特集 エネルギー政策 日本の岐路
多様なエネルギー源で供給リスクに備えよ

村上 朋子【Profile】/西田 直樹【Profile】

[2012.08.20] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

政府は2012年6月、新たなエネルギー基本計画策定のための議論の材料として、発電に占める原子力の割合などに関する3つのシナリオを公表した。日本エネルギー経済研究所の村上朋子氏と西田直樹氏が、この3つのシナリオを検証し、日本のエネルギーミックスのあるべき姿を提言する。

福島第一原子力発電所の事故から1年以上が経過した6月29日、政府のエネルギー・環境会議(議長=国家戦略担当大臣)は、現行のエネルギー基本計画を見直し、新たな計画を策定するために、3つのシナリオを提示した。(※1) 2010年に閣議決定されたエネルギー基本計画では、2030年に発電電力量の5割強を原子力発電で賄うことが示されていたが、(※2) 今回は10%程度の省電力を前提とした上で、2030年時点の原子力による発電割合ごとに、ゼロシナリオ、15シナリオ、20~25シナリオ、の3選択肢が示されている。また、再生可能エネルギーによる発電電力量は、ゼロ、15、20~25の各シナリオにおいて、それぞれ35%、30%、25%~30%、化石燃料による発電電力量はそれぞれ65%、55%、50%と、原子力が減るにつれて、再生可能エネルギーと化石燃料の割合が増えることになっている。3つの選択肢の概要を図1に示す。

エネルギー自給率の向上、経済成長、地球環境への対応が課題となっている中、どのようなエネルギーミックスが望ましいのか。本稿では各選択肢の意味を検証し、選択のあり方について示唆を試みたい。

エネルギーミックス選択の視点「3E+S+M」

エネルギーミックスの選択に当たっては、以下のような視点から総合的な検討が必要である。

(1)エネルギーの安定供給の確保(Energy security:E1)
資源小国の日本(エネルギー自給率4%)にとって、「エネルギー安全保障」は日々の生活、経済活動の根幹を支える最重要課題である。

(2)環境への適合(Environment:E2)
温室効果ガスの約9割はエネルギーを起源とするCO2である。地球温暖化対策とエネルギー政策は表裏一体であり、相互に整合的な取り組みが不可欠である。

(3)経済効率性(Economic efficiency:E3)
生活の安定や産業競争力の確保のためには、安定かつ低価格でのエネルギーが必要である。

(4)安全性(Safety:S)
エネルギーの供給・利用に際しては、その安全性を十分に考慮することが不可欠である。

(5)経済インパクト(Macro impact:M)
政策によっては、一部の国民生活や経済活動に負の影響を与える可能性があるが、それをできる限り小さな影響(電気代、国内総生産[GDP]への影響)にとどめる努力も必要であろう。

それぞれのエネルギー源は異なる特徴を持っており、欠点を持たない、完璧なエネルギー源は存在しない。以下、3E+S+Mの観点から各エネルギー源の長所と課題をレビューする。

各エネルギー源の長所と課題

再生可能エネルギー

再生可能エネルギーの最大の長所は、純国産資源であり、エネルギー自給率の向上に貢献すること(E1)である。また、発電時に地球温暖化ガスを排出しない(E2)利点もある。一方、火力発電・原子力発電に比べて高価であること、エネルギー密度が低く広大な土地を必要とすること、太陽光・風力などは出力の変動が大きいため、安定的に電力を供給するために電力系統の整備など追加的な対策が必要になるなどの課題があり、これらの課題は経済効率性(E3)上はデメリットと評価される。例えば、再生可能エネルギー比率を35%とする「ゼロシナリオ」では、今後18年間で全ての可能な住宅の屋根に太陽光発電設備を設置し、さらに、耐震性が弱い住戸も改修して導入する必要があるとされる。また風力発電設備についても、今後18年の間に東京都の約2.2倍に相当する敷地に設置することが必要になると試算されている。万一これらが実現できなかった場合には、その分、火力の増加が必要になり、再生可能エネルギーの環境面でのメリットが相殺されることになる。

火力発電

火力発電の最大の長所は発電用としての使い勝手が良いことであろう。燃料調達さえできればどの燃料種でもおおむね、ベース電源、ミドル電源、ピーク電源などの用途に柔軟に対応でき、経済効率性も良い。ただし、化石燃料はほぼ全量輸入で、中東などの地政学リスクに脆弱(ぜいじゃく)であるという課題もある(E1)。また、発電コストの7~8割が燃料費であり、発電コストが化石燃料価格の変動に大きく左右される点では経済効率性(E3)の面から課題がある。さらに、発電時に多量の地球温暖化ガスを排出するため、地球環境保全のためにはCCS(二酸化炭素回収・貯留)のような追加的な対策を要する(E2、E3)。

原子力発電

原子力発電の最大の長所は、一つの発電所で大量の電力供給が可能、資源量も豊富であり、備蓄効果も大きく、準国産エネルギーとされ、エネルギー安全保障に大きく貢献することである(E1)。かつ、再生可能エネルギーと同様、発電時に温暖化ガスを排出しない長所もある(E2)。さらに、安全かつ安定的に運転すれば、立地費用・政策費用・廃炉費用・放射性廃棄物処分費用などを含んでも、他電源に比べて安価である(E3)。

一方、福島事故前から指摘されていた課題として、高レベル放射性廃棄物の適切な処分、安全性の向上(S)が挙げられている。

エネルギー源別国産比率(E1)、CO2排出原単位(E2)、発電コスト(E3)比較をそれぞれ図2、図3、図4に示す。

出所)エネルギー・環境会議コスト等検証委員会報告書

各シナリオの評価

以上述べてきた各電源の特徴と課題を元に各シナリオ下での評価を述べる。

まず、現行電源比率(2010年)から再生可能エネルギーの比率を2倍以上に高め、原子力比率を維持ないしは微減とする「20〜25シナリオ」の下では、エネルギー自給率の向上・燃料輸入額の低減が図れ、環境適合性も良く、その割に経済へのインパクトは比較的抑えられる。

次に、現状より原子力比率をほぼ半減する「15シナリオ」のもとでは、エネルギー自給率の向上は図られるが、経済へのインパクトは「20〜25シナリオ」より大きくなる。さらに、「ゼロシナリオ」の下だと、燃料輸入額の低減が図れず環境適合性も十分とはいえない上、電気料金の上昇幅が大きいなど、経済へのインパクトも最大となる。すなわち、原子力比率が小さくなるにつれ、3Eが不十分となり、Mへの悪影響が増大する傾向がある。

3E+Mの観点に立ったシナリオごとの評価を図5に示す。

注)比較基準をそろえるため、ゼロシナリオは省エネ追加対策を行わないケース(経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会試算の選択肢1)を掲載。また、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会のコストを使用した2研究機関の結果を採用。

原子力の継続利用に向けて

7月14日から始まった日本各地における「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」では、これまでのところ多くの会場でゼロシナリオが望ましいとする意見表明がなされており、それらの意見の根拠は、原子力の安全性への信頼が大きく揺らいでいることである。

現在、政府(※3)、国会(※4)、東電(※5)、民間(※6)の4つの事故調査報告書が公開されているが、それらではこれまで津波対策がなされないまま放置されていた原因として、東電と規制機関の不作為が挙げられている。緊急安全対策や、発電所の耐久性を試験するストレステストに加え、独立性の高い原子力規制委員会の設立などの対応により、発電所の安全性を高め、国民の信頼を回復することが喫緊の課題である。

一方、事故以前の日本の原子力発電所の状況はどうであったのであろうか。設備利用率は決して良くはなかったものの、計画外停止頻度は世界的に群を抜いて少なく、また、国際原子力安全評価尺度(INES)評価の対象となるような事象の発生頻度も少なかった事実がある。日本では、いったん計画外停止すると再稼働までに時間を要する現実があるため、微細なトラブルをも発生させないよう慎重な対応がなされてきたことの成果であろう。また、コスト競争力の衰退から1980年代に欧米で原子力発電所新規建設が停滞していた時代においても、日本では電源多様化の観点から新規建設や研究開発を続けていた実績がある。その結果、世界でも数少ない主要原子炉プラントメーカー(アレバ、ロスアトム、三菱、日立GE、東芝-ウエスティングハウス)のうち3社は日本企業であり、世界の原子力産業界で日本企業は大きな存在感を持っている。このことは、原子力発電を新たに導入しようとしているベトナムやリトアニアが、福島事故以降も日本企業への期待を失っていないことからも伺える。

結局のところ、日本は高い原子力の技術を持っていながら、それを使い、規制する組織の能力と安全を重視する姿勢、いわゆる安全文化が不十分であったことが、福島事故の要因といえる。安全文化を再構築し、透明性を確保した規制組織によるガバナンスを高めることで、日本の原子力発電所の安全水準は世界的にも高いものになるであろう。そもそも原子力は「安全・安心だから選択される」ものではなく、わが国のエネルギー事情に基づいて選択した原子力をできるだけ安全に使っていくことが重要なのである。大規模な事故リスクをゼロにすることは不可能なことを肝に銘じ、福島事故以前には欠けていたとされる「それでも大事故は起こってしまうと仮定した」事故時の対応手順や対策の多重化と、それを運用する関係者の意識醸成と持続的な改善努力が強く望まれる。

どのエネルギー源も排除してはならない

3E+S+Mの観点から、再生可能エネルギー、原子力、火力といった電源は、全ての面で満点を取る事は不可能であり、エネルギー小国日本にとって「完璧なエネルギー」は存在しない。長所も、短所もある多様なエネルギーを、長所を最大にし、短所を最小にしつつ、バランスよく利用するしか道はない。仮に「ゼロシナリオ」が選択される場合は、国民の負担や経済インパクトをどう受け止めるのか、選択する国民の側にも相当な覚悟が求められるし、火力への依存度を下げ、再生可能エネルギーを普及していくため、補助金頼みの拡大姿勢とは決別する姿勢を真摯(しんし)に見せることも必要であろう。

しかしながら、より理想的に日本が取り得る方策は、どのエネルギー源も排除しないことである。原子力や再生可能エネルギー、火力といった現実的に利用可能なエネルギー源の利用開発を進めることはもちろん、将来のエネルギーとして期待される水素、果ては核融合といった、あらゆる分野の研究開発を進め、エネルギー供給リスクに備えることが、エネルギー小国日本が将来にわたって経済活動を維持・発展させるための条件である。エネルギーミックスに関する議論が進む中、国民の皆さまにおかれては、各シナリオの特徴をよく見定めて、客観的かつ冷静な選択をしていただきたいと考える。

(2012年7月31日 記)

(※1)^ エネルギー・環境会議「エネルギー・環境に関する選択肢」

(※2)^ 経済産業省「新たなエネルギー基本計画の策定について」、2010年6月18日

(※3)^ 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会「最終報告」、2012年7月23日

(※4)^ 国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会「報告書」

(※5)^ 東京電力「福島原子力事故調査報告書」、2012年6月20日

(※6)^ 一般財団法人日本再建イニシアティブ・福島事故独立検証委員会『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/2012年3月)

  • [2012.08.20]

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット原子力グループグループマネジャー。1990年東京大学工学部原子力工学科卒業。1992年同大学院修了後、日本原子力発電に入社、新型炉開発・安全解析・廃止措置などの業務に従事。2004年慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、MBA取得。2005年より日本エネルギー経済研究所に在籍、2007年より現職。

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット原子力グループ研究員。2001年京都大学工学部原子核工学科卒業。2003年同大学院修了後、関西電力に入社、運転・保守管理などの業務に従事。2011年より日本エネルギー経済研究所に在籍。

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