特集 いよいよ消費増税!日本の財政どう再建するか
日本の財政再建が挫折するわけ

岡崎 哲二【Profile】

[2014.03.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

危機的水準に達した公的債務を抱えながら、毎年財政赤字を積み上げている日本。財政再建を阻む要因を経済史的視点から検証する。

世界でも突出した日本の公的債務

OECD(経済協力開発機構)の国際比較統計によると、日本の政府(一般政府)債務残高のGDP比は2012年時点で218.8%に達している。この比率は、米国(102.1%)の2倍以上、2010年の債務危機で注目されたギリシア(167.3%)を約3割上回る、OECD諸国中最も高い水準である。

日本について時系列で比較しても、2012年の政府債務GDP比は、1937年の日中戦争開始から8年にわたる総力戦を続けた後の1944年度の水準をすでに超えている。そして、戦時期に積み上がったこの巨額の政府債務は、通常の方法では償還することができず、結局、戦争直後にかけての高率のインフレーションを通じた事実上の課税、いわゆる「インフレ課税」によって解消された。

すなわち、1944年から急速なインフレがほぼ終息した1949年にかけての5年の間に、卸売物価が90倍に上昇し、額面が固定されていた政府債務の実質価値は90分の1に減価したのである。減価した部分は、最終的には国債を直接ないし金融機関を通じて間接的に保有していた国民が、実質的に負担することになった。

このインフレ課税などによって政府債務のGNP比は1950年度までに一挙に14.0%に低下し、さらに50年代後半以降の高度経済成長を通じて64年度には4.4%となった。しかし、その後再び上昇傾向をたどり、特に90年代以降その勢いを増して今日に至っている。

高齢化を背景とする極度の財政「硬直化」

日本の政府債務残高は現在すでに危機的な水準に達しているが、事態をより深刻にしているのは、新たな財政赤字が年々発生し続けていることである。2014年3月20日に成立した2014年度予算は、歳入総額95兆8823億円のうち43.0%にあたる41兆2500億円について公債収入を予定している。歳出から国債費を除いて計算した基礎的財政収支(プライマリーバランス)も22兆6111億円の赤字であり、この部分が新たに債務残高に付け加わることになる。これはGDPの5%弱に相当する大きさである。

さらに、歳出の構造にも問題がある。2014年度予算の歳出のうち、政府の裁量の余地が小さい国債費と社会保障関係費の比率は、それぞれ24.3%と31.8%で、合計すると56.1%になる。1960年代後半に政府債務残高が増加し始めた時、当時の大蔵省は「財政硬直化」の問題点を強調し、その解決の必要性を訴えた。大蔵省が「財政硬直化キャンペーン」を展開した時期に編成された1968年度の予算では、国債費と社会保障費の比率はそれぞれ3.5%、14.1%、計17.5%(四捨五入のため17.6%にならない)であった。これを基準にすれば、今日の日本の歳出構造は極度に「硬直化」していることになる。

日本の財政構造がこのような状況となっていることの背景には、基礎的な事情として人口の急速な高齢化がある。この点は、歳出膨張の主因となっている社会保障関係費の大部分が、高齢者を主な対象とする年金医療介護保険給付費が占めていることに反映されている。2014年度予算案について見ると、社会保障関係費のうち73.9%は年金医療介護保険給付費となっている。

財政再建を困難にする “民主主義の落とし穴”

しかし、このような背景を、財政危機として現実化させるのは政治である。政府債務残高が増加を始めた1960年代後半以降、今日に至るまでに、上記の財政硬直化キャンペーンを含めて、財政再建が繰り返し試みられてきた。

竹下登内閣の下で1989年に行われた消費税の導入、橋本龍太郎内閣の下で1997年に実施された消費税率の5%への引き上げ、野田佳彦内閣の下で決定され、安倍晋三内閣の下で2014年4月から実施される消費税率の8%への引き上げなどが財政再建への努力の顕著なものである。ところが、こうした努力を行った内閣に対して、総じて有権者はその後の選挙で厳しい評価を与えてきた。

この経験は、民主主義の下で財政再建を行うことの難しさを示している。個々の有権者の立場から見ると、自分が財政からの給付を受ける場合、その給付に伴う費用の一部だけを税金として分担することになるため、有権者としての政治的判断は、自分が政府から受ける給付を増加させ、財政支出を膨張させる方向への偏りを持つことになる。

また、増税の提案に対しては、自分以外の人々が「無駄遣い」をしており、それを解消すれば増税は必要ないといった楽観的主張に政治的な支持を与える傾向がある。すなわち、財政赤字の拡大には、「民主主義の陥穽(かんせい)」ともいうべき側面があるといえる。

「建設国債」という財政法が設けた「抜け穴」

もちろん、長い歴史の中で人々は、この民主主義の陥穽を避けるための仕組みを作り出してきた。それらは一言でいえば、コミットメントのための手段、すなわち民主主義的政府が、自らの裁量の範囲を、あえてある程度制限するための手段ということになる。

こうしたコミットメント手段の一つとして、特定の通貨制度、すなわち金本位制や固定相場制がある。通貨価値と通貨量を金にリンクさせる金本位制の下では、金本位制の維持が前提となれば、国際収支赤字につながるおそれがある財政支出・財政赤字の拡大には歯止めが掛かる。管理通貨制の下であっても、固定相場制が採用され、その維持が前提になっていれば、同様の作用が働くことになる。

もう一つのコミットメントの手段として憲法や法律がある。例えば戦後の日本では1947年に財政運営の基本的なルールとして財政法が制定され、同法はその第4条で「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と規定している。

もっとも日本の財政法の場合は、上の規定に続けて「但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と定められており、これが重要な抜け穴となってきた。1966年度以降、50年近くにわたって、毎年度この例外規定に基づいて建設国債が発行され続けてきたのである。

また原理的にも、法律は議会の多数を占めるグループによって修正され得るため、政府のコミットメント手段としてその有効性が限定されている。この点は、議会の多数党が政権を得る議院内閣制の下では特に顕著となる。実際、日本では財政法第4条で例外として認められている国債(「建設国債」)の他に、多額の国債(「赤字国債」)が、財政法の特例として国債発行を認める法律を毎年度国会で制定することを通じて発行されてきた。

効果的に中立的機関の役割を担った戦前の「元老」制度

第三のコミットメント手段として、民主的コントロールから少なくとも相対的に隔離された中立的機関に財政に関する権限を委譲するという方法がある。この方法が有効に機能したとみられる事例として、戦前日本の「元老」という非公式の制度がある。元老は憲法(大日本帝国憲法)に定められていなかったが、明治維新以来、強い政治的な影響力を保持し、特に総理大臣の奏薦(そうせん)について天皇からの下問(かもん)を受ける数名の維新元勲(げんくん)を指し、具体的には、明治期には、伊藤博文、山県有朋、黒田清隆、井上馨、西郷従道、大山巌、松方正義を指していた。

元老は、政党が力をつけ民主主義に固有の財政膨張圧力が増大した20世紀初めに、その圧力への防壁として機能した。1904~05年の日露戦争は、戦費の総額が1903年の日本のGNPの68%に達する大規模な戦争であり、また日本の勝利に終わったとはいえ、日清戦争と異なって賠償金を得ることができなかったために、戦争後に日本の財政に大きな国債費の負担を残した。その状況の下で、戦勝で発言力を増した陸海軍、鉄道・港湾・電信などの産業インフラの整備を求める内務省・鉄道省など、支持基盤である地方への利益誘導を図る政党(政友会)の三つのグループが、それぞれ巨額の予算を大蔵省に要求したのである。

しかし、結果から見ると、日露戦後に財政支出は抑制され、プライマリーバランスの黒字が維持されて、日露戦争時に累積した政府債務の削減が進んだ。これは、財政膨張の抑制を図る大蔵省を元老がバックアップしたことによる。例えば1911年、井上馨が財界の有力者であった渋沢栄一とともに、外債非募集・国債償還・行政整理などを骨子とする財政に関する意見書を、当時の首相、西園寺公望らに提出した。そして元老・井上の支持を受けて大蔵省は政友会と内務省が要求していた公共事業費の削減に成功したのである。

一つの国家機関として見た場合、元老にはいくつかの重要な特徴が認められる。第一に、その地位が選挙による民主的コントロールから隔離されており、第二に、事実上終身の地位であった。そして第三に、大日本帝国憲法下で権力を分有していた政府と軍の双方に対して影響力を有していた。

これらの特徴のために、元老は民主主義に固有の財政膨張圧力の影響から自由であるとともに、長期的かつ個々のグループではなく国家全体の視点から財政に対して発言することができたと考えられる。大正期に元老の一人に加わり、「最後の元老」となった西園寺公望が1940年に死去した後、日本の財政が破綻への道を急速に進み始めたのは象徴的な出来事といえる。

単純な「政治主導」は問題解決を遠ざける

今日の日本の財政について憂慮されるのは、前述のようにそれが数量的に見てすでに危機的な状況になっているだけでなく、民主主義の下で財政支出と財政赤字の膨張を抑止するコミットメント手段が機能せず、さらにそれを弱体化させる方向に政治が動いている点である。いうまでもなく現代の日本では金本位制や固定相場制が選択されておらず、妥当な選択肢でもない。そうであるからこそ一層、国内の法的・制度的なコミットメントに期待される役割は大きい。

しかし、財政法は過去半世紀にわたって、ほとんどコミットメント手段として機能してこなかった。それに加えて、現在の政府は、民主党政権以来の「政治主導」を継承して、特定の意思決定を政治から隔離して中立的な機関に委譲することの意味を認めないという方向に進んでいる。

こうした単純な「政治主導」論は、政府、与野党だけでなく言論界にも広がっているように見える。日本の財政危機は、このようなより広い問題と関わっている。

(2014年3月20日 記)

タイトル写真=G20財務相・中央銀行総裁会議に出席した麻生太郎財務相とジャネット・イエレンFRB議長(中央)、黒田東彦日銀総裁(中段右)[2014年2月22日、オーストラリア・シドニー(ロイター/アフロ)]

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  • [2014.03.28]

東京大学大学院経済学研究科教授。専門は経済史、歴史比較制度分析。1958年生まれ。 1986年東京大学大学院修了(経済学博士)。99年から現職。2002年~03年スタンフォード大学客員教授。 主な著作は『日本の工業化と鉄鋼産業』(東京大学出版会、1993 年/サントリー学芸賞受賞)、『経済史の教訓』(ダイヤモンド社、2002年) など。

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