特集 ポストFUKUSHIMAのエネルギー戦略
「シェールガス革命」と日本

森川 哲男 【Profile】

[2011.11.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

シェール(頁岩=けつがん)と呼ばれる泥岩の一種に含まれるシェールガスの増産が米国の天然ガス需給を劇的に変化させ、その影響が欧州ガス市場に及んでいる。こうした「シェールガス革命」が震災後の日本に与える影響や、アジア・太平洋ガス市場における「革命」の可能性を考察する。

シェールガスへの関心が日本でも高まっている。「シェールガス革命」という用語まで、一般紙はおろかテレビ番組でも取り上げられるようになってきた。一方、東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故およびその余波によって、全国54基の原子力発電所のうち2011年11月現在で稼働しているものは11基に過ぎない。代替電源の中心となるのが液化天然ガス(LNG)火力発電であり、震災以降燃料となるLNG輸入量が急増している。シェールガスを液化してLNGとして日本へ輸入するという構想も存在する。

本稿ではシェールガスおよびシェールガス革命の内容を説明し、革命の発生地である米国、そして欧州で何が起こっているのかを分析する。また、福島第一原子力発電所事故の余波で日本のLNG需要がどの程度増加しているのかを確認し、シェールガス革命が日本やアジアのガス市場に与える影響を探る。

シェールガス革命とは

シェール(頁岩)とは、泥岩の中で硬く、薄片状に剥れやすい性質のものを指し、このシェールの孔隙やフラクチャー(割れ目)の中に含まれるメタンガスがシェールガスである。在来型天然ガスとの違いは、ガスの貯留岩が砂岩ではなく、頁岩・泥岩であることである。シェールガスは、古くからその存在自体は認識されていたものの、在来型天然ガスと比較して開発コストが高かったことから注目を浴びてはこなかった。


シェール(頁岩)
出典:米国エネルギー省、Modern Shale Gas Development in the United States: A Primer、2009年4月、p.14

シェールガス開発が本格化したのは、2000年代に入ってからの米国においてである。1990年代の米国におけるガス価格の低位安定は、天然ガス需要の堅調な増加をもたらした反面、新規ガス田開発へのインセンティブを減少させる結果ともなった。2000年代初頭には増加する需要に国内生産が追いつかないことが認識され、価格が乱高下するようになった。このような状況で、新たな天然ガス供給源として当初想定されたのが、輸入パイプラインガスやLNGである。特にLNGについては、2006年時点で60ヵ所の新規受入基地計画があったほどである。

このように輸入プロジェクトの増加が注目される中、進歩していたのがシェールガス開発技術である。具体的には、水平坑井と水圧破砕という2つの技術が鍵となる。日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、水平坑井を「石油や天然ガスの閉じ込められた岩石の層に沿って掘削される井戸」、水圧破砕を「原油や天然ガスが存在する地層に圧力をかけて作った人工的なフラクチャー(割れ目)により、原油や天然ガスの流れにくさを改善する技術」とそれぞれ説明している。水平坑井は、通常の垂直・傾斜井に比べ、岩石との接触体積を多く取ることができる。また、水圧破砕によって、頁岩を破砕してガス流路を確保することが可能になった。これらの技術は原油開発については数十年の歴史があるが、シェールガス開発への適用が成功したことで、生産コストの劇的な低下をもたらした。すなわち、代替供給源として想定されてきた輸入パイプラインガスやLNGとシェールガスとのコスト競争力が逆転したのである。


水平坑井と水圧破砕のイメージ
出典:伊原賢「非在来型の原油や天然ガスの生産にかかる技術トピック」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC]ウェブサイト)、2011年10月、p.8

既にシェールガス資源の存在自体は認識されていたので、輸入ガスとのコスト逆転効果は劇的であった。2000年には10Bcm(1Bcm=10億立方メートル)以下であったシェールガス生産量は、2009年には95Bcmにまで増加した。これによって、米国は世界最大の天然ガス生産国となった。一方、大幅に増加することが想定されていた輸入量は、2007年をピークに減少に転じた。米エネルギー省は、2030年時点のLNG輸入量見通しを2007年から2011年にかけて約9,100万トン下方修正したほどである。

現在の米国における天然ガス需給は緩和というより、供給過剰と呼べるレベルになっている。この状況で、近年では米国からのLNG輸出計画すら出現している。例えば、シェニーエル・エナジーのサビーンパス・プロジェクトは早ければ2015年の輸出開始を目指しており、他にもLNG輸出を計画しているプロジェクトが複数存在する。2011年9月には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)エネルギー・交通大臣会合の際に行われた日米二国間会談において、牧野聖修経済産業副大臣が、チュー米エネルギー省長官に米国から日本へのLNG輸出許可促進を要請したと報じられている。(※1)

革命は世界的なトレンドとなるか

米国は世界最大の天然ガス消費国であり、その米国での需給が緩和し輸入量見通しが大幅に下方修正されたことは、国際天然ガス市場にも大きな影響を及ぼしている。特に、当初米国向けに想定されていたLNGが、リーマンショック後の不況により天然ガス需要が減少した欧州に流れ込んだことが、価格決定方式の一部変更にまで波及したことは重要である。

天然ガス価格決定方式は、輸入地域によって異なる。米国では、ガスパイプラインの集積地であるハブや、州際パイプラインと州内パイプラインの結節点であるシティゲート、すなわちガス取引地点での需給によって天然ガス価格が形成されている。一方、欧州の場合、米国的なハブ価格と石油リンク価格が並存しており、前者は主として英国およびベルギー、後者は主として大陸欧州諸国で採用されている。天然ガス需要が減少したにもかかわらず、欧州の買主が大量のスポットLNGを購入したのは、石油リンクで価格決定がされた大陸欧州向けパイプラインガスに対して、ハブで価格決定がされたスポットLNGが価格競争力を持っていたからである。一方、石油リンク価格で購入しているパイプラインガス輸入量は抑えられ、買主はパイプラインガス売主との既存契約の価格交渉を行った。その結果、ロシア・ガスプロムは2010年から3年間についてドイツの大手エネルギー企業、エーオン向けの供給量の10-15%をハブ価格にリンクさせることに合意し、オランダやノルウェーの天然ガス輸出主体であるガステラやスタットオイルもそれに追随した。これは、ハブ価格が石油リンク価格を下回る状況では実質的な値下げを意味する。最近では、ガスプロムの一部幹部から、価格決定方式の変更を容認する発言も出ている。

現在、米国以外ではシェールガスの生産はほとんど行われていない。開発計画は世界各地で進められているが、その中で最も注目を浴びているのが欧州である。現在、ポーランド、ドイツ等でシェールガスの開発が検討されている。特にポーランドでは、2010年前後から探鉱活動が行われており、2014年にも商業生産が開始される可能性もある。

米国でのシェールガス革命が欧州で再現するかについては、今のところ否定的な意見が多い。その論拠としては、欧州では開発が検討されている地域における探鉱の歴史が浅く、米国のように開発ノウハウが蓄積されていないこと、米国のような優遇税制等の開発促進策が整備されていないこと、米国では鉱物資源所有権は土地所有者が有し、それが開発インセンティブになったが、欧州を含む他国では国家が有すること、環境破壊懸念が強いことがある。

しかし、天然ガスの大消費地域である欧州でシェールガスの大規模生産が実現することへの期待は大きい。EUは天然ガス輸入依存度の上昇をエネルギー安全保障の観点から懸念してきた。特に2006年および2009年に起こったウクライナ・ガス危機以降は、ロシア産天然ガス依存への警戒感が強い。域内でシェールガス革命を起こし、ロシアへの依存度低減が実現できれば、欧州におけるロシアの影響力が抑制されるというシナリオ構築も可能であるが、その実現可能性は環境破壊懸念を克服した上で既存供給源に対して欧州産のシェールガスが価格競争力を持てるかが重要である。

一方、アジア・太平洋地域ではシェールガス開発はまだ検討段階である。ポテンシャルがあるとされているのは、中国、インド、オーストラリア、インドネシアといった国々であるが、大規模な商業生産に至っている例はまだない。その意味で、シェールガス革命はアジア・太平洋市場にはまだ到達していない。

日本のLNG需要とシェールガス

東日本大震災がもたらした福島第一原子力発電所の事故、およびそれに影響された原子力発電所の稼働停止は、全国で電力不足を引き起こしている。代替電源としてのLNG火力発電の重要性はこれまでになく高まっており、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)が2011年6月に発表した試算では、日本の発電用LNG需要は、2010年度比で2011年度に最大1,500万トン、2012年度に最大2,000万トン程度増加する可能性がある。しかし、2011年8月までの統計から推測すると、日本の電力会社のLNG火力発電所稼働率は6月時点でのIEEJの想定を下回ることから、少なくとも2011年度については上記の増加量に達しない可能性もある。

日本向けLNG価格は2011年に入ってから上昇傾向にあるが、これは主として原油価格上昇に伴うものである。スポットLNG価格も震災後上昇傾向にあるものの、震災の影響による潜在的な追加調達量の大きさを考慮すれば、いまのところ比較的落ち着いた値動きを見せている。カタールを中心とした余剰生産能力の巨大さ、および世界経済状況の先行きが不透明なことを考慮すると、極端なLNG需給逼迫は想定し難い。同国の余剰生産能力が生じた主たる原因の一つとして米国でのシェールガス増産があることを勘案すれば、日本は間接的にではあるがシェールガス革命の恩恵を受けているといえる。

アジアでのシェールガス開発はまだ検討段階であり、どの程度のポテンシャルを見込めるかを判断するのは難しい。アメリカやカナダからのシェールガスLNGの輸入については、ある程度の実現可能性が見込まれる。しかし、アジア域内のシェールガスにせよ、北米からのシェールガスLNGにせよ、それらがアジアに「シェールガス革命」を起こせるか否かは、環境面での制約を克服した上で、既存天然ガス・LNG供給源に対して価格競争力を持ちえるか否かに拠るところが大きい。

(※1)^ 「政府、米からLNG輸入へ…原発代替で安定供給」(『読売新聞』、2011年9月13日夕刊)、「米からのLNG調達に期待を表明 経産副大臣」(『日本経済新聞』、2011年9月15日朝刊)
なお、この会談で交わされた公式文書は、”Fact Sheet on U.S.-Japan Clean Energy Cooperation”「日米クリーンエネルギー協力ファクトシート(仮訳)」

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  • [2011.11.28]

財団法人日本エネルギー経済研究所石油・ガスユニット ガスグループマネージャー。1996年立命館大学国際関係学部卒業。2002年英国シェフィールド大学エネルギー・ビジネス修士課程修了後、日本エネルギー経済研究所入所。2011年7月より現職。

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