特集 保守化、右傾化する日本?
マイルドヤンキーは政治的保守層ではない—『ヤンキー経済』著者・原田 曜平氏に聞く
[2014.07.17] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

日本の若者の中で「マイルドヤンキー」と言われる層が注目されている。不良やワルといった従来型のヤンキーがマイルド化した彼らこそが、現代の新保守層だという見方に対して、『ヤンキー経済』著者・原田曜平氏はこれを真っ向から否定する。

原田 曜平

原田 曜平HARADA Yōhei1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社博報堂入社。同ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大学経営情報学部非常勤講師。主な著書に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書/2014年)、『これからの中国の話をしよう』(加藤 嘉一氏と共著/講談社、2013年)、『近頃の若者はなぜダメなのか』(光文社新書、2010年)、など。

「マイルドヤンキー」—新保守層と言われる若者たち

不良を描いた学園マンガとして80年代~90年代にかけて人気を誇った『ろくでなしBLUES』。(週刊少年ジャンプで1988年~ 1997年まで連載)(C)森田まさのり・スタジオヒットマン/集英社

『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎)を2014年1月に出版して以来、原田氏はその反響の大きさに驚いているという。ヤンキーをテーマに、全国紙や主要テレビ各局でも続々と特集が組まれ、取材依頼もずっと途切れない状況だ。現代の20代に多く見られるマイルド化したヤンキーのことを「マイルドヤンキー」と名付けて、原田氏は精力的なフィールドワークと分析を続けている。

かつて1970年代ごろ、日本で「ヤンキー」といえば、リーゼントにパンチパーマ、ダブダブで太い「ボンタン」と呼ばれる学生服ズボンを履いた不良を指していた。彼らを「従来型ヤンキー」とするならば、2000年以降その数は明らかに減少してきている。現在のヤンキーは非常に気質が優しくてマイルド化しているのが特徴的だ。「彼らは、改造バイクには乗っても交通ルールは守り、決して暴走族には入りたがりません。昔流行った不良マンガを読ませてもあまり興味がないようです」。音楽では、EXILEが特に男性の間で一番人気だ。「EXILEの見た目のワルさに加えて、仲間や身内を大事にするグループ内の関係性が、マイルドヤンキーたちの深い共感を呼ぶのでしょうね」と原田氏は分析する。

マイルドヤンキーに絶大な人気があるミュージシャンEXILEのメンバーら。彼らの曲には、仲間を何よりも大事にする関係性が描かれている。メンバー同士を尊敬し合い、楽しげにハイタッチする姿などがマイルドヤンキーの共感を呼ぶ。(写真提供=時事)

マイルド化を加速する理由、「親」の弱体化

2000年以降のいわゆるゼロ年代以降、ヤンキーを象徴する日本独特の事象として“荒れる成人式”というのがあった。だが、ついに2014年には、それも姿を消した。「成人式が荒れることでは有名な沖縄県ですら、新成人たちは地域のゴミ拾いをして、かつて見られたような騒ぎは起きませんでしたね」と原田氏。このようにヤンキーは確実にマイルド化してきている。

沖縄県で、成人式後に市街地でオープンカーなどを乗り回す新成人たち/2004年(写真提供=時事)

マイルドヤンキーのマイルド化を助長する要因として、親世代の変化も見逃せない。これまで親は「いい大学に入って、いい会社に入らなければならない」という価値観を一方的に子どもに押し付けてきた。そういったパワーも親の側にはあった。というのも、マイルドヤンキーの親世代は最後の正社員世代であり、彼らの父親の正社員率は比較的高かったからだ。

ところが、この20年あまりで親の正規雇用率が低下したことに伴い、親たちが子どもに口出しできる前提である経済的基盤が崩れてきた。「たとえ親が高学歴であっても、ある日突然リストラされたり給料が減額されたりしている。もはや親の世代は、反抗して憎むべき対象ではなく、憐れんで庇護すべき対象になってきているのだと思います」。

「地元」「地縁」「仲間」「親」を愛する“地元族”

もともとマイルドヤンキーは、量的測定や明確な把握自体が困難なターゲットである。新聞社や調査会社の階層別調査手法はインターネットがメインであるが、彼らはPC上でのインターネットを介した大手の調査網にはなかなかひっかかってこない。グループインタビュー調査にしても、開催される場所は原宿や渋谷といった都心部がメインとなることが多いが、「マイルドヤンキーは自分の地元が大好きで、たとえ電車で数十分の距離に住んでいても、まず都心には出てきたがりません。だから、インタビュー調査を通じて彼らを正確に把握することは、実に難しいのです」と原田氏。地元を離れるのを嫌い、生まれ育った土地で慣れ親しんだ友達と家族を大切にして穏やかに暮らす日々。マイルドヤンキーは、きわめてコンサバティブな「地元を愛する」若者たちなのである。

こうした「地元族」が抱く地元愛を構成する要素は、大きくは中学校の同級生であり、パラサイト先としての親であり、あるいは彼らと一緒に遊ぶ地元の大型ショッピングモールなどである。そこで昔馴染みの仲間と快適な時間を楽しみたいのだ。「彼ら地元族は何も、熱烈な郷土愛があって地元を愛しているわけでも、地元の商店街を活性化したいわけでもありません。もちろん、彼らの地元愛は、自国に対する愛国心とはそれほど関係ないものでしょう」。

超ガラパゴス化する若者たち—高学歴層までもが内向きに

地元族であるマイルドヤンキーにとっての「地元」とは、具体的には自宅の半径5キロメートル圏内を指す。そこで彼らの世界は充足し完結している。これはガラパゴスの中でも「超ガラパゴス」的な世界であるとさえいえるが、原田氏は、このガラパゴス化したマイルドヤンキー層自体を問題視しているのではない。問題なのは、「いわゆる高学歴と言われる層の若者に内向き傾向が見られること」だという。

「彼らは、外の世界を見ることもなく内へ内へと目を向けてしまうんですね。海外への留学生数が著しく減少している事実も、その表れだと思います。高学歴層の彼らは、マイルドヤンキーとは全く異質の存在だと感じています。東大・早稲田といった高学歴の若者たちまでが、地元族の気質を強く持っていて、大学の授業が終わると、まっすぐに地元に戻り中学時代の仲間としか遊ばない。そういった若者も出始めています」。彼ら高学歴層にまでも、内向き指向が表れはじめてきているのだ。

政治的要素が皆無なマイルドヤンキー

原田氏は著書『ヤンキー経済』のサブタイトルに「新保守層の正体」と付けたことから、マイルドヤンキーの存在を政治的思想と関連付けられてしまうことに違和感を隠せないという。「マイルドヤンキーが“新保守層”だというのは全くの誤解と言わざるを得ません。結論から言うと、マイルドヤンキーに政治的要素は皆無ですね」。つまり、「新保守層」とされるマイルドヤンキーは、一見保守的に見えるライフスタイルを送っている事実を指しているだけで、政治意識が保守的なわけではないのだ。

現在、保守主義の極端な現れとして、排他主義・排外主義からくる「ヘイトスピーチ」が社会問題化しているが、ヘイトスピーチをする若者たちとマイルドヤンキーたちに何か接点はないのか。この点について原田氏は「そもそもマイルドヤンキーの日々の暮らしに、ヘイトスピーチは関係がありませんからね。ヘイトスピーチの存在すら『何となく聞いたことがあるな』という程度の理解でしょう」という。

ヘイトスピーチ(差別的な憎悪表現)とも無関係なマイルドヤンキー

東南アジア各国を巡って若者の行動調査に関する研究を重ねた原田氏自身の経験からも、「中国でも韓国でも反日を掲げる若者はいますし、広く東南アジア全体にも外国を排斥するような運動をする人々は一定数いると思います。外国に対して排他意識を持つ中心的な層は、大卒者や大学生に多いというのが実感です。高学歴の人は、どの国でも非常に考え方がリベラルだと感じます」という。

どの国でも、ヘイトスピーチのような排他主義的な行為に関わる階層というのは、社会的にある意味で不遇な立場に追い込まれてしまったと感じている人々も含んでいることから、「その責任を外部に押し付けるという構図はどの国でも同じですよ。今、日本で起こっているヘイトスピーチ現象は、こうした現象の表れなのかもしれません」。

在日外国人の排斥を主張するヘイトスピーチ(憎悪表現)デモをする若者たち/2013年6月、東京都新大久保(写真提供=時事)

「一方でマイルドヤンキーはそうした層とはあまり関わりがないため、両者が交わることはないでしょうね。マイルドヤンキーは地元にこもって、自分たちの先輩や仲間を大事にして生活する自己完結型の生活を送っていますから」。

そもそも原田氏の問題意識は、彼らマイルドヤンキーに何か固定化したレッテルを貼ることにあるのではない。「むしろ大事なのは、これから彼らをどうやって政治に興味を持たせるようにするのかでしょう。かたくななまでの地元愛を、政治に対する関心へと大きく導くための方策について、そろそろ真剣に大人たちや政治の側が考えるときが来たのではないではないでしょうか」。

“マイルド”から真性“ガチ・ヤンキー”へ進化するとの予測も

マイルドヤンキーはこれからどうなっていくのか。彼らの将来像については現在、大きく2つの見方があるという。「1つは、日本だけでなくアジアでも広くマイルドヤンキーが拡散していく、という見方です。どこの国でも先進国になればなるほど一定割合でマイルドヤンキーが出現しています。日本では今、ようやく80年代後半の成熟期だった西欧社会に意識が追いついてきたところであり、マイルドヤンキーが出てきたという段階ですね」。今後、アジア各国でもこのまま先進国化が進めば、マイルドヤンキーがアジアの若者の一定数を占めるようになると予測する。「事実、上海やソウルなどでは加速度的に経済成長を遂げてきているので、日本の若者とそれほど差がない状況のため、マイルドヤンキー族が少しずつ出現してきていますね。但し、フィリピン、ベトナムあたりでは発展途上のステージですから、まだ日本のような状況には至っていません」。

もう1つの見方とは、マイルドヤンキーは今だけの暫時的なものに過ぎず、今後も存在し続けるかは不確定なものに過ぎない、というものだ。「その背景には、マイルドヤンキーたちが親になったときの経済事情が一段と悪化しているだろうという予測があります。マイルドヤンキーの親は最後の正社員世代であるため、父親の正社員率が高いのですが、その下の団塊ジュニア世代から下になると、親の非正規雇用率が一段と高くなるのです。すると、マイルドヤンキーの子ども世代はパラサイトする持ち家もないし、経済状況が大変厳しくなると予想されます。マイルドヤンキーでいるためには、ある程度経済的に親が安定している必要がありますからね。マイルドヤンキーの子ども世代以降は厳しい経済状況に置かれるため、そこでマイルド性がラジカルにそぎ落とされてしまい、将来的には真性の“ガチ・ヤンキー”が登場するのではないかという予測もあるのです」。

このように、貧困や下流という社会状況は、今後のマイルドヤンキーのあり方にも大きく影響を及ぼしていくことが予想される。いずれにせよ、彼らマイルドヤンキーの動向をつぶさに把握しておくことは、今後日本からアジア全体の若者の社会行動を把握するためにも非常に役立つと原田氏は力説する。マイルドヤンキーが愛する「地元」「地縁」「親」「仲間」といった伝統的で古典的なキーワードこそが、現代の成熟社会を生きる若者たちを理解するための最新のタームなのかもしれない。

(2014年5月18日のインタビューに基づいて構成。インタビュー写真撮影=木村 順子)

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