増産であった。そこでとられたのが傾斜生産方式で、国内の経済資源を石炭開発に集中し、それをさらに鉄鋼生産に優先的に配分し、その鉄鋼をまた石炭の開発に向けた。石炭と鉄鋼という基盤産業を国家再建のベースにしたわけである。さらに電力供給の増強のために大規模な水力発電の開発を進めた。

その後、1950年代後半から60年代にかけて、中東地域で巨大油田が相次いで発見されたことで、日本のエネルギー事情は劇的に変化する。冷戦構造の中で日本の安定化を望んだアメリカが、安い中東の石油を日本に供給するという対日政策をとったことによるものだ。

それまでの主に国内の石炭に依存していた供給構造から、輸入石油に大きく依存する「流体革命(エネルギー革命)」が大変な勢いで進んだ。十数年で、エネルギー供給の8割近くを石油に依存するようになった。文字通り経済全体が石油漬けになり、ある意味ではこれが高度経済成長の原動力になった。

しかし、それも73年の第一次オイルショックまでだった。すなわち、エネルギー供給の中心となった石油の安定確保と石油依存度の引き下げが急務となった。8割近い石油依存度は、短期間で、それほど大きくは下げられない。そのため、供給の途絶に備えた石油の国家備蓄や、日本企業による海外での原油の自主開発への支援策、また輸入源を中東以外に多様化する政策を進めた。さらに、脱石油対策として、省エネルギーの推進、原子力、天然ガス、石炭、新エネルギーといった代替エネルギーの開発と導入を進めた。

70年代は、2度のオイルショックがあり、この時代には、エネルギーの安定確保が政策のトッププライオリティだった。

その後、85年のプラザ合意を契機に急激な円高が進み、日本企業が厳しい国際競争にさらされることになり、再び大きく状況が変わった。そのため、国内でのエネルギーの供給コストをいかに引き下げるかが、新たに重要な政策目標となった。

90年代後半になって、これがまた大きく変わる。契機になったのは地球温暖化。CO2の排出量をいかに抑えるかが、世界的にも重要なエネルギー政策の課題となってきた。この流れを決定づけたのが、97年の「京都議定書」だ。

このように、エネルギー政策のプライオリティが時代とともに変化する中で、今回の東日本大震災、そして福島第一原発の事故が起こったのである。これまでの、安定供給、供給コストの低減、低炭素化という政策目標に、安全性の確保が極めて重要な要素として加わった。特に自然災害に強いエネルギーの供給体制をつくる必要性が強く認識された。

これら4つの要素は、今の国際社会の中で日本が存立するために必要な条件なのである。しかし、これらすべての要素を十分に満たしてくれる供給源が見いだせないことが、エネルギー政策にとって難しい点でもある。

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  • [2011.11.25]

(財)日本エネルギー経済研究所顧問。1945年生まれ。東京大学理学系大学院地球物理コース博士課程修了。理学博士。(財)日本エネルギー経済研究所主任研究員、米国 マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギー研究所客員研究員、(財)日本エネルギー経済研究所専務理事(最高知識責任者)・首席研究員などを経て現職。主な著書に『21世紀のエネルギー地政学』(産経新聞出版、2007年、第28回エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞)『石油−日本の選択』(日本能率協会マネージメントセンター、1993年)、『第3次石油ショックは起きるか』(日本経済新聞社、1990年、第11回エネルギーフォーラム賞優秀作受賞)、『石油産業 シリーズ世界の企業』(編著、日本経済新聞社、1987年、第8回エネルギーフォーラム賞受賞)など。

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