特集 いよいよ消費増税!日本の財政どう再建するか
消費税率50%超が要求される日本財政「不愉快な算術」

小林 慶一郎【Profile】

[2014.04.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

消費税率が8%に引き上げられたが、米国の経済学者が計算する日本の財政再建のために必要な税率は桁違いだ。この「不愉快な算術」と財政危機の可能性を小林慶一郎・慶應義塾大学教授が論じる。

3年前ですら「消費税率33%が必要」

2014年4月1日、消費税の税率が17年ぶりに引き上げられ、5%から8%になった。2015年10月には10%への引き上げも予定される。しかし、2013年10月に安倍晋三首相が8%への引き上げを最終決断する直前に増税反対論が再び高まったように、アベノミクスの効果で日本経済が回復基調となる中、消費増税や公共事業費などの歳出削減を積極的に進めようとする声は小さくなっているように思われる。

そこで、2013年12月2日にキヤノングローバル戦略研究所は「Abenomics and Sustainability of the Public Debt」(アベノミクスと公的債務の持続性)という政策コンファレンスを開催した。筆者はこのコンファレンスの主催者の1人である。コンファレンスには、日米のマクロ経済学者数人が日本の財政の将来について議論を戦わせた。米国から来た2人の経済学者はともに非常に悲観的な見通しを語った。本稿では、その1人であるアトランタ連邦準備銀行シニアエコノミストのリチャード・アントン・ブラウン氏の語る予想図を紹介したい。

ブラウン氏は有名なマクロ経済学者。以前は東京大学教授だったこともあり、日本経済について研究も多い。彼は南カリフォルニア大学のダグラス・ジョインズ教授と共同で、日本の人口動態、経済成長、社会保障制度と財政問題の関係がどうなっていくのかをコンピューターシミュレーションで予想する研究を行ってきた。

まず彼らが2011年に行った研究発表を紹介する。日本の人口推計であるが、ブラウン氏らは国立社会保障・人口問題研究所の推計を延長した。彼らの推計では、(合計特殊)出生率が1.3程度と低迷する場合、日本の人口は現在の1億3000万人弱から、最終的に約4000万人に落ち込む。出生率が今すぐ2.0程度に回復しても、最終的な人口は8000万人になる。

生産性の成長率(技術進歩率)は過去100年間の平均でみると、先進国では労働者1人当たり年率2%である。これは技術進歩の基本的な性質を表しているので、容易に変えられない。経済成長率は生産性の成長率と人口増加率の和で近似できるので、これから人口減少が続く日本では、アベノミクスが大きな成果を上げたとしても、2%の経済成長を維持するのが精いっぱいであろう。

こうした基礎的条件のもとで日本の財政を最終的に安定させるには、消費税率を何%にしなければならないのだろうか?

ブラウン氏たちの答えは33%、しかも恒久増税である。(これは3年前の計算結果であることに注意。最も新しい計算結果は後述する。)

今の政治の現状からすると、目まいがするような数字である。シミュレーションでは、出生率が回復せず、生産性の成長率は1人当たり2%、インフレ率は1%が続くとし、社会保障制度は現状のまま何も改革が行われないと仮定した。財政再建のターゲットは、2100年までに国債などの公的債務の対GDP(国内総生産)比率を60%に戻して安定させることとした。

ちなみに、出生率がいますぐ2.0になったとしても、必要な消費税率は28.5%と算出された。財政再建に限れば、出生率の回復もそれほど助けにはならないのだ。また、3年前のこのシミュレーションで、ブラウン氏らは「生産性の成長率が2%でインフレ率が2%」という設定のケースも計算している。これはつまり、アベノミクスの成長戦略が大成功したケースでの日本経済の将来の姿である。その想定でも、公的債務を安定させるためには消費税率を25.5%まで引き上げなければならないことが分かった。

「消費税率33%が必要」というような議論は一般のメディアでは現在ほとんど出てこないが、実は経済学者や日本の財政専門家の間では違和感のない数字である。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマクロ経済学者ゲイリー・ハンセン教授と南カリフォルニア大学の社会保障研究者セラハティン・イムロホログル教授が行った日本財政の研究でも、財政再建のためには消費税率を35%まで上げる必要があるという結果が出ている。日本の経済学者、マーケットエコノミスト、財務省の研究官なども同様の数字を算出している。

つまり、日本の経済、財政、社会保障のデータを虚心坦懐(たんかい)に眺めて分析してみると、「財政を持続可能な状態に戻すためには消費税率に換算して約30%分に相当する財政収支の改善が必要」という結論にすでに3年前に達していたのである。

最新の予想はさらに途方もないスケール

以上は、3年前の計算結果である。この3年間、日本の財政は悪化の一途をたどっており、将来へのツケは指数関数的に増えている。

昨年12月の会議にはブラウン氏とイムロホログル教授が参加し、最新の計算結果を披露した。ブラウン氏は、消費税の増税だけで財政再建する場合、消費税率を徐々に高めて2070年頃には53%にする必要がある(その後、22世紀前半に徐々に減税し、消費税率を最終的に40%にする必要がある)と試算した。イムロホログル教授も、2019年から2087年まで約60%の税率にし、その後47%に安定化させることが必要であるとした。

このような規模の増税やそれに匹敵する歳出削減策が、民主主義の政治システムで、いや、人間社会のどのような政治システムでも、実現可能とは到底思えない。日本の財政問題は、民主主義あるいは人間の政治的意思決定の限界を超えているのかもしれない。しかし、この途方もない「スケール感」をしっかり認識しなければ、真に実のある財政問題の議論はできない。

ブラウン氏らの計算は、日本人が見たくない現実を目の前に突きつける「不愉快な算術」なのである。

日本の財政問題は南欧、中南米と同じ構造に

2015年に消費税が10%になったとしても、そのままの状態が続けばどうなるのか。今後3年ほどの間には、問題は顕在化しないかもしれない。金融市場の参加者は2年よりも先のことは念頭にないので、市場では財政破綻への危機感は薄い。しかし、人々の生活は50年、100年と続いていく。財政については、「今後2年は大丈夫だが、あとは野となれ山となれ」という訳にはいかないのだ。

中長期のタイムスパンで考えれば、ギリシャの債務危機と同様の状況が日本で起きることは十分に考えられる。国内の家計貯蓄に対する国債残高の比率は年々高まっていて、今後10年から15年で、国債残高は家計貯蓄を超える。

10年後には海外投資家に国債を買ってもらうことが当たり前となるだろう。その際には海外投資家の意向が国債の価格を決める。海外マネーを頼らなければ財政が回らない状態になるので、日本の財政問題は最近の南欧諸国の債務危機、1980年代の中南米諸国の累積債務問題とまったく同じ構造になっていく。その頃には経常収支(貿易収支)も恒常的に赤字となっている可能性が高い。仮に日本の製造業が高い競争力を保ったままであっても、高齢化の進展により、日本全体としては「自分で稼げる金額以上に消費をする体質」になっているはずだからである。

日本の場合、日本銀行が国債を無制限に買い入れれば、国債の償還は必ず実行できる。しかし、その場合にはマネーが市場にあふれてインフレが制御できなくなる。つまり日本では「財政破綻=高インフレ」である。霞が関の官僚たちは、おそらく次のように考えている。「高率のインフレによって政府の債務負担を事実上棒引きしてしまう方がずっと楽。面倒な増税や歳出削減策を国民に説明し、それを国会で通すために苦労しなくて済む」。

しかし、そんな楽をできるのは政策当局者だけであって、国民は増税や歳出削減よりも、もっと大きなコストを払うことになりかねない。

財政危機で高インフレになると金利が高騰するため、政府の借金が棒引きされるどころか、むしろ国債の借換金利の負担が膨張して、借金の額が増えていく。これは1980年代から、ブラジルやアルゼンチンが繰り返し経験してきたことだ。非常に高い率のインフレになると、経済が混乱して成長率が下がり、生活水準が悪化する。その上、政府の債務も増えるので、中央銀行が国債買い入れを増やして、ますますインフレが高騰する。日本の現状では約1000兆円の政府債務残高に対し、毎年120兆円を借り換えている。インフレで金利が上がれば、借り換えの金利負担は莫大な額に上る。

「インフレによって政府の借金を棒引きする」ことは、言い換えれば「全国民1人当たり1000万円もの財産が、インフレで没収される」ということだ。高いインフレになれば、国民が持つ預金などの金融資産は価値が目減りする。一方、国債もその価値が目減りし、政府の借金の負担は減る。つまり、インフレが起きると国民から政府に実質的な所得移転が起きる。「高率のインフレは財産税と同じ」なのだ。さらに、経済活動の混乱がもたらす生活水準の悪化が加わると、国民生活への被害は、消費税を30%にする場合などとは比較にならないくらい大きくなる。

財政破綻の「焼け野原」が一瞬で終わって、その後は健全な経済と財政が始まる――というわけにはいかない。その後遺症は20年も30年も続く。当然ながら国力は衰退し、世界における日本の地位も後退するだろう。20世紀初頭にアルゼンチンは世界8位の経済大国だったが、今は大きく経済的地位を落としている。このまま状況を放置すれば、日本も同じことになりかねない。

財政危機を覚悟せよ

他方で、前半で述べたような大規模増税や同等の歳出削減の実現は困難だろう。であれば、当然ながら国債価格の暴落やインフレ率の高騰が発生する可能性を想定しなければならない。そうなったときの危機対応策(コンティンジェンシープラン)を立てておくことが強く望まれる。

いずれにしても「もし年金や高齢者医療費を削減するのが不可避だとしたら、どの費目を、どの程度の金額、どういう順番で削るのか」といいった「仮定の議論」を平時から十分に行う必要がある。

もしも何の準備もせず、国債暴落のような危機が起きてしまったらどうなるか。市場の暴走を止めるために、政府は慌てふためいて社会保障給付を削減せざるを得ないのではないか。おそらく政治的な声の小さい最弱者への給付から切り捨てていくことになり、払わなくてもいい犠牲を国民に強いることになる。東日本大震災の混乱の中、原発事故の避難に際して多くのお年寄りが亡くなったことと同じような事態が起きかねない。

「仮定の議論はしない」という永田町の常套句は、こと財政問題については使ってほしくない。将来の危機を仮定しないという態度は、単なる逃げにすぎない。国民生活に責任のある人々こそ「仮定の議論」を平時から繰り返し、いつか来るかもしれない非常時に備える義務がある。

タイトル写真=2014年4月1日の消費税率引き上げを知らせる家電量販店内の看板(撮影=Shizuo Kambayashi/AP Photo/アフロ)

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  • [2014.04.02]

慶應義塾大学経済学部教授。1991年、東京大学大学院修士課程修了(数理工学専攻)、通商産業省(現・経済産業省)入省。1998年、シカゴ大学大学院博士課程修了(経済学)。経済産業研究所上席研究員、一橋大学経済研究所教授などを経て、2013年から現職。著書に『日本経済の罠』(共著/日本経済新聞社、2001年/日経ビジネス人文庫、2009年/日経経済図書文化賞、大佛次郎論壇賞奨励賞受賞)、『逃避の代償―物価下落と経済危機の解明』(日本経済新聞社、2003年)など。

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