特集 第2次安倍内閣発足と日本政治の行方
安倍首相に問われる政治主導の覚悟

北岡 伸一【Profile】

[2013.01.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | العربية |

日本が国内外で直面する困難な課題に対応するには、安倍首相がイデオロギーにととらわれることなく、強い政治的リーダシップを発揮して合理主義的な政策を推し進めることが必須だ。

第2次安倍内閣の3つの課題

2012年12月16日の衆議院総選挙で自民党は大勝し、3年3カ月ぶりに政権に復帰した。しかし、すでに多くの論者によって指摘されているとおり、比例部分における自民党の得票率は2007年の参議院選挙に惨敗したときと、ほとんど同じである。顕著なのは民主党の大幅な後退と新政党(日本維新の会とみんなの党)の台頭によるものだった。

安倍首相の個人的な資質、イデオロギー、自民党の能力には、国民はまだ十分な支持を与えていない。また、新政権が直面する課題は巨大であって、簡単に解決できるようなものではない。

それでも、内閣支持率は6割を超えている。過去6年間に6人の総理大臣が交代した。これでは有効な政治指導は不可能であり、国益上有害だということを、国民も理解している。何とかある程度長く政権を維持してほしいというのが国民の偽らざる希望であろう。

安倍政権の責任はまことに重大である。もし日本が直面する諸課題に適切に対応できなければ、日本の国力はさらに低下し、日本の政治は泥沼となってしまう恐れがある。このような観点から、新政権の課題を検討することにしたい。

安倍内閣の課題は、第1に経済、第2に外交・安保、そして第3に、夏の参議院選挙に勝利して、ねじれ状態を解消することである。その順に述べたい。

まだ見えぬ「第3の矢」成長戦略

経済における課題は、巨額の政府債務である。累積債務はGDPの200%に達し、毎年の税収は歳出の半分にも及ばない。これを克服するためには、経済成長を促して税収を増やし、消費税などの税金を増やし、社会保障を圧縮し、行政のスリム化をはかるなど、多くの困難な政策が必要である。

安倍内閣は、まずデフレの克服と経済の再活性化から始めようとしている。内閣は「3本の矢」として、大胆な金融緩和、積極的な財政出動、成長戦略を挙げている。安倍首相は元来外交・安保に強い意見の持ち主だったが、9月に自民党総裁選挙に勝利して以来、もっぱらこれを新政権の最大の課題としている。

内閣は、まず2%のインフレ目標を設定し、日銀と政府の協力を強化しようとしている。このメッセージだけで、かなり円安が進み、輸出産業は歓迎している。

さらに大型の補正予算を組み、2013年度予算につなげようとしている。こういう膨張型の政策執行は、自民党の得意とするところである。円安と相まって、経済界はこれを歓迎し、株価は目に見えて上昇している。まだ実態は伴っていないが、経済は予測や期待でも動くから、かなりの成果というべきだろう。

しかし、財政出動の中心は国土強じん化であり、かつての公共事業中心型の歳出と大きく違うわけではない。かつてのような無駄の多い投資とならないか、疑問も多い。

第3の矢としての成長戦略は、まだ姿が見えていない。自民党はかつて利益集団を基盤として、大胆な規制緩和に取り組むことができなかった。今度はそれができるのか。また環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に対する慎重な姿勢を変えることができるだろうか。原発の再稼働は、成長戦略の一貫であるが、これが成功するかどうか、容易なことではない。

仮にアベノミクスといわれる以上の政策が成功しても、それだけで累積債務問題は到底解決できない。さらなる消費税などの増税と、社会保障の圧縮、そして行政機構のスリム化などが不可欠だろう。

年金については、支払い年齢を遅らせ、高齢者への給付を減らし、それ以外にもさまざまな給付の削減をすることができるだろうか。

自民党は高齢者の支持に依存することの多い政党である。選挙のさなか、自民党は、自民党は変わったと主張したが、本当に変わったのなら、従来型の公共事業を圧縮し、大胆な規制緩和を行い、国際連携を強化し、増税を辞さず、社会福祉を圧縮しなければならない。そのためには、本当に必死の努力が必要だろう。

「動的抑止」の見直しは不適切

第2に外交・安保においては、膨張する中国にいかに対処するかということが、最も重要である。

安倍首相は、日本の防衛力を強化し、米国との関係を強化することを基本としている。そのために、2010年に民主党政権のもとで作られた防衛政策の大綱を見直し、防衛予算を増加し、集団的自衛権は行使できないとする従来の政府解釈を見直そうとしている。その関連で、総合的長期的な戦略と政策の立案のために国家安全保障会議を作ることも検討されており、もう少し長期には、憲法改正、自衛隊を国防軍にすることなども、視野に入っている。

これらのうち、2010年防衛計画の大綱については、陸上自衛隊の人員削減、「動的抑止」などを見直し、予算を増額すると小野寺五典防衛大臣は述べている。しかし、予算増額はよいとしても、大幅に増やせる状況ではない。現状では、陸上自衛隊の人員削減などを行い、より重要な南西方面、海上自衛隊、航空自衛隊の装備の充実を図るのが急務である。その意味で、基盤的防衛力をやめて動的抑止を導入した民主党2010年大綱は適切なものである。これを変更したいというのは、単なる反民主党感情と、陸上自衛隊の主張の丸呑みからきていると思われる。全体として安倍内閣に好意的な読売新聞も社説において(2013年1月11日)、動的抑止の見直しに反対している。

国家安全保障会議の創設と集団的自衛権の是認

かつて第1次安倍内閣は、国家安全保障会議について、法案を提出していたが、安倍首相の辞任によって挫折し、後継の福田康夫首相は取りやめてしまった。しかるに、民主党も基本的には国家安全保障会議の創設には前向きである。日本の病弊ともいうべきセクショナリズムを克服し、長期的、総合的安全保障政策のために、これはぜひとも実現すべきものであり、維新の会もみんなの党も賛成だから、これは早期に実現してほしい。そのためにも、大綱の見直しのような実質的な意味の乏しい政策で対立をあおるべきではない。

集団的自衛権に関する解釈の見直しについては、やはり安倍内閣の下で安保法制懇談会(柳井俊二座長)が設立され、2008年に福田首相に対して報告書を提出したが、福田内閣はこれを棚上げにしてしまったのである。

柳井レポートは充実した内容を持つ。とくに、米艦防御やミサイル防衛については、集団的自衛権を是認しなければ適切な対応はとれないとされていたが、今や尖閣諸島をめぐって日米共同行動の可能性が出ており、また北朝鮮のミサイルはフィリピン沖まで到達するようになっているので、より現実的な課題となっている。国民の支持もありそうだ。

しかし、長年の「平和主義」に慣れた一部政党やメディアなどは、激しく反対する可能性がある。また日本の法律は列挙主義であって、法律に明記してあること以外はできないという仕組みであるため、仮に政府が集団的自衛権の行使は可能と決めても、それを自衛隊法に明記する法律改正が必要である。これは連立を組む公明党の消極姿勢を考えれば容易なことではない。

ただし、世界の中で言えば、これは当然のことである。中国も韓国も、集団的自衛権の行使は可能である。世界標準にすることには、ためらう必要はない。実現の道を講じなければならない。

自衛隊法の改正を

次に、憲法の改正である。9条1項は、紛争の平和的解決を目指すものであって、世界共通である。変える必要はないし、変えるという人も多くない。9条2項は、軍備を持たないという条項であり、すでに自衛隊を持っているので、事実上改正されている。それでも不十分なので、きちんと改正すべきだという人が自民党には多い。

ただ、自民党の憲法改正案は、自衛隊を国防軍にする、などであるが、それは英訳すれば同じである。あまり意味のある改正とは思えない。むしろ自衛隊法の改正などで対処可能である。

以上が防衛政策の見直しであるが、他方で、中国、韓国との関係の安定が不可欠であろう。尖閣諸島をめぐる中国との対立、竹島および従軍慰安婦をめぐる韓国との対立については、慎重な対応が必要である。

日中、日韓歴史対話のための共同研究着手を

尖閣諸島については、公務員の常駐や施設の建設などの案もあるが、安倍首相はただちに着手するのではなく、中国との取引材料とする方針らしい。

懸念は村山談話と河野談話の見直しである。とくに従軍慰安婦に関する河野談話の見直しをするとすれば、韓国との対立を激化するのみならず、米国の支持も得られない。河野談話は、従軍慰安婦の強制連行を認めたもので、その手続きや証拠には不十分な点が多く、その見直しを主張する人が自民党には多い。特に安倍首相の周辺には、そのような論者が多い。これを進めるかどうか、進めるとしても学術的、国際共同研究として進めるなら一案であるが、ハイレベルでリードするべきものではない。

左派の論客として知られる藤原帰一東大教授は、安全保障政策の見直しは理解できるし、9条2項の修正までは、場合によっては許容可能であるが、歴史の見直しだけは避けるべきだと述べている(『朝日新聞』2012年12月26日)。筆者を含む多くの中道の論客と同じ主張となっているのは興味深い。

むしろ、中国、韓国との関係安定のためには、歴史対話は欠かせないと考える。第1次安倍内閣は日中歴史共同研究を開始し(私が日本側座長を務めた)、また小泉内閣に続いて第2期の日韓歴史共同研究を開始した。安倍内閣が再びこれらに着手することを期待したい。

私は、日中歴史共同研において、両国の立場を併記するパラレル・ヒストリーを目指したが、さらにこれを進めて、両国の見方を簡潔に対比した小さな副読本を作って、子供たちに読ませたいと考えている。なぜなら、中国、韓国では、日本側の主張はまったく知られていないし、日本側も、中韓の立場を良く知っているとはいえない。例えば日本がなぜ竹島を領土だと考えているかということを、韓国民に知らせることができれば、いわゆるagree to disagreeの段階に進む可能性が出てくる。そこまでを目指すべきである。

与野党関係の再構成

さて第3に政治戦略である。

安倍内閣の最大の課題は参議院選挙で勝利することである。参議院で勝利すれば、法律案を通せるようになる。また、状況によっては、衆参両院で3分の2の多数をとって、憲法改正に進むことも可能である。また、維新の会が躍進すれば、維新と組むという選択肢も可能となる。

安倍首相は憲法改正を念願としている。その際、安倍首相は憲法96条の憲法修正要件(衆議院と参議院の3分の2の多数で発議し、国民投票にかける)を、両院の2分の1とすることを優先する模様である。

それは、十分意味のある主張であるし、世界的な比較でも少しもおかしくはない。しかし、修正要件の緩和は、9条改正の第一歩だという批判を惹起(じゃっき)するだろう。96条修正から入る場合には、9条関係の修正をどこまでやるのか、明示する必要があるだろう。

政治主導で衆議院の優位強化を目指せ

だが、それでも国民の警戒は高まる可能性がある。私はむしろ、96条よりも、議院内閣制度の本旨である衆議院の優位の強化を目指すべきではないかと考える。すなわち、59条2項を改正して、衆議院の再議決要件の3分の2を2分の1に変更することである(場合によっては、参議院の廃止を視野に入れてもよい)。これなら、国民の反対もメディアの反対も、それほど強くないのではないだろうか。これによって、憲法は改正できるものだという感覚を国民が持って、それから必要な改正に取り組めばよい。

しかしそういう提案は、自民党からも民主党からも出てきにくい。党内に参議院議員がいるからである。これこそ、政治主導がもっとも必要なものである。いずれにせよ、安倍首相が真に強いリーダーシップを発揮し、かつ、参議院選挙までと想定されている合理主義的な政策を続けることを明らかにすることによって、現在の多くの課題の解決に向けて前進できるだろう。実態の伴わないイデオロギー的右傾化路線は、百害あって一利なしと考える。

(2013年1月15日 記、タイトル背景写真=2013年1月11日、緊急経済対策を閣議で決定、記者会見する安倍晋三首相/産経新聞社提供)

  • [2013.01.28]

国際大学学長、政策研究大学院大学(GRIPS)教授。専門は日本政治史、日本外交史。1948年生まれ。71年東京大学法学部卒、76年9月東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士。76年から立教大学法学部講師、助教授、教授を経て、97年から東京大学法学部教授。2004年特命全権大使(日本政府国連代表部次席代表)を経て、06年9月に東大法学部教授に復帰。2012年4月よりGRIPS教授。同年10月より国際大学学長を兼任。近著に日本政治の崩壊―第三の敗戦をどう乗り越えるか』(中央公論新社)『官僚制としての日本陸軍』(筑摩書房)がある。

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