特集 日本のゲーム産業の今
日本発スマホゲームで始まった新たなゲーム黄金時代

新 清士【Profile】

[2015.04.03] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」や「モンスターストライク(モンスト)」などの大ヒットで、日本のスマホゲーム市場は世界最大級になっている。その要因となった日本特有の事情を分析する。

家庭用ゲームソフトの3倍以上の市場規模

日本のスマートフォン向けゲーム市場が世界での存在感を増している。

スマホアプリ市場調査会社AppAnnie(アップアニー)によると、iPhone(アイフォーン)とアンドロイドのゲーム市場規模は、昨年10月には米国の1.33倍となり、世界最大の状態だ。大手上場ゲーム会社の売上合計から推計すると、2014年の市場規模は7000億円を超えたとみられており、2011年に3000億円程度だったことを考えると、この数年で2倍以上に成長している。

一方で、ゲーム専門誌『ファミ通』を発行するKADOKAWAエンターブレインによると、家庭用ゲームソフトウエア市場規模は2014年に2264億円。ピークだった2010年の3181億円から年々縮小が続いている。『ファミ通ゲーム白書2014』によると、スマホゲームユーザーの数は2861万人で、家庭用ゲームユーザーの2783万人を上回り、今や日本のゲームの中心はスマホゲームという状態になっている。 

ゲーム1本の大ヒットで業績激変

スマホゲームの人気は、次々に登場する大ヒットゲームがけん引している。

「パズル&ドラゴンズ」 © GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

代表格が、2012年2月にリリースされたガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」だ。パズルを解きながら洞窟を進み、自分のモンスターと共に敵のモンスターを倒していくというゲームだ。スマホならではのタッチインターフェースをうまく生かして、パズルを解くように操作する仕組みが、過去の家庭用ゲームにはなかった新鮮さを生んだことで高い評価を集め、大ヒットが続いている。

今年2月までにダウンロードされた回数は3400万回を超え、リリース以来、iPhoneのコンテンツ配信サービス「AppStore(アップストア)」のゲーム売り上げランキングで、常に首位に近い状態を維持し続けている。ガンホーの2014年12月期連結決算は、売上高が1730億円、営業利益が942億円と、3期連続で過去最高を記録する好調な状態が続いている。

1本のゲームのヒットが会社の経営状態を変化させたケースも出ている。ソーシャルネットワークサービス(SNS)のミクシィは、2013年10月にリリースした「モンスターストライク(モンスト)」の大ヒットによって、赤字状態の危機から一気に好業績へと転換することになった。

「モンスターストライク」 © mixi, Inc. All rights reserved.

モンストは、自分のモンスターをビー玉のように引っ張ってはじいて敵モンスターを倒すという仕組みになっている。これもスマホのタッチインターフェースをうまく利用した斬新なゲームシステムだ。また、近距離無線通信に対応し、顔を合わせた4人が一緒に同じゲームを遊ぶ機能が搭載されている点も画期的で、高校生や大学生を中心に口コミで人気を集めた。

2014年9~12月期のモンストの売上高は300億円を突破。ミクシィの事業全体の90%を占めるまでになっている。ダウンロード数も、日本国内だけで2000万ダウンロードに迫る勢いだ。2013年9~12月期のゲーム事業の売上高が2億6000万円にすぎなかったことを考えると、1本のゲームの大ヒットが企業の状態を劇的に変えた。2015年1~3月期の売上高は、ガンホーを追い抜く可能性まで見えてきている。

また、メッセンジャーアプリを展開するLINE(ライン)は、2014年1月から同社のゲームサービス「LINE GAME」でパズルゲーム「LINE: ディズニー ツムツム」を展開し、今年2月に世界累計4000万ダウンロードを達成している。ディズニーキャラクターのぬいぐるみの組み合わせを消していく可愛らしいゲームで、女性の人気を集めることに成功している。男女問わずにスマホゲームが定着していることを物語る代表的なゲームだ。

スマホゲーム人気の理由は圧倒的な手軽さ

「LINE: ディズニー ツムツム」 © Disney © Disney/Pixar 開発:NHN PlayArt

スマホゲームの人気は、その手軽さによるだろう。現在、iPhone向けのゲームだけで、実に30万本以上のゲームがリリースされている。ロールプレーイングゲーム、レースゲーム、アクションゲーム、パズルゲームなど、考え得るかぎりのさまざまなゲームが登場しており、日々新作タイトルがリリースされ続けている。また、スマホの性能の向上も進んでおり、「iPhone 6」はソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション3」に匹敵するほどのコンピューター性能を持っている。

家庭用ゲームを遊ぶには、ゲームショップに行くなどして、数万円のゲーム機を購入し、さらに5000円以上するゲームを購入しなければならなかった。しかし、スマホゲームの場合は、自分が遊びたいと思ったゲームを見つければ、その場でネットからダウンロードして始めればよい。また、スマホゲームの1回のプレー時間は一般的に10分程度で、場所を選ばず、通勤といった隙間時間を利用して遊ぶことができるため、気軽にプレーすることができる。

子どもの頃に家庭用ゲームを遊んでいたが、最近はまとまった時間を確保することが難しくなり、ゲームから離れていた30〜40代のユーザーが、スマホゲームの時代になって、男女とも再びゲームを遊ぶようになってきている。

そして何よりも、スマホゲームは大半が簡単に入手でき、基本無料で遊ぶことができる。ゲーム会社の収益源は、ユーザーがゲームを有利に運ぶために購入するゲーム内の特定のアイテムやキャラクターへの課金だが、実際には大半のユーザーはお金を払わないで遊ぶ。ゲームを遊ぶユーザーのうちお金を払うユーザーは、一般的に1日5%以下だ。

それでもゲーム会社は高い収益を得ることができる。ゲーム内アイテムはデータにすぎないため、製造費がほとんどゼロに近い金額であるためだ。そのため、数多くのユーザーが継続的に遊んでくれれば、一定数の課金を見込めるので、安定的に収益を得られるという特徴がある。

日本市場を特徴付ける「ガチャ課金」

さらに日本市場を成長させている特有の現象は、ユーザー1人当たりの課金金額が、世界的に見ても高い点だ。米国の3倍近く高いと考えられている。これは日本に定着したアイテム課金の仕組みの影響が大きい。おもちゃ屋やスーパーなどの店先には、お金を入れるとカプセル玩具がランダムに出てくる自動販売機(ガチャ)がよく置かれているが、スマホゲームはこれをソフトウエア的に模した「ガチャ課金」と呼ばれる仕組みを一般的に取っている。

ユーザーは、入手確率が低いレアなキャラクターやモンスターを、ガチャ課金を通じて手に入れる。一般的に1回300円が相場だ。あるキャラクターなどは、2週間程度の期間限定でのみ入手できる形が取られていることも多く、そうしたキャラクターが当たる確率は数%に設定されているのが一般的だ。

日本のユーザーは、登場するキャラクターを集めることを非常に好む。すべてのレアキャラクターを入手するために月に数万円かけて熱中するユーザーが多数現れており、これがゲーム会社の売り上げの源泉となっている。

日本で高額なガチャ課金が定着した理由は、1999年から展開されていたNTTドコモのインターネットサービス「iモード」によって、携帯電話向けコンテンツ課金が日本では定着していたことと、パチンコなど偶然性が結果を左右する娯楽にお金を払うことに慣れていた点が挙げられる。お金を払っているユーザーは、20代後半から30代の仕事を持ち自由に使えるお金がある層とみられており、趣味の一つとしてスマホゲームを遊んでいると思われる。

日本以外の地域では、ガチャ課金はそれほど人気がない。欧米圏では、お金を払った分、どの程度のメリットが得られるのかが明快に分かるアイテムが好まれ、偶然によって入手可能になるものにお金を払うことを好まない傾向があり、日本と大きく違う。地域により、ユーザーがお金を払うポイントに違いがあるのだ。

苦戦を強いられる家庭用ゲーム

スマホゲームが強くなる中、家庭用ゲームは苦戦を強いられている。特に、任天堂の苦戦が目立っている。1月28日には、2014年度連結決算の売上高予想を5900億円から5500億円に下方修正した。

携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の2014年4~12月販売台数は708万台と、前年同期の1165万台を大幅に下回った。欧米圏でのハード販売台数が伸びなかったことが原因だ。2014年は、レベルファイブの「妖怪ウォッチ」といったシリーズ全体で600万本を売り上げた大ヒットゲームが出たものの、多くの日本のゲーム会社はスマホゲームに注力しており、有力な新作ゲームの発売は見えていないのが現状だ。

さらに、据え置き型ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」は、同時期に303万台にとどまり、さらに厳しい状態だ。2012年11月の発売以来、全世界での販売台数は900万台にとどまっており、日本国内では200万台にすぎない。ゲームタイトルが持続的に登場してくるという状態ではなく、ハードそのものの失敗という厳しい状態に直面している。

任天堂は、アイテム課金モデルに否定的なスタンスを続けている。ソフトが1本5000円前後という固定価格で販売されているからこそ、子どもが安心して購入できるという考えからだ。しかし、ゲームを遊ぶために、ハードを先に購入し、さらにソフトを購入する伝統的な家庭用ゲームの販売モデルは、スマホが社会に定着し、無料でさまざまなゲームを遊べるという現在の状態に合わなくなってきている。

そして3月17日、任天堂はSNS大手のディー・エヌ・エー(DeNA)との資本・業務提携を発表した。今後、DeNAとスマホゲームを共同開発するという。家庭用ゲームにもこれまでと同様に力を入れ続けるとしているが、路線転換を迫られた格好だ。

日本発スマホゲーム、世界で通用するか

ブームに支えられる形で、スマホゲームの競争は激しくなるばかりだ。開発費が数億円かかることが当たり前となり、ゲーム内容も家庭用ゲームと遜色ない水準のものも多数登場するようになってきた。海外市場を目指す動きも積極化している。パズドラやモンストは、欧米圏や中国などアジア諸国への進出に力を入れており、日本で積み重ねられたノウハウが世界で通用するかが問われつつある。スマホゲームで始まった新しいゲームの黄金時代は、今後もまだまだ続くことになりそうだ。

(バナー写真=左から順に「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」、「モンスターストライク(モンスト)」、「LINE: ディズニー ツムツム」のゲーム画面)

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  • [2015.04.03]

ジャーナリスト。立命館大学映像学部非常勤講師。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部および環境情報学部卒業。ゲーム会社勤務を経てゲーム産業を中心とするジャーナリストに。著書に『ゲーム産業の興亡』(2013年、アゴラi文庫)。

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