特集 一票の格差と参議院問題
参議院と地域代表・投票価値の平等

只野 雅人【Profile】

[2015.06.11] 他の言語で読む : ENGLISH | العربية | Русский |

「一票の格差」是正の議論は、二院制のあり方・構造論と深く結びついている。参議院の成り立ち、権限などに着目しながら、投票価値の平等がなぜ今求められているのかを考える。

日本は「対等型」に近い二院制

議会に2つの議院が置かれる場合、両院それぞれの議員選出方法や権限は、国によって異なっている。様々な二院制の構造を分析する上で重要なのが、議院の正統性と権限との間の相関関係である。

直接選挙の第一院と間接選挙の第二院が置かれる場合、より強い民主的正統性をもった第一院に強い権限を与え、不対等型の二院制とするのが合理的であろう。たとえば、フランスでは、間接選挙で選ばれる第二院・元老院の権限は、直接選挙される第一院に劣っている。間接選挙という仕組みは、第二院の民主的正統性を減じるが、その半面、第二院に独自の機能をもたらしている。第二院が独自性を発揮し、両院の間で対立が生じた場合には、直接選挙で選ばれる第一院の優越が保障されている。

一方、アメリカのような連邦国家の場合、第二院には、連邦を構成する単位・州を代表する役割が与えられる。上院には強い権限が認められているが、それは、連邦制の原理から正当化することができよう。連邦国家の上院には、強い権限を正当化しうる基盤(正統性)があると考えられる。

日本の国会は、衆議院と参議院の2つの議院から構成され、両院がともに直接選挙によって選ばれている。なぜ直接選挙される2つの議院が存在するのか。現行憲法の草案の審議(1946年)以来、常にこの点が問われてきた。日本国憲法の二院制には、さらにもうひとつの難題がある。第二院・参議院の強い権限である。単一国家におけるほぼ対等な二院制の存在理由を説明するのは容易ではない。まずは2番目の問題から考えてみよう。

対立時の合意形成困難なシステム

憲法上直接選挙の原則は明示されていないが、日本の両院は、いずれも直接選挙で選ばれている。権限がほぼ対等ならば、両院がともに同等の民主的正統性を備えている必要がある。また両院がともに同等の民主的基盤をもつならば、両院がほぼ対等な権限をもつのは自然なことである。しかし、両院の権限がほぼ対等な場合、ひとたび対立が生じると、合意形成は極めて困難になる。1990年代以降、日本ではアメリカの分割政府と同様に、国会の分裂(ねじれ)がしばしば問題となってきた。

日本国憲法は、首相の指名、予算の議決、条約の承認については、明確に衆議院の優越を規定している。さらに、法律の議決についても、憲法59条が衆議院の優越を定めている。衆議院が法律案を可決し、参議院がそれを否決した場合、衆議院は3分の2の特別多数で、参議院の拒否権を覆すことができる。1980年代までは、日本国憲法の二院制は、衆議院が優越した不対等型の二院制であると考えられてきた。

しかし、1つの政党だけで衆議院の3分の2を超える議席を占めることは、現実には極めて難しい。衆議院で過半数の議席を占める政権党が、参議院では過半数の議席を有しない場合には、59条の規定は参議院に事実上の拒否権を与える効果を有する。

「ねじれ」が生んだ連立政権

法律の議決に関する参議院の拒否権は、衆議院の優越が保障されている他の領域にも無視できない影響を及ぼす。憲法によれば、内閣は衆議院と密接な関係をもっている。内閣総理大臣の指名には、衆議院の優越が保障されている。内閣に対する不信任と内閣による解散という仕組みも、衆議院についてのみ定められている。

しかしながら、衆議院の多数党に支持された内閣が、参議院で過半数の議席を有しない場合、参議院は政府が提出した重要法案を否決することが可能である。参議院は内閣不信任の権限を持たないが、法案に対する拒否権行使の可能性を通じて、内閣の存立を脅かすことができる。

予算の議決についても同様である。憲法は、予算の議決について、衆議院の優越を認めている。しかし、参議院が、予算の執行に必要な法案に同意を与えなければ、内閣は大きな困難に直面することになる。

このような仕組みのもとでは、両院で多数を確保することが、きわめて重要になる。1つの政党だけで両院の過半数が得られなければ、連立政府が模索されることになろう。憲法は参議院に強い権限を認めている。参議院が強い独自性を発揮すると、両院間の合意形成は困難になる。両院の「ねじれ」が顕在化した1990年代以降、日本では連立政権が続いてきた。強い権限が与えられた参議院に期待されているのは、強い独自性を発揮する第二院よりも、むしろ合意型の政治を実現する穏健な第二院としての役割であるように思われる。

地域代表としての参院の正当化難しい

参議院の権限の強さは、参議院の選挙制度の選択にも影響を及ぼす。参議院が憲法上強い権限を有しているとするならば、それにふさわしい民主的正統性を備えていることが必要であろう。民主的正統性の第一の源は、直接選挙である。さらに、民主的正統性のいまひとつの源として、投票価値の平等をあげることができよう。今日では日本に限らず、第一院の選挙については投票価値の平等が強く求められるようになっている。

問題は、第二院の選挙について投票価値の平等がどこまで求められるべきか、という点である。両院が同じように、投票価値の平等の原則に基づき直接選挙で選ばれるとすれば、なぜ2つの議院が置かれているのかが問われることになる。

たとえば第二院に対して、人口だけでなく一定の領域や地方公共団体を代表するという役割を与えることも考えられる。地域代表である。地域代表を具体化しようとすれば、投票価値の平等という原則を犠牲にすることになる。アメリカの上院は直接選挙されるが、議員数は人口にかかわらず各州2名である。このような仕組みは、連邦制という憲法上の原則と密接に関わっている。

しかし日本は連邦制国家ではない。連邦国家の州のような、明確な憲法上の地位と強い独自性を持った地理的単位は存在しない。参議院に文字通りの地域代表としての役割を付与することを正当化するのは難しい。では、地域代表を認めないまでも、投票価値の平等の原則を衆議院よりも緩和して、人口の少ない地域に手厚く議員を配分することで、参議院に独自性を与えることは許されるだろうか。

「投票価値の平等」追求は自然な結論

憲法は、衆議院(任期4年)よりも長い任期(6年)を参議院議員に保障しており、また参議院議員は半数ずつ改選される。総定数(242)を121議席ずつに二分して、それぞれについて、全国を一選挙区とする比例代表制、47の都道府県(定数1~5)を選挙区とする単記投票制を組み合わせて選挙が行われる。都道府県の間の人口に大きなばらつきがあることから、議員1人あたりが代表する人口には5倍前後―最大では6倍を超えたこともある―較差が生じてきた。

最高裁判所は、1983年4月27日の判決で、憲法が二院制を採用していることから、参議院に独自性を発揮させるため、その選挙制度に都道府県代表的な機能を加味することも許されると指摘し、最大で5倍を超える投票価値の不均衡を正当化した。判決の前提には、参議院は衆議院に比べ権限が弱く、補完的な議院であるという認識があったと思われる。

一方、2012年10月17日の判決では、最高裁判所は、参議院議員選挙にも従来よりも強く投票価値の平等を求めている。この判決は、憲法が立法など多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えていると指摘している。衆議院と参議院の権限がほぼ対等であるならば、強い民主的正統性(投票価値の平等)を参議院にも求めるのは自然な結論であるといえよう。特定の地域の人口を過剰に代表する参議院が衆議院の決定を阻止するような事態は、正当化しにくいと思われる。

投票価値の平等だけを追求すると人口の少ない地域の声が反映されにくくなる、という批判もある。しかし、同じ地域の中にも様々な意見・利益の対立があるはずである。人口の少ない地域に手厚く国会議員を配分することで、そうした様々な少数の意見・利益が当然に反映されるわけではない。

2012年の最高裁判所の判決は、投票価値の不均衡を是正するために都道府県を選挙区とする仕組みの見直しも求めている。たとえば、いくつかの都道府県を併合した選挙区を用いることなどが考えられる。今よりも規模の大きな選挙区を採用することで、複数の政党が議席を獲得しやすくなり、様々な意見・利益の反映が期待できる面もあろう。

バナー写真:国会議事堂と総理官邸、議員会館。議事堂の正面に向かって右側が参議院=2014年5月撮影(時事)

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  • [2015.06.11]

一橋大学法学研究科教授。専門は憲法学。1964年東京都生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。一橋大学法学部助教授などを経て2005年から現職。著書に『憲法の基本原理から考える』(日本評論社、2006年)、『憲法と議会制度』(共著:法律文化社、2007年)など。

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