特集 迷走する日本の大学
世界大学ランキングの決まり方
順位は算出方法しだい

調 麻佐志【Profile】

[2016.01.19] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية | Русский |

「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる」——。こんな国家目標を掲げる安倍政権だが、その数値目標は正しいものなのだろうか? 順位の算出方法をよく知る筆者は「ランキングに一喜一憂、右往左往すべきでない」と指摘する。

科学技術政策に入り込む世界大学ランキング

ショッキングな記事が日本経済新聞(2015年11月2日付朝刊)に掲載された。国は、今後5年間の科学技術政策の骨格を定める第5期科学技術基本計画に成果の数値目標を導入し、その数値目標となる指標の一つとして世界大学ランキングにおける日本の大学の順位を採用する。そのような内容である。

12月10日の総合科学技術・イノベーション会議・基本計画専門調査会で基本計画の答申案とともに示された案では、世界大学ランキングは「大学に関する国際比較」に置き換えられているものの、それが何を意味するかははっきりしない。もし世界大学ランキングを意味するのなら、禍根を残す選択と言わざるを得ない。

我が国で政策等の数値目標として世界大学ランキングが採用されたのは『日本再興戦略』が皮切りであり、言ってしまえば元凶である。2013年6月に、産業競争力会議が策定、公開したその成果目標の一つとして「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる」が加えられ、それに従って大学が関係する国の計画、プログラム、政策、施策の成果目標に世界大学ランキングが取り入れられることになったのだ。

規模の大きい大学ほど有利に

現在、世界大学ランキングとして、上海交通大学作成の世界学術ランキング(以下ARWU:2003〜)、Times Higher Education(THE)誌作成のWorld University Rankings(以下THEランキング:2004〜)、QS社作成のQS World University Rankings(以下QSランキング:2010(※1)〜)の3つが広く知られている。しかし、筆者はまずARWUを参照すべきでないと考える。その理由はいくつかあるが、特にランキングの基となるスコア構成要因の90%は他の条件が同じであれば大学規模に比例するよう定義されていることは致命的だ。

例えば、仮に旧七帝大が合併して一つの大学となっただけでおそらく「世界一」の大学となってしまうといった不思議な性格を有するからである。残るTHEおよびQSのランキングについても、最大のスコア構成要素である評判(reputation)が規模に依存する(※2)という点で、程度はARWUほどではないものの同様の不満はある。

THEとQSのランキング作成手法はよく似ており、2つのランキングの結果も似たような傾向を示す。しかし、今年(2015)上位100位に入った日本の大学数はTHEランキングで2大学、QSランキングで5大学であるなど、それなりに違いもある。また、筆者が勤務する東京工業大学はQSランキングで今年順位を上げて56位となったのに対し、THEランキングでは201〜250位グループへと順位を大きく下げているなど、奇妙な現象も観察される。

算出手法が似ているとはいうものの、両者が独自の観点でランキングを作成するのだから、異なる結果を示すのも当然ではある。むしろ観点によって変わり得るのが大学のランキングを含む様々なランキング、あるいは評価一般の特徴と言える。それでもなお釈然としない気持ちが残る。

日本の大学が「知名度で損をしている」との風評は誤解

具体的にTHEとQSは、表1(訳は筆者による)のような評価項目、すなわち観点で、素点となる数値を算出している。項目数に違いはあるが、いずれも評判に関するアンケート調査の結果が最大のスコア構成要因で、次いで学術論文が引用された回数から求められる被引用数(※3)に関する項目の影響が大きい。そのためか、日本の大学は知名度に劣るため、評判で損をしているのではないかとよく指摘される。

表1 ランキングの構成

THEランキング
上位項目 下位項目 ウェイト
教育 評判調査 15%
職員数/学生数 4.5%
博士号取得者数/学士号取得者数 2.25%
博士号取得者数/教育研究職員数 6%
大学収入/職員数 2.25%
研究 評判調査 18%
研究収入/職員数 6%
論文数/研究者数 6%
論文被引用数 論文被引用数/論文数 30%
国際性 留学生数/国内学生数 2.5%
外国人教員数/国内教員数 2.5%
国際共著論文比率 2.5%
企業からの収入 産業界からの研究費/教育研究職員数 2.5%
QSランキング
項目 ウェイト
学界での評判調査 40%
ビジネス界での評判調査 10%
学生数/教員数 20%
論文被引用数/教員数 20%
留学生比率 5%
外国人教員比率 5%

 

THEは評判だけに特化した評判ランキング(reputation ranking)も毎春公開しており、その結果を見ると(少なくとも東京大学、京都大学に関しては)「損」をしているというのは誤解とわかる。次のグラフは、昨年(2014)のTHEランキングの総合スコアをy軸に、同じ調査を使った今年の評判ランキングのスコアをx軸として、上位50大学のうち評判ランキングでスコアが得られた大学をプロットしたものである。曲線は対数回帰の結果で、曲線より右下に位置する大学は総合スコアに比して評判スコアが高い大学、左上がその逆と解釈できる。黄色の2大学が東京大学、京都大学で、いずれも相対的に評判スコアが高く、むしろ評判で「得」をしている。

算出方法の変更で、多くの日本の大学が順位落とす

2015年はTHEとQS、いずれのランキングでも日本の大学の順位に大きな変動があった。特にTHEランキングでは、東京大学(23→43位)、京都大学(59→88位)、東京工業大学(141→201〜250位ブロック)、大阪大学(157→251〜300位ブロック)、東北大学(165→201〜250位ブロック)など、国内大学の順位が激しく低下した。QSランキングでも、逆にランクアップした東京工業大学と早稲田大学を除き、各大学が順位をかなり落としている。この変動は、2番目の構成要因である被引用数に関する項目での算出手法変更によるものが大きい。

QSランキングでは、これまで論文の被引用数のベースラインが研究分野によって大きく異なることが考慮されていなかったのだが、2015年からそれを考慮し、補正することにした。その結果、特に生命科学・医学分野のランキングへの影響力が低下し、逆に工学の影響力が増したため、今回の変動が生じたと見られる。

一方、THEランキングでは、これまでは被引用数に対する言語や文化など国情の影響に配慮して国補正(※4)を行っていたのだが、その補正を半分に減らした。そのため、世界平均と比べて被引用数に見劣りする日本の各大学の当該項目のスコアが軒並み著しく低下してしまった。THEは被引用数以外の項目でも様々な変更を実施したため、その影響の全貌は筆者もいまだ把握することができない。

ここまでの説明で、作成主体の考え方次第で大きく変動する世界大学ランキングに一喜一憂、右往左往する必要はなく、いわんやそれを数値目標として扱うのは問題であることがお分かりいただけただろう。その上で、世界大学ランキングの背後に見え隠れする日本の大学の現状を憂慮していただきたい。

アジアの主要大学が日本を急追

この秋に、ある新聞記事に触発されて筆者が書誌情報データベースScopusから集計を行った。その結果を示す表2は、被引用数が1000回以上の論文の数(※5)を大学ごとに集計したものである(※6)

表2 1000回以上引用された論文の数

2000-14に出版 2008-14に出版
東京大学 74 19
京都大学 47 9
北京大学(中国) 14 8
シンガポール国立大学 31 16

 

2000年から直近2014年までの長期で見ると、アジアにおける東京大学、次いで京都大学の存在感は抜けているが、近年は政府から強力なバックアップを受けているアジアの主要大学に追いつかれつつある可能性が示唆される。この表に限らず、様々なデータが同じような傾向を示しており、日本の大学にも強力な支援が望まれる。

世界大学ランキングには問題もあるものの、その背後にある数値や関連データは真剣に検討すべきシグナルもまた提供している。

バナー写真:東京大学の安田講堂(左)と京都大学の時計台記念館

(※1)^ 2009年までQS社はTHEの世界大学ランキング作成に協力していたが袂を分かち、翌2010年より独自にランキングを作成・公表している。

(※2)^ 実際、2015〜16のTHEランキング1位、カリフォルニア工科大学が評判ランキングでさほど振るわないのは、規模が小さいからと考えられる。

(※3)^ THEとQSでは被引用数に関する標準化の考え方が異なり、それが日本の大学の両ランキングにおける順位の大きな違いを生み出している。

(※4)^ 国補正の方法について明確な説明がないという問題もある。

(※5)^ 通常は被引用数そのものではなく、その数の上位からのパーセンテージを目安に使うことが多いが、被引用数が1000を超える論文は突出して優れた論文とみなされる。また、その数が多いほど学問をリードする研究がなされていると考えられる。ただし、様々な要因が背後にあるので、あくまで目安と理解してもらいたい。

(※6)^ 検索時に大学名を目視で確認しているため、表記ゆれや表記ミスに由来する抜けが生じている可能性があることには注意が必要である。

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  • [2016.01.19]

東京工業大学大学院理工学研究科准教授。専門は科学計量学、科学技術社会論。1965年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程単位取得退学。博士(学術)。信州大学人文学部講師・助教授、東京農工大学大学教育センター准教授などを経て、2010年から現職。著書に『研究評価・科学論のための科学計量学入門』(丸善出版、2004年、共著)など。

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