特集 日本の女性は今
日本でシングルマザーとして生きること

赤石 千衣子【Profile】

[2015.08.12] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

最近では「貧困」「格差」を体現する存在として言及されるシングルマザー。必死で生活を維持する彼女たちの姿は、現代日本社会で女性たちをめぐる状況の縮図でもある。

「がんばっている」と「貧困」「かわいそう」のはざま

日本でシングルマザーとして生きること、それはいかなるものなのか、ニュアンスを含めて伝えるのはむずかしい。

日本でも多くのシングルマザーは、大変な状況の中でもなんとか子どもを育てているし、社会的な手当もゼロではないのでそれなりの支援も受けている。楽しみもあるし、生き生き暮らすシングルマザーもたくさんいる。他方では、貧困率54.6%に表象されているが、生活が苦しく希望がなく、なんとか生きている状態の人もいる。生活が破綻しさまざまな危機的状況に陥っている家庭もある。

しかしネット上で流布されているシングルマザーにかかわる言説は「しんどい」「貧困」か、あるいは「がんばっている」「生き生き」に分裂しているのである。どちらが本当なのだろうか。

逆境だからこそ「がんばっているシングルマザー」はいる。また、自分を表現するときにしんどいと言ったら気力が崩れてしまうような気持ちもあるのである。一方で夫の抑圧から解放されて、貧乏でも生き生き暮らしているということも本当なのである。

シングルマザーは、「しんどい」「貧困」と「がんばっている」の両極で表現される、きわどい生活をしているといえる。その生活は「学歴」「親族支援」「継続就労か否か」によって大きく異なる状況がある。

シングルマザーの大半が働くが、就労収入は低空飛行

5年ごとに行われている「全国母子世帯等調査」(厚生労働省)の2011年度調査によると、日本のシングルマザー(母子以外の同居者がいる場合も含め、20歳以下の子どもがいる母子世帯)の数は123万8000世帯(父子世帯は22万3000世帯)であり、年々増加している。1973年当時と比較すると約2倍となっている。

シングルマザーの平均年齢は40歳で、ひとり親になった経緯は、離婚によるものが80.8%で、続いて非婚の出産7.8%、死別7.5%と続く。

シングルマザーの年収は223万円である(児童扶養手当や年金生活保護費などの社会保障給付や養育費・仕送りなどを含めた額)。就労率は80.6%と高いが平均就労年収は181万円と低い。

この状況は、女性の賃金そのものが安いことが関係している。

2010年の「民間給与実態統計調査」(国税庁)によれば年収200万円以下で働く女性の割合は約43%である。しかも、年々非正規で働く男女が増え、働く女性のうち7割近くが非正規労働者である。実は、シングルマザーが貧困であるというより、女性全体が日本では貧困なのである。

日本は男女の賃金格差が大きい国であるといわれているが、特に子育て中の男女の賃金格差を見ると、日本の女性は男性よりも6割も低い数字だ。このため、日本では特に「母親であることは高くつく」といわれている(OECD 2012年の統計による)。

根強い「男性稼ぎ主システム」のしわ寄せ

こうした女性の賃金が低く、特に子育てしている女性の賃金か低いのは、「男性稼ぎ主」システムが日本に根強いからである。日本では、高度経済成長期に、長時間労働をする夫と無業あるいは補助的な仕事をして家事育児介護をすべて引き受ける妻、そして子どもという家族を標準モデルとする男性稼ぎ主システムをつくりあげた。年金の第三号被保険者、税制の配偶者控除、賃金の配偶者手当などがこのシステムを支える大きな要素である。

現在も日本の女性は、結婚と出産期に6割が退職し専業主婦となるため、女性の年齢別労働力率はM字型カーブを描き続けている。

こうした働き方と社会保障における男女の生き方を規制してきた男性稼ぎ主システムにより、もっともしわ寄せを食っているのがシングルマザーである。子育て中の女性には補助的な仕事しか与えない労働市場で、子どもを育てるために賃金を得ていかねばならない。結婚出産で仕事を辞めず継続就労してきた女性は離婚しても経済的ダメージは比較的少ない。

シングルマザーの「階層」問題

働くシングルマザーのうち、約4割が正社員等で、5割以上は非正規で働いている。この割合は年々非正規が多くなっている。

パート、アルバイトで働くシングルマザーの平均年収は125万円である。正社員で働くシングルマザーの平均年収270万円に比較して、各段に少ない。

もうひとつ注目すべきなのは、シングルマザーのいわば階層の問題である。シングルマザーのうち中学校卒業の学歴の人は比較的多く、13.3%である(シングルファーザーは15.4%)。ふたり親世帯の母親の学歴では中卒は5%であるという。

中学校卒業が最終学歴のシングルマザーの平均年収は129万円である。日本では中卒では、取得できる資格が限られており、職種も限定され、非就労の人や働いても非正規の人が多くその結果収入も低い。

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  • [2015.08.12]

約30年前非婚のシングルマザーになる。現在NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生き暮らせる社会をめざして活動中。反貧困ネットワーク世話人。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参加人。朝日新聞論壇委員。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書、2014年)、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館, 1994 年)等。

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