特集 シニア消費から見る日本の高齢化社会
シニア消費の現場から読み解く超高齢社会・日本

村田 裕之【Profile】

[2015.11.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

高齢化の進行によるシニア市場の拡大が注目されるが、高齢者たちのニーズは多様化している。具体的な消費行動から、60歳以上のシニアたちの今と将来を展望する。

日本の総人口は現在1億2683万人(2015年9月15日現在推計)で、65歳以上の高齢者人口は過去最高の3384万人、総人口の26.7%に達している。「団塊の世代」(1947〜49年に生まれた人)が65歳以上となる今年は、高齢者人口が3384万人となり、その後も増加が見込まれる。これは、見方によってはシニア市場拡大の大きな機会とも捉えられるが、「高齢者」とひと言でいっても、その実態は多様であり、シニア市場をひとつの「マス」とみることはできない。本論では、いくつかの具体的なシニアの消費行動を取り上げ、その多様化の実態と今後のシニア市場の可能性を考察する。

最近なぜ「中食」市場が拡大しているのか

近年、中食(なかしょく)市場が伸びている。中食とは調理済みの弁当や総菜などを購入したり、配達してもらったりして家庭内で食べる食事形態のことだ。リクルートライフスタイルの調査によると男性は30、40代と60代、女性は60代で中食のシェアが大きい。気になるのは、男女とも60代が活発に利用している点だ。背景には人数の多い団塊世代のライフステージが変化していることがある。

変化の一つは、退職に伴う「自宅引きこもり夫」の増加。リビングくらしHOW研究所の2011年調査では、夫が退職した50、60代の女性に「1週間のうち、夫が家にいるのはどのくらいか」と尋ねると、「ほぼ毎日」が38.5%に達した。「家にいる方が外出より多い」の25%を加え、6割以上の夫婦で夫が「自宅引きこもり派」であることがわかった。

一方、「5年前と比べて自分の時間が増えたと思うか」の質問に「減った」と答えた女性の割合は、夫が現役の場合は18.6%なのに対して、夫が退職すると31.6%に跳ね上がった。妻の自由時間が減るのは、退職した夫が自宅に長くいるために食事の世話に時間を取られるからだ。男性でも料理をする人の割合は増えているとはいえ、「団塊の世代」の夫に料理を教えるのは大変な苦労だろう。少しでも食事の手間を減らしたい、その妻の欲求が中食需要を拡大する背景になっている。

ただし、この「引きこもり夫」は多様化する「高齢者」のライフスタイルの一部にすぎない。高度成長期に同じような収入を得て同じようなライフスタイルを送ってきた団塊の世代が退職年齢になって、ライフスタイルも多様化してきた。多様化を生んでいる要因は、仕事を継続しているかどうか、加齢による肉体の変化、本人や家族のライフステージの変化などだ。シニア市場は多様なミクロ市場の集合体だと考えるべきである。いくつかの例を挙げる。

シニア消費は「朝型」と言われているが・・・

一般に高齢者の生活や消費のスタイルは「朝型」だと思われている。確かに、早朝に犬の散歩や夫婦でウオーキングをしていたり、開店前の百貨店に行列したりしているのはシニアが多い。午前7~11時はドリンクにトーストとゆで卵が付いてくるサービスで、朝型のシニア客を取り込んだ「コメダ珈琲店」のような企業もある。

しかし、ここ数年、「夜型」のシニア消費も目に付き始めた。埼玉県に住む山本次郎さん(65歳)は毎晩、仕事帰りに最寄り駅近くの食品スーパーに寄り、夕食用の総菜などを買う。「外食ばかりだとお金がかかる」からだ。

JR五反田駅(東京・品川)にほど近い居酒屋では、全員65歳以上のグループ限定の「シニア食べ放題コース」が好調だ。180分飲み放題付きで2680円という割安価格が人気を呼び、シニア層が仕事帰りや趣味の会合などで利用しているという。

シニアの夜型消費が伸びてきた大きな理由は、働き続ける高齢者が増えたことにある。総務省の労働力調査によれば、60歳以上の就業者数はここ10年増え続けており、2013年には1211万人と、15歳以上の就業者数の2割近くになっている。仕事をしている人の5人に1人が60歳以上なのだ。もちろん、希望者全員を65歳まで雇用するよう義務付ける改正高年齢者雇用安定法(2013年4月施行)も60歳以上の就業を後押ししている。また、65歳以上の就業者数も11 年連続の増加で681万人(2014年)を記録した。

最近は退職後も社会的な活動や消費に前向きな「アクティブシニア」が多く、夜型消費はさらに進むだろう。

運動で元気になると財布のひもが緩くなる

「団塊の世代」の半分は女性だが、年齢層が高くなるにつれ女性の割合が多くなる。女性のほうが男性よりも長生きだからだ。シニア市場は女性主導市場の様相が強い。

私が特任教授を務める東北大学のスマート・エイジング国際共同研究センター(仙台市)では多くの中高年を目にする。とりわけ50代から70代の女性が目立つ。センター6階に女性専用フィットネス「カーブス」があるからだ。

利用者の多くはエレベーターを使わず階段で昇り降りし、顔を合わせると大きな声で挨拶してくれる。すぐそばの大学病院のロビーですれ違う同年代の女性に比べると明らかに元気でいきいきしている。カーブスの利用者は1回30分、筋力トレーニングと有酸素運動、ストレッチで汗を流す。3カ月も通えば大抵の人は元気になっていくのだが、実はこれ以外に興味深い変化が見られる。

まず、運動着以外にも服を買うようになる。運動して痩せてスタイルがよくなるからだ。次に、靴やカバン、化粧品やアクセサリーなども買う。そして、仲間と一緒に旅行に行く頻度が増える。心身が元気になり、気持ちが前向きになるので、きれいな格好をして仲間と一緒にお出かけしたくなるからだ。

なぜ、筋トレや有酸素運動によって、こうした変化が出るのだろうか。私たちの額の奥にある大脳の前頭前野には意欲の中枢がある。実は中高年に多いうつ病や認知症を患っている人は、この部分の機能が低下している。東北大学の研究では、筋力トレーニングや有酸素運動などでこの部分を活性化すると気持ちが前向きになり、活動意欲が強まって消費も増えることがわかっている。平たく言えば、元気になると財布のひもが緩みやすくなるのだ。

米国発のカーブスだが、日本では10年間で1625店舗、会員数は71万人までに急成長した。会員の平均年齢は61歳。シニアビジネスの広がりは元気な高齢者を増やしていく。

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  • [2015.11.09]

村田アソシエイツ代表。1962年新潟県生まれ。1987年東北大学大学院工学研究科修了。民間企業勤務後、仏国立ポンゼショセ工科大学院国際経営学部修了。仏最大の国営石油会社エルフ・アキテーヌ(現トタール)勤務を経て91年 (株)日本総合研究所入社。以降、10年間に民間企業494社とともに13の異業種コンソーシアムを設立・運営し、新事業開発を推進。2002年3月村田アソシエイツ設立。09年10月東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センター特任教授に就任。米国の高齢社会研究のフロントランナーで構成されるシンクタンク The Societyの唯一の日本人メンバー。主な著書に『成功するシニアビジネスの教科書』(日本経済新聞出版社、2014年)、『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社、2012年)、『「スマート・エイジング」という生き方』(扶桑社、2012年)等。

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