特集 日本のODA60年を考える
民間部門や市民社会の力を巻き込む「触媒」としての日本のODA

北野 尚宏【Profile】

[2014.08.26] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | العربية |

開発途上国への資金の流れが多様化し、先進国からの政府開発援助(ODA)の割合が低下している。こうした中で日本のODAが果たすべき役割を考える。

「触媒」としての役割高まるODA

日本の政府開発援助(ODA)は、2014年に60周年という節目を迎えた。近年、開発途上国を取り巻く開発課題は複雑化、高度化し、途上国向けの資金の流れも多様化して、先進国のODA以外に、直接投資などの民間資金、非政府組織(NGO)や財団などからの民間贈与、そして新興国からの資金が増加している。日本のODAには、これまでの実績を基礎とした資金や技術の途上国への移転にとどまらず、ODA以外の資金を引き込み、企業を主とする民間部門、NGOや財団をはじめとする市民社会などの力を結集して途上国の社会変容を促す「触媒」としての役割がこれまで以上に求められているといえる。

本稿では、このODAの触媒的役割に注目し、2000年に国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標」(MDGs)やMDGsの達成年限である2015年以降の国際開発目標「ポスト2015年開発アジェンダ」などの国際開発(途上国開発)の制度枠組みも踏まえながら、日本のODAの実績と現状について、事例を交えながら概観したい。

日本は世界第4位―2013年ODA実績国際比較

下の図は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)主要加盟国のODA実績(支出純額)(※1)およびODAの定義に近似させた中国の対外援助推計(※2)の推移を比較したものである。日本は、2000年までは第1位、2001~05年は米国に次いで第2位、その後順位を落とし2007年から第5位にとどまっていたが、2013年にフランスを抜いて米国、英国、ドイツに次ぐ第4位となった。中国は2001年から2013年の12年間で約10倍になり、フランスに次いで第6位まで順位を上げている。これは新興国からの資金量増大の証左の一つといえる。

一方、DAC加盟の先進国から途上国への資金の流れの中でODAの占める割合(2010~12年平均)は支出純額で26%に過ぎず、66%は民間資金、6%は民間贈与である。この点から、日本をはじめ先進国のODAは、いかに触媒としての機能を強化するか、ODAと民間資金による開発効果を包摂的、持続的なものにするかが課題となっている。

アジア向けの割合高い日本のODA

日本は半世紀近くにわたってODA借款(円借款)を供与しており、二国間ODA支出総額に占めるその割合は2010~12年の平均で51%と、贈与(無償資金協力や技術協力など)の割合より大きいのが特徴である。地域配分は、アジア65%、アフリカ20%、中南米6%、中東4%であり、所得水準別にみると中所得国への割合が73%で、後発開発途上国(LDCs)および他の低所得国向け27%よりも高い。分野別では、2010~12年約束額ベースの平均で、経済インフラ・サービス(運輸やエネルギー関連など)が45%と高い割合を占め、社会インフラ・サービス(学校、病院、上下水道など)が26%で続く(※3)。日本のODAは、円借款の割合が高く、アジアの中所得国、経済インフラ整備への配分が大きいことが特徴である一方で、東南アジアのメコン地域諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)やアフリカ諸国などのLDCs向けの社会インフラ・サービス支援にも取り組んでいる。

日本のODAの具体的なプロジェクトの例をいくつか挙げると、アジアにおいては、タイの東部臨海や北部ベトナムで、港湾をはじめとするインフラ整備に日本のODAが活用され、それが触媒となって、民間の直接投資の誘致による産業集積形成と貿易振興、さらには雇用創出につながった。このようなアプローチは、インドネシアのジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)の開発やインドのデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)に受け継がれているといえる。また、モンゴル、カザフスタン、ベトナム、タイ、マレーシア、スリランカなどの首都空港建設には日本のODAが供与されている。さらに、ベトナムでは法制度整備や国営企業・銀行セクター改革、ミャンマーでは中央銀行の決済システム構築などについて、日本の経験を基に協力が進められている。

アフリカにおいては、ケニアで全国展開されて成果を収めた理数科教育プロジェクトをモデルに、14カ国で理数科教育強化の協力が実施中である。エチオピアでは、同国政府とのハイレベルでの「産業政策対話」と、工業生産の現場レベルでの人材育成を重視するアジアの経験に基づいた「品質・生産性向上計画調査(カイゼンプロジェクト)」の二つの協力が同時に進行中である。

活発化する「ポスト2015年開発アジェンダ」の議論

極度の貧困を2015年までに半減させることや妊産婦・乳幼児の死亡率削減など、国際社会共通の開発目標であるMDGsに象徴されるように、国際開発の制度化が進んでいる。その中で、日本はこれまでさまざまな国際公約を表明・実行してきた。例えば、2010年のMDGs国連首脳会合の際には、2011年から5年間で、保健分野では50億ドル、教育分野では35億ドルの支援を行うことを表明している。しかしながら、ODA実績の国民総所得(GNI)比では、2013年には0.23%と前年の0.17%から改善しているものの、0.7%のDAC加盟国共通目標には及ばず、DAC加盟国中18位となっている。

一方、MDG達成年限を間近に控えて、国連など国際社会では「ポスト2015年開発アジェンダ」についての議論が活発化している。日本は、「人間の安全保障」(※4)を指導理念として、自らの国民皆保険制度達成の経験を基にした「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)の実現や、「防災の主流化」、「持続可能な都市開発」などに力点を置いて、「ポスト2015年開発アジェンダ」の枠組み作りの議論に参画している。(※5)

ここからは、MDGsや「ポスト2015年開発アジェンダ」に関連した分野で、日本のODAが民間部門や市民社会の力を巻き込む触媒として機能した取り組みをいくつか紹介したい。

ポリオ撲滅で実現した民間贈与の動員

まず、乳幼児死亡率の削減の一環としてのポリオ撲滅に向けた取り組みである。ポリオは「小児マヒ」の通称で知られる5歳未満の罹患(りかん)率の高い感染症である。1988年の第41回世界保健機関(WHO)総会において「世界ポリオ撲滅イニシアティブ(GPEI)」が発足して以降、日本は中国での撲滅(2000年達成)に重要な役割を果たすなど(※6)、中国を含む西太平洋地域におけるポリオ撲滅宣言に貢献した。現在ポリオの常在国としては、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの3カ国が残されている。日本政府の開発援助を実施する機関である国際協力機構(JICA)は、GPEIの下で2011年にパキスタンの「ポリオ撲滅事業」に円借款を供与した。

本事業が画期的だったのは、円借款を触媒として民間贈与を動員する初めての試みとして、事業成果の達成が確認された場合、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がパキスタン政府に代わって円借款の債務全額をJICAに返済する「ローン・コンバージョン・スキーム」が採用されたことにある。円借款に加え無償資金協力とJICA専門家の技術協力を組み合わせ、世界銀行、WHO、国連児童基金(ユニセフ)とも連携を図りながら、2011年から2年にわたり全国で予防接種キャンペーンが実施された。そして高い予防接種率などの事業成果の達成が確認された結果、2014年4月にゲイツ財団が円借款の返済を行うことを正式に決定した。パキスタンで成功したこのモデルはナイジェリアにも適用されることになり、5月にJICAは同国政府と円借款契約を締結した。

 地域おこしに民間部門の参画を促す

「無印良品」で2013年に販売されたケニア西部・キシイ地方産ソープストーン(石鹸のようにやわらかい材質の石)の工芸品(上)。生産者グループは、利益の一部を保育所や図書室の建設に当て、地域コミュニティーに還元している(写真提供=良品計画)

国際社会で現在進められている「ポスト2015年開発アジェンダ」の議論では、市民社会や民間部門との協働が重視されているが、JICAが支援している中央アジア・キルギスの一村一品プロジェクトは、ODA事業が触媒機能を発揮し、民間企業と連携して途上国の地域コミュニティーに社会変容を起こしつつある例である。一村一品運動は、地域の特産物を生かして国内外に通用する商品を作り上げることで住民による地域活性化を目指す、日本の大分県から始まった取り組みで、この地域おこしのアプローチは中国や東南アジアそしてアフリカに広まっている。

キルギスのイシククリ地方では、2007年からJICAの協力で一村一品運動が導入され、2010年には現地の生産者の発意で一村一品組合が結成された。この年に「無印良品(MUJI)」ブランドで知られる株式会社良品計画が、JICAに2011年のクリスマスギフト共同企画を打診し、キルギスとケニアの一村一品プロジェクトからの提案が選ばれた。キルギスでは、一村一品組合が中心となって、良品計画の品質およびデザインのレベルを適用した、国際市場で通用する携帯機器ケースなどのフェルト製品を毎年共同開発(タイトル写真参照)。製品は日本をはじめ世界各地で販売された。この活動は、組合の生産者、中でも女性のスキルの向上、現金収入の増加、家庭内での地位向上につながっている。

良品計画はこのJICAとの連携が契機となりカンボジアやラオスにも商品開発や雇用創出の支援活動を広げ、2013年に国連開発計画(UNDP)が主導する、ビジネスの成功と持続可能な開発を同時に実現するための「ビジネス行動要請(Business Call to Action)」にアジアの小売業として初めて登録されるとともに、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)から「インクルーシブ・ビジネス・リーダー賞」を受賞している。

市民社会の関与によるバリアフリーのインフラ整備

3つ目の事例はインフラ整備支援の在り方に関するものである。「ポスト2015年開発アジェンダ」の候補には、持続可能な都市開発に関する項目の一つとして都市公共交通整備が掲げられており、特に社会的弱者に対しての配慮が不可欠とされている。これを具体化するのが、バリアフリー/ユニバーサル・デザインの考え方である。こうした社会的弱者への配慮という点においても、ODAの触媒機能が働いたケースがある。

例えば、円借款を導入したタイの首都バンコクで初めての地下鉄路線「ブルーライン」建設に当たっては、計画や実施段階で地下鉄の建設・運営を担当するタイ高速度交通公社(MRTA)と障害者団体との意見交換がもたれるとともに、MRTAの技術者がバンコクを拠点とするアジア太平洋障害者センター(APCD)(※7)が実施したバリアフリー研修に参加、地下鉄の工事現場見学もAPCDの研修プログラムに組み込まれるなどして関係者間の交流が深まった。MRTAはタイの法令がカバーしない点も含めて独自にバリアフリー・ガイドラインを策定し、エレベーターやホームドアの設置などが実現した。

近年では、バンコクの都市鉄道路線「パープルライン」「レッドライン」に加えて、都市化が急速に進み公共交通機関の整備が焦眉の急であるベトナム、インドネシア、インド、バングラデシュなどの都市鉄道プロジェクトにも、日本の有する経験を踏まえた形で、各国法令の順守というアプローチを取りつつ、障害者団体と協議の上でバリアフリー/ユニバーサル・デザインが導入されている。

以上紹介した3件の事業は、日本のODAが触媒として機能して、民間贈与を動員したり、民間部門や市民社会が事業に参画することを促すことで、社会やコミュニティーの変容にもつながりつつある事例である。ODAの事業を通して培われた経験が、事業が実施された各国内で共有されるだけでなく、国境を越えて他の国にも広がりつつあることにも注目したい。

ODAの今後の課題

ここまで、日本のODAの実績と現状について、事例を交えて概観した。最後に、日本のODAの今後の課題について触れたい。第1に、途上国への資金の流れが多様化する中で、本稿で論じたODAの触媒機能の強化がますます重要となる。第2に、日本が二国間ODAと国際機関を通じた多国間ODAを戦略的に活用して、UHCや防災の主流化など比較優位のある分野で国際開発の潮流をリードし続けることである。そして、第3に、統計学、経済学、政治学をはじめとする学問の先端的技法を動員して、日本のODAの事業成果を定量的に把握し、分かりやすく発信する努力が必要である。事業成果の把握は、国際的に求められる「ポスト2015年開発アジェンダ」達成状況のモニタリング強化に貢献し、また、日本が国際開発の潮流をリードするための基礎体力づくりにもつながるだろう。

(※1)^ ODA実績には、支出純額(ネット)と支出総額(グロス)の二通りがある。支出純額は、支出総額から被援助国から援助供与国への貸付の返済額(回収額)を差し引いたものである。DACは一般的に支出純額を用いる。日本は円借款の回収額が大きいため、支出純額の国際比較では順位が落ちるが、支出総額では2001年までは第1位、2002年以降もほぼ一貫して第2位である。

(※2)^ Kitano Naohiro and Harada Yukinori, “Estimating China’s Foreign Aid 2001-2013″ (JICA Research Institute Working Paper No. 78, 2014), http://jica-ri.jica.go.jp/ja/publication/workingpaper/estimating_chinas_foreign_aid_2001-2013.html.

(※3)^ 本節の数値はOECD Development Cooperation Peer Reviews: Japan 2014 (Paris: OECD Publishing, 2014)のAnnex Bを基にした筆者計算に依拠している。http://www.oecd.org/dac/peer-reviews/japan.htm, http://dx.doi.org/10.1787/9789264218161-en.

(※4)^ 人間の安全保障とは、一人一人の人間を中心に据えて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威の下にある個人および地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目指す考え方(「政府開発援助に関する中期政策」、2005年)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/chuuki.html

(※5)^ 「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」とは、全ての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復のための保健サービスを、負担可能な費用で受けられることをいう。また、「防災の主流化」とは、各国政府が防災を政策の優先課題として、開発政策や計画に防災の視点を盛り込み、防災への投資を増やすことを指す。

(※6)^ 詳しくは、岡田実『ぼくらの村からポリオが消えた 中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』(佐伯印刷、2014年)を参照されたい。

(※7)^ APCDはアジア太平洋地域において障害者のエンパワーメントとバリアフリー社会を促進するタイ政府のセンターとしてJICAの支援で2002年に設立された組織である。詳しくは二ノ宮アキイエ『車いすがアジアの街を行く アジア太平洋障害者センター(APCD)の挑戦』(ダイヤモンド社、2010年)を参照されたい。

タイトル写真=「無印良品」向けのフェルト製品作りに取り組むキルギスの一村一品組合のメンバー(左)と2013年に世界で販売された携帯機器ケースなど(写真提供=良品計画)

この記事につけられたタグ:
  • [2014.08.26]

JICA研究所副所長。1983年早稲田大学理工学部卒業(1981~82年中国清華大学土木・環境工学系在籍)。1992~96年海外経済協力基金北京駐在員。1997年米コーネル大学大学院博士課程修了(都市地域計画専攻)。国際協力銀行開発金融研究所主任研究員、京都大学大学院経済学研究科助教授、国際協力銀行開発第2部長、国際協力機構(JICA)東・中央アジア部長などを経て、2012年から現職。

関連記事
この特集の他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告